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61話 水族館にて

「んんっ……ふぁあ~」


 目が覚めたわたしは目を擦りながら起き上がる。


「あれ? 遥先輩?」


 横を見るとわたしの隣で眠って居たはずの遥先輩の姿が無かった。


 まさか、寝顔を見られるのが恥ずかしいからって、わたしが眠った後で別の部屋に移動したのでは? と考えながら部屋を出た。


 部屋を出ると一階から物音が聞こえ、わたしは階段を降り、物音のする方へと向う。


「あっ、瑠璃華さんおはようございます。よく眠れましたか?」


 テーブルに朝食を並べているところだった遥先輩は、わたしに気付き話しかけて来た。


「おはようございます遥先輩。とっても良く眠れましたよ」


「それは良かった。ふぁあ~」


 遥先輩は口を押さえながら大きな欠伸をした。


 遥先輩には珍しいなと思って遥先輩の顔を見ると、遥先輩の目元には薄っすらと隈がある事に気付いた。もしかして、あまり眠れなかったのかな?


「あの、遥先輩。隈が出来てますけど、あまり眠れなかったんですか?」


「えっ!? ほ、本当ですか? や、やだ、恥ずかしぃ。る、瑠璃華さん、朝食はテーブルの上にありますので先に食べていて下さい!」


「あっ、遥先輩」


 手で顔を隠しながらそう言った遥先輩は、足早に洗面所の方に逃げて行った。


 そんなに気にしなくてもいいのにと思いながら、わたしは椅子に座り遥先輩が用意してくれた朝食を食べ始める。


 食事を始めてしばらくして、遥先輩が洗面所から戻ってきた。


 遥先輩の顔を見ると、目の下にあった隈はメイクをしたのか、綺麗さっぱり消えていた。


「遥先輩、メイクしたんですね」


「ええ、まさか隈が出来ているなんて思ってもいませんでした……あはは……」


 遥先輩は恥ずかしそうに笑っている。


「隈が出来るなんて、眠れなかったんですか?」


「は、はい……お恥ずかしながら……理由は聞かないで下さい……」


 そう言いながら遥先輩はわたしの向かいの席に座った。


 聞かないで下さいと言われると余計に気になるんけど、話してくれないだろうから、今日の予定についてでも聞いてみよう。


「遥先輩。今日は水族館に行くんですよね?」


「はい、今日行く水族館は大きな水槽やトンネル水槽などがある素敵なところなんですよ」


「へぇ~そうなんですね。今から行くのが楽しみです」


「ふふ、楽しみにしてて下さいね。あっ、もちろんイルカショーもやっていますよ」


 その後、朝食を済ませたわたしと遥先輩は水族館に行く準備をして、予約していたというタクシーに乗り込み水族館へと向かった。



 ◆◆◆



 タクシーに乗って30分ほど経ち、わたし達は水族館に到着した。


「遥先輩、着きましたよ。早く中に入りましょうよ!」


 久しぶりの水族館にワクワクが抑えられないわたしは、遥先輩の手を引く。


「瑠璃華さん。そう急がなくても楽しむ時間は沢山ありますよ」


 遥先輩の手を引きチケット売り場へと向かい、チケットを購入し中へと入る。


 中に入ればまず最初に目に入ったのは、海の生き物とふれあえるコーナーだった。


「遥先輩。まずはあっちに行きませんか?」


「生き物とのふれあいコーナーですね。瑠璃華さんが行きたいのであれば良いですよ……」


 イマイチ乗り気でない感じのする遥先輩を連れて、ふれあいコーナーへと向う。


 ふれあいコーナーには数種類のヒトデとナマコがいた。


 わたしは早速、手を入れてヒトデやナマコを触る。感触は種類によって違い、硬かったりブヨブヨと何とも言えない触り心地だ。


「あれ? 遥先輩は触らないんですか?」


 遥先輩の方を見ると遥先輩は見ているだけで、手を入れようともしていなかった。


「ええっと……じ、実は私、ここに来てもふれあいコーナーでは見ているだけでして、奏は楽しそうに触っているんですが……」


 どうやら遥先輩はヒトデやナマコに触るのに抵抗感があるみたい。だから、ふれあいコーナーに行くか聞いた時、乗り気ではなかったのか。


「そうなんですね。あの遥先輩、無理にとは言いませんが少しだけでも触ってみませんか? 指でつつくだけでも良いですから」


「瑠璃華さんがそこまで言うのであれば……が、頑張ってみます」


 そう言って遥先輩は後ろに回していた手を水面に近づける。


「遥先輩。今わたしが触っているヒトデに触ってみましょう。噛んだりしないですし大丈夫ですよ」


「は、はい……」


 遥先輩は恐る恐る人差し指でヒトデに触れる。


「遥先輩どうですか?」


「お、思っていたよりも硬くて生き物って感じはしないんですね。意外です」


