55話 海を満喫する2人
最近、更新が遅くてすいません。
波打ち際までやって来たわたしと遥先輩。打ち寄せる波がわたしの足元までやって来る。
「あっ、思っていたより冷たいですよ。遥先輩」
「ええ、これならこの暑さでも十分に遊べますね。瑠璃華さん、泳ぎますか?」
「う~ん……」
泳ぐのも良いと思うけど。今ここに居るのはわたしと遥先輩の2人。もし何かあった時のことを考えたら、あまり深い所に行くも良くないだろうから泳ぐのはやめよう。
「泳ぐのも良いですけど、ここにはわたしと遥先輩しかいません。もし何かあったら大変ですし、泳ぐのはやめておこうと思います」
「ふむ、確かに……では、浅瀬で遊びましょうか。あっ、そういえば、お母さんが用意した物の中に……。瑠璃華さん、少し待っていて下さい」
そう言うと遥先輩は別荘に小走りで戻って行った。
一体なにを持って来るんだろうと思いながらも、夏の暑さに負けたわたしは涼むために海に入ることにした。
「ああ~。冷たくて気持ち良い~」
海水が膝下ぐらいまで浸かる場所で、わたしはしゃがみ込むと両手で海水を掬い取る。
太陽の光でキラキラと輝いてとても綺麗……折角、海に来たんだから思いっきり楽しまないと損だよね。
何年も行っていなかった海に来て浮かれているわたしは、バシャバシャと1人で遊びながら遥先輩が戻って来るのを待つ。
わたしが遊び始めてしばらく経った頃……。
「瑠璃華さ~ん。お待たせしました~。はぁ、はぁ……」
遥先輩の声が聞こえたので、わたしはその方向に視線を向ける。
「あっ! 遥先輩。先に楽しんでっ、ふに゛ゃ!?」
遥先輩の姿が見えたと思って声を掛けた次の瞬間、わたしの顔に勢いよく水が掛かった。
えっ!? い、一体何が起こったの!?
驚いて固まっているわたしの方に、物凄く申し訳なさそうな表情をした遥先輩が駆け寄って来る。
「ご、ごめんなさい! 瑠璃華さんを少し驚かせようと思って、体を狙ったんですが外してしまい……ワザとではないんです! 本当にごめんなさい!」
勢いよく頭を下げて謝る遥先輩。その手には2つの水鉄砲が握られていた。
「大丈夫ですよ、遥先輩。ワザとじゃないのはわかってますから、謝らないで下さい。それで、遥先輩が持って来たその水鉄砲は?」
「は、はい。これはお母さんが前以て別荘に準備させていた物の中に、水鉄砲があったのを思い出したので持ってきました。瑠璃華さんはどれが良いですか?」
遥先輩は大きな水鉄砲と、それよりも一回り小さい水鉄砲をわたしに見せてくる。
どれにしようかな? 大きい水鉄砲の方が良いとは思うけど、わたしが持つには大き過ぎるから、小さい方にしよう。
「う~ん。それじゃあ、その小さい方を下さい」
「わかりました。はい、どうぞ。ここに来る前に水は入れてありますので、そのまま使えますよ」
水鉄砲を受け取った後、わたしと遥先輩は示し合わせたかのように距離を取る。
「それじゃあ、始めましょうか。瑠璃華さん」
「は~い」
こうして始まった水鉄砲による水の掛け合いは想像以上に盛り上がる。
「えい!」
遥先輩を狙って水を掛ければ。
「きゃ、やりましたね~。お返しですよ瑠璃華さん。それ!」
普段の遥先輩からは考えられない様なテンションで、はしゃいでいる。その表情はとても楽しそうなのが一目でわかるほどだった。
水を掛け合っているお陰で暑さが和らぎ、わたしと遥先輩は無我夢中で水鉄砲で遊び、夏の海を満喫していた。
そんな中、遥先輩の持っている水鉄砲から発射された水が又してもわたしの顔に見事にヒットする。
「きゃ!」
