54話 水着と日焼け止め
脱衣所に入ったわたしは、この日のために買ったフリル付きの白と水色の水着に着替える。
本当は恥ずかしいからパーカーをその上から羽織ろうと思ったけど、家に忘れてきたことにキャリーバッグを開けてから気付いた。
流石に恥ずかしがって脱衣所に引きこもる訳にもいかないし、どうせ海に入る時に見られるのだから、恥ずかしがってもしょうがないと観念して、わたしは着替え終わった事を遥先輩に伝えることにした。
「は、遥先輩。着替え終わりました」
「わかりました。それじゃあ瑠璃華さん。外で待っていて下さいね」
そう言われたわたしは、もう一方のドアから別荘の外に出た。
ドアを開けた瞬間、蒸し暑い熱気がわたしを襲う。
「うっ、今日も暑いなぁ……」
外に出て直ぐなのに、もう汗をかき始めている。それほど外は暑かった。
わたしは持っていたタオルで汗を拭くが、その間にも太陽の日差しと熱気がわたしを襲い。汗がどんどん出て来る。
少しでも暑さと眩しさを和らげようと、持ってきたリボンが付いた麦わら帽子を被り、バカンスなんだからと気取って買ってみたセレブや芸能人が掛けていそうな大き目のサングラスを掛けた。
このサングラス、正直言ってわたしには全く似合っていない。鏡で見た時、まるで子どもが背伸びして大人ぶっているようにしか見えなかった。
そんな似合わないサングラスを持ってきた理由は、似合わなくてもバカンス気分が味わえる気がしたからだ。
そんなわたしの姿に遥先輩がどんな反応をするのか期待と不安に苛まれながら待っているのだけど……やっぱり、暑い! 汗が止まらないよ。
「流石にここで遥先輩を待つのは……ムリ……」
何処かに日陰は無いかと見回すと、遥先輩がお気に入りの場所だと言っていたオープンテラスに、パラソル付きのテーブルと椅子を見つけた。そこで遥先輩を待とうと思い移動して座る。
「あぁ……いいかも……」
暑いけど日差しが遮られるだけで感じる暑さは段違いだ。
ここで遥先輩を待とう……それが良い……。
椅子に身体を預けてくつろぎながら待つこと数分……。
「お待たせしました瑠璃華さん。暑かったでしょう」
声のする方を見れば、遥先輩がわたしの方に歩いて来る。
その姿は黒色のビキニに、つばの広い白色の帽子を被り、わたしと似たようなサングラスを掛けていた。
遥先輩はそのスタイルの良さもあって黒色のビキニが良く似合っていて、まるでモデルや女優のように美しく、被っている帽子や掛けているサングラスがより一層それを際立たせていた。
掛けている人間が違うだけでこうも違うのかと心の底から感心した。
そんな遥先輩に見惚れていたわたしは、遥先輩がクーラーボックスを肩から掛けていて、その手には袋を持っている事にようやく気付いた。
「大丈夫です。それよりも遥先輩、荷物持ちますよ」
「ありがとうございます。では、この袋を持ってくれますか」
遥先輩から袋を手渡される。気になって中を覗いて見ると日焼け止めなどが入っているみたい。
わたしが袋の中身を確認していると視線を感じて遥先輩の方を見る。
遥先輩はわたしのことをジッと見ていたけど、わたしと目が合うと慌てたように視線を逸らした。その顔は少し赤くなっている。
「あの、遥先輩。わたしを見てどうしたんですか?」
「えっ! あの、えっと……る、瑠璃華さんの水着姿が、か、可愛くてつい……見てしまいました……」
遥先輩は下を向きながらそう言った。
下を向いているから、遥先輩の表情を窺い知ることは出来ない。でも、遥先輩の長い黒髪の隙間から見える耳が赤みがかっている様に見えたが、水着姿を褒めて貰えたことが嬉しかったわたしは一切気にすることは無かった。
「そ、そうですか? えへへ……。は、遥先輩も水着が似合ってて、とても綺麗ですよ。まるでモデルや女優みたいです」
わたしが遥先輩の水着姿を褒めれば、遥先輩は嬉しそうに笑っている。
「大好きな瑠璃華さんが褒めてくれた……。ふふ、嬉しい……もっと頑張って瑠璃華さんといずれ……」
「遥先輩、何か言いましたか?」
「えっ!? な、何でも無いです。さぁ、早くビーチパラソルの所まで行きましょう!」
遥先輩はそう言って、わたしの袋を持っていない方の手を握ると、ビーチパラソルに向って歩き始める。
「は、遥先輩! そんなに引っ張らないで下さいよ~」
遥先輩に手を引かれながら歩いていると遥先輩が話しかけてくる。
「あっ、瑠璃華さん。砂に足を取られて転ばないように注意して下さいね」
「はい、気をつけまっ!?」
遥先輩に気を付ける様に言われた直後、砂に足を取られて転びそうになったが、なんとか転ぶこと無く踏みとどまった。
あ、危なかった……。危うく手を繋いでいる遥先輩を巻き込んで、真夏の太陽で熱せられた砂にダイブするところだった……。
「ふぅ、あ、危なかった……」
「瑠璃華さん大丈夫ですか?」
遥先輩が心配そうに声をかけてくる。
「は、はい、大丈夫です」
「良かった。次は気をつけて下さいね」
「はい。気を付けます」
ちょっとしたハプニングもあったけど、わたしと遥先輩はビーチパラソルの場所まで辿り着いた。
遥先輩は肩に掛けていたクーラーボックスを降ろし、帽子とサングラスを取った。
「ふぅ、今日も暑いですね~」
遥先輩はそう言いながらタオルで汗を拭いている。その姿がなんとも色っぽく見えたわたしはドキッとしてしまう。
ああ、わたしはなんて事を考えているんだ!