 そう言いながら遥先輩は、興味深そうにヒトデをつついている。


 遥先輩の様子を見て、大丈夫そうだと思ったわたしは近くに居たナマコを薦めてみる。


「遥先輩、このナマコも触ってみて下さいよ。面白い触り心地ですよ」


「そうなんですか? じ、じゃあ……」


 遥先輩はつんつんとナマコをつつく。


「あっ、瑠璃華さんの言う通り、何とも不思議な触り心地です」


 この後、しばらく触ることに馴れて来た遥先輩とふれあいコーナーで生き物と触れ合った。



 ◆◆◆




「ふれあいコーナー楽しかったですね。遥先輩」


「そうですね。今まで抵抗感があって見ているだけでしたが、実際に触ってみると良いものですね」


 そんな話をしながらわたし達はふれあいコーナーを離れ、熱帯魚などが泳ぐ水槽が並んでいるコーナーへとやって来た。


「ここに有る水槽には綺麗な魚が沢山いますね」


 わたしの目の前の水槽には色とりどりの魚が、サンゴや岩場の陰に隠れて居たり、広い水槽の中を泳いでいた。


「ええ、まるで沖縄の海に居る様でとても良いですね。瑠璃華さんはこの水槽で何か気に入った魚はいますか?」


「そうですね……あっ! あの岩の隙間から顔を出している魚、何だか愛嬌があって結構カワイイかも」


 わたしが指さしたのは、口や背びれが黄色で体が綺麗な青色をした魚。岩の隙間から大きな口を開けた状態で顔を出していて、何だか面白い顔をした魚だと思った。


「あれですね。確かに綺麗な青色が目立つ魚ですね。えっと、あの魚の名前は……ハナヒゲウツボって言うらしいですよ」


「へぇ~。ハナヒゲウツボって言うんですね。でも、どうしてそんな名前なんでしょう?」


「そのことに関しても載っていますね。どうやら鼻先の管が花びら状に開くことからその名前が付けられたみたいですね」


 それを聞いてわたしは良く目を凝らしてハナヒゲウツボを見てみると鼻先に花のように開いている部分を見つける。


「確かに花のような物が鼻先についています。なるほど、これが名前の由来なんですね。面白い……」


「ふふ、気に入ったみたいですね。調べてみましたが一般でも飼育できるみたいですよ」


「そうなんですね。でも、魚の飼育って管理が大変そうな印象ですし、わたしには無理ですね」


「私も詳しくは無いですが、以前お母さんがアクアリウムカフェと言うものがあると聞いて、やってみようとしたみたいですが、管理を含めたコストを考えると難しいということで結局諦めたようですね」


「へぇ~。そんなカフェもあるんですね。一度で良いから行ってみたいです」


「流石に私達が住んでいる地域にはありませんね。ですが、この水族館には大水槽を眺めながらお茶を楽しめるカフェがありますから、この後行きましょう」


 そんな素敵なカフェがこの水族館にあるなんて、これはもう行くしかないよね。


「そんな素敵なカフェがあるんですね。今から楽しみです」


 その後も色々な水槽を見て周り、次にやって来たのは深海の生き物が展示されているコーナー。


 深海の生き物を展示しているためか、他の場所よりも薄暗い。


「ここは深海魚などを展示しているので薄暗いですね。あの、瑠璃華さん。転ぶといけませんし、手を繋ぎませんか?」


「それもそうですね。それじゃあ、繋ぎましょうか。はい」


 わたしは遥先輩に手を差し出す。遥先輩は差し出したわたしの手を握り水槽を見て周る。


 水槽には先ほどまで見ていた魚などとは違った個性的な見た目をした生き物が多く、見ていて飽きない。そんなわたしの前にネットでよく話題になっていた生き物の水槽で立ち止まった。


「あっ、これってダイオウグソクムシですよね。わたし生で初めて見ました」


「ああ、私も知っていますよ。全く動かないらしいですね」


「そうみたいですね。それにしても大きい……ダイオウって名前についているのも納得できます」


「確かに……でも、大きすぎて私は少し苦手ですね。足も多いですし……」


 そう言われると確かに大きくて足も多いから、苦手な人も沢山いそうな見た目だ。わたしはそこまで抵抗感も嫌悪感も無いんだけど、水槽越しだからかな?


「遥先輩の言う通り、そう思う人も多そうですね」


「瑠璃華さんは平気なんですか?」


「はい。わたしはそこまで苦手だと感じませんね」


「そうなんですね。そういえば、この水族館の販売所でダイオウグソクムシのぬいぐるみが販売されているって聞きましたよ」


 へぇ~。もし可愛かったら買っても良いかも。


 そんなことを考えながら、わたし達は深海コーナーを後にして、この水族館の目玉の一つである大水槽を目指した。

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