水の勢いに負けたわたしは体勢を崩してしまい、水飛沫を上げて尻もちをついた。
「だ、大丈夫ですか!? 瑠璃華さん!」
遥先輩はわたしの方へ駆け寄ると心配そうに声をかけた。
「大丈夫です。心配しないで下さい」
「そうですか、良かった」
安堵している遥先輩に対して、わたしは先ほど驚かされた仕返しをしようと思いつく。
「あの、遥先輩……」
「はい、なんでしょう?」
遥先輩は不思議そうにわたしの事を見ている。
「さっきのお返しです……」
「へっ? るりかっ、きゃ!?」
わたしは遥先輩に両手で勢いよく水を掛けた。
驚いた遥先輩は体勢を崩して、わたしと同じく水飛沫を上げて尻もちをつく。
「もう! 瑠璃華さん! 急に水を掛けるなんて、ビックリしましたよ!」
遥先輩は抗議しているが、その表情は何だか楽しそうだった。
わたしは立ち上がり、遥先輩の方へと歩み寄る。
「すいません遥先輩。さっきの仕返しをしようと急に思いついちゃって。はい、わたしの手を掴んで下さい」
そう言って遥先輩に手を差し出す。
「あ、ありがとうございます。ふふ……」
遥先輩は差し出したわたしの手を握る。しかし、何故かその表情は悪戯を思いついた子供のようで……。
「あ、あの……遥先輩。わたし、何だか嫌な予感がするんですが……」
「ふふ、それじゃあ私も瑠璃華さんに仕返ししちゃいますね。えい!」
「わっ!?」
遥先輩に勢いよく手を引っ張られたわたしは、遥先輩の方に倒れ込む。
「に゛ゃ! んんっ!?」
倒れたわたしの顔に何か柔らかい物が当たった……こ、これって……もしかして……。
「は、遥先輩!? 急に何するんですか!? そ、それと……す、直ぐに離れますから、わたしの背中に回している手をどけて下さい! そ、その……遥先輩の胸が……か、顔に……」
今、わたしの顔は遥先輩の胸の中にある。起き上がろうにも遥先輩がわたしの背中に手を回していて、離れることが出来ない。どうしてこうなった!?
「ふふ、驚かせてすみません瑠璃華さん。私も出来心でつい……」
「そ、それについてはわたしも悪いので気にしないで下さい。それで、その……もう一度言いますけど、は、離れませんか? 遥先輩の……む、胸が顔に当たってて……んんっ」
倒れ込んだわたしを受け止めたからだろうか。今のわたしは遥先輩に抱きしめられているような体勢になっている。そのため、わたしから離れることができない。
まさか、遥先輩とこんな場所で抱き合う事になるとは……わたしはどうも抱きついた状態でいると、いつも異常に甘えたいという感情が大きくなるみたいで、今も甘えたくなってきている。
ああ、そういえば以前にもこんな事があったなと甘えたい衝動を抑えながらわたしは思い出す。以前はメイド服を着ていた遥先輩にわたしが抱きついた訳だけど。今回は水着で地肌が直接触れ合っているような状況だ。
メイド服越しでは感じる事の出来ない感触や体温などが伝わり、わたしはドキドキすると言う表現では足りないほどの気持ちにも襲われる。
流石に炎天下の中、浅瀬で水着姿の女子が抱き合っていることも可笑しな光景な気がするのに、わたしが甘えてしまったら、さらに異様な光景になる気がする。
ああ……何だか顔が熱くなってきた……。たぶんこれは夏の暑さのせい……じゃない気がする。
そんなことを考えていると……。
「ふふ……そうですね。そろそろ、海から上がりましょうか」
遥先輩はわたしの背中に回していた手を退ける。
わたしは立ち上がり。再度、遥先輩に手を差し出す。
「また、引っ張ったりしないで下さいね」
「ふふ、流石にもうしませんよ」