「どうしました瑠璃華さん?」
「ふぇ!? な、なんでもないです! それよりも遥先輩の言う通り暑いですね~。午後からはもっと暑くなるらしいですよ~」
遥先輩が色っぽくて見惚れてました~。なんて言える訳が無いわたしはベタな話題で誤魔化す。
「そうなんですか? それなら今遊ぶのが正解ですね。瑠璃華さんも帽子とサングラス外したらどうですか?」
遥先輩にそう言われて、帽子とサングラスを取ったわたしは、2脚あるビーチチェアの1つに置く。
「それじゃあ、海に入る前に日焼け止めを塗りましょうか。瑠璃華さん、袋の中に日焼け止めが在るので先に使って下さい」
わたしは袋から日焼け止めを取り出し塗っていくが、流石に背中を一人で塗るのは大変だ。どうしよう……。
「瑠璃華さん。一人で背中に塗るのは大変でしょうから、私が日焼け止めを塗ってあげますよ。実はこのビーチチェアはこうするとベッドになるんですよ。ここにうつ伏せで寝て下さい」
遥先輩はビーチチェアを操作してビーチベッドして、わたしにうつ伏せに寝るように言う。
は、遥先輩がわたしに日焼け止めを塗ってくれる……。そ、それってつまり……わたしの肌に遥先輩が触れると言う事……。な、何だか急にドキドキしてきた……。
「わ、わかりました」
遥先輩に言われるがまま、わたしはビーチベッドにうつ伏せの状態で寝そべる。
「それじゃあ、瑠璃華さん。動かないで下さいね」
「は、はい。お、お願いします」
遥先輩の柔らかい手がわたしの背中に触れる。ただ日焼け止めを塗って貰っているだけなのに凄くドキドキするんだけど!? そ、それに日焼け止めを塗っているだけなのに、まるでマッサージをされている様でとても気持ちいい……。
「んっ、んんっ……」
や、ヤバイ、変な声が出ちゃったよ。は、遥先輩に聞かれてないよね?
「瑠璃華さん。どうですか? 日焼け止めを塗るついでに簡単なマッサージをしているのですが」
やっぱりかぁ~。そりゃ、気持ちいい訳だよぉ~。
「ふぁい、きもちいいでしゅよ……あぁ~」
あまりの気持ち良さと心地良さで呂律すら回らなくなってしまった。流石、遥先輩である。
「はい、終わりましたよ」
わたしはビーチベッドから起き上がりお礼を言う。遥先輩は暑さのせいか、顔がさっきよりも赤くなっていた。大丈夫かな?
「次は私の番ですね」
遥先輩は日焼け止めを黙々と塗っていく。
そんな遥先輩を見たわたしは、遥先輩も背中に塗るのは大変だろうし、わたしが塗ってあげようと考える。
「遥先輩、今度はわたしが背中に塗ってあげますよ」
「い、良いんですか? そ、それじゃあ、お願いします」
遥先輩はわたしに日焼け止めを渡すと、ビーチベッドにうつ伏せになった。
日焼け止めを受け取ったわたしは、遥先輩の背中に日焼け止めを塗ろうとするが、背中に触れようとすると、何故かドキドキしてしまい手が止まってしまう。
遥先輩の水着姿を見てから、遥先輩のことを意識してしまっているみたいだ。大丈夫! 女の子同士なんだから普通だよ、普通。
「瑠璃華さん、どうしました?」
「へっ!? な、何でも無いですよ。それじゃあ……い、いきますよ……」
わたしは遥先輩の背中に日焼け止めを塗り始める。それはまるで、割れ物を扱うような慎重な手つきでわたしは塗っていった。その間、わたしは終始ドキドキしっぱなしである。
「は、遥先輩。お、終わりました……」
「ふふ、ありがとうございます瑠璃華さん。あれ? 顔が赤いですがどうしました?」
ビーチベッドから起き上がった遥先輩はわたしの方を見てそう言った。
どうやら、わたしの顔が赤くなっているみたいだ。どおりで顔が熱い訳だ。
「い、いえ……何でもありません……。ただ、暑かっただけです。日焼け止めも塗ったので、早く海で遊びましょう」
「そうですね。そうしましょうか」
わたしと遥先輩はビーチパラソルから出て、波打ち際へと向かった。