遥先輩は差し出されたわたしの手を取り。わたしは遥先輩の手を引っ張って立ち上がらせる。
「瑠璃華さん、ありがとうございます。さて、ビーチパラソルの所に戻りましょう。ジュースを用意しているんですよ」
「やったー! わたし、喉乾いてたんですよ」
わたしと遥先輩は海から上がり、ビーチパラソルを目指して歩き出す。
◆◆◆
「ふぅ……」
ビーチパラソルまで戻って来たわたしは、ビーチベッドに腰を下ろして一息つく。
「今、飲み物の用意をするので少し待ってていて下さいね」
遥先輩はクーラーボックスの蓋を開け、その中からグラスを2つ取り出し小さなテーブルの上に置くと、クーラーボックスに再度手を入れる。
わたしは缶ジュースでも出して来るのかと思っていたけど、グラスの後にクーラーボックスから出てきた物は、高そうな瓶のボトルに入ったジュースだった。
そのボトルに貼ってあるラベルには、美味しいと評判でわたしも一度は食べてみたいと思っていたリンゴを使っているみたい。
「それって美味しいって評判のリンゴを使っているジュースじゃないですか」
「瑠璃華さんはこのジュースに使われているリンゴを知っているんですね」
「はい、わたしも一度は食べてみたいと思っていたんですよ。それをジュースで飲めるなんて思いませんでした。楽しみだな~」
「ふふ、少し待ってて下さいね~」
遥先輩はグラスにジュースを注ぐとストローをさして「どうぞ」とわたしにグラスを差し出して来る。
「ありがとうございます」
受け取ったわたしはストローを口に咥えて飲む。
飲んだ瞬間、リンゴの風味が口一杯に広がる。スーパーなどで売られている物よりも圧倒的な風味に驚いたわたしだったが、さらに驚いたのはその甘さ。まるで砂糖が入っているんじゃないかと思うほどに甘かった。
これが美味しいと評判のリンゴを100%使ったジュース……強いリンゴの風味と甘さが合わさり、すごく美味しい!
あまりの美味しさに無言で飲んでいるわたし。
「ふふ、瑠璃華さん。美味しいですか?」
「はい! 今まで飲んだリンゴジュースの中で一番美味しいです!」
「それは良かった。瑠璃華さんが美味しそうに飲んでいるのを見て私も飲みたくなっちゃいました」
「あっ、遥先輩も飲みますか?」
遥先輩にこのジュースの美味しさを早く知って欲しいと思ったわたしは、自分が飲んでいたグラスを遥先輩の前に差し出す。
「えっ、いいんですか?」
「はい、いいですよ。美味しい物は共有するべきです」
「そ、そうですか? それじゃあ……いただきます」
遥先輩はわたしが差し出したグラスに顔を近づけ、ストローを咥えて飲んだ。
「確かに瑠璃華さんの言う通り、とても美味しいですね。あっ、私が飲んだせいで瑠璃華さんが飲む分が減ってしまいましたね。今、注ぎますから」
遥先輩はわたしのグラスにジュースを注ぐ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。折角ビーチベッドもある事ですし、ジュースを飲みながらゆっくりしましょう」
「そうですね。もっとバカンスを楽しまないとですね」
わたしと遥先輩はそれぞれビーチベッドに横になり、波の音を聞きながらジュースを飲んだり、話をしたりして過ごした。
◆◆◆
一体どれくらいの時間が経ったんだろうか。
わたしは段々と気温が上がってきているのを肌で感じ始める。
「あの、遥先輩。そろそろ戻りませんか? 気温も上がって来てるみたいですし」
「そうですね。私もそう思っていたところです。それに昼食の準備もしないといけませんから戻りましょうか」
わたしと遥先輩は荷物を持って別荘まで戻った。




