53話 遥先輩と海の見える別荘へ
「おはようございます。瑠璃華さん」
「……おはようございます。遥先輩……ふぁ~」
「ふふ、大きな欠伸ですね。6時に迎えに来るのは早過ぎましたね」
今の時刻は6時を少し過ぎたくらい。これから向かう別荘はここから車で2時間程の場所に在るらしく、遥先輩と話し合って早めに行けばその分だけ遊べるだろうということで、この時間に遥先輩がタクシーで迎えに来てくれました。
「……迎えに来る時間は問題ないですよ。別荘に行くのが楽しみであまり眠れなかったせいですから」
「ふふ、瑠璃華さん。子どもっぽいですね」
「い、良いじゃないですか。楽しみだったんですよ。そんな事よりも荷物を載せて早く行きましょう」
遥先輩に手伝って貰い荷物を載せてタクシーに乗り込み、目的地に向かって出発する。
出発して直ぐにわたしは睡魔に襲われ、ウトウトし始める。遠足が楽しみ過ぎて眠れなかった小学生の様な事になってしまった結果である。
でも、遥先輩と二泊三日も別荘で一緒に過ごすのだから、そうなってしまうのも仕方ないとわたしは思うのだ。
「瑠璃華さん。眠いのであれば私に身体を預けて眠って下さい」
「……そうですか? じゃあ……」
わたしは遥先輩の膝に頭を乗せる。
「ふふ、瑠璃華さん。到着したら起こしますからね。お休みなさい……」
遥先輩に頭を撫でられながらわたしは眠りについた……。
◆◆◆
「瑠璃華さん、瑠璃華さ~ん。起きて下さ~い。到着しましたよ」
「んん……ふぁ~。遥先輩、おはようございます……」
目を覚ましたわたしは目を擦りながら起き上がる。タクシーの窓から日光が差し込み眩しくて目を細める……。
「ふふ、おはようございます。到着したので降りますよ」
遥先輩が先にタクシーから降りるとわたしに手を差し出す。わたしは差し出された手を取りタクシーから降りた後、荷物を取り出す。
遥先輩の荷物が多く見えるのは気のせいかな? 一体何を持って来たんだろう……。遥先輩の事だから『アレ』も持って来たんだろうか?
「瑠璃華さん、ここが我が家の別荘です」
目の前には遥先輩の家よりも一回りほど大きな白い家が建っていた。
「白くて綺麗な別荘ですね」
「瑠璃華さんもそう思いますか。私もこの別荘はとても気に入っているんです。特にオープンテラスが私のお気に入りなんですよ。さぁ、入りましょう瑠璃華さん」
遥先輩はドアを開けるとわたしを招き入れる。
中に入って明るく開放感溢れる玄関を抜けて先に進めば、遥先輩のお気に入りと言うオープンテラスへと続くリビングの大きな窓から白い砂浜と光輝く海が見えた。
「海がキラキラ輝いていて、とても綺麗ですよ。遥先輩」
「ふふ、気に入ってくれたみたいですね。ここは夕日に照らされた海も綺麗ですし、月明かりに照らされた海はとても幻想的なんですよ。その時には一緒に見ましょうね」
「はい! えへへ、今から楽しみです!」
寝起きで低かったわたしのテンションも、窓から見える光輝く海のお陰ですっかり元通りです。遥先輩の言っていた夕日や月明かりに照らされた海も今からとても楽しみだな~。
「瑠璃華さん。海を楽しむのは荷物を置いてからにしましょう。私について来て下さい。お部屋に案内します」
遥先輩の案内で二階に在る部屋の一つへとやって来た。ここからも海が眺められてとてもいい部屋です。
「瑠璃華さん。荷物を置いたら一階に降りて待っていて下さい。私も隣の部屋に荷物を置いてから降りますので」
「あれ? 遥先輩は隣の部屋なんですか?」
「はい、そうですけど。それがどうかしましたか?」
わたしはてっきり遥先輩と一緒の部屋で過ごすのかと思ったんだけど、違ったみたい。
「わたし、遥先輩と一緒の部屋で過ごすのかな~っと思ったんですけど、違うんですね」
わたしがそう言うと少し驚いたような表情をする遥先輩。
「えっと、その言い方だと……つ、つまり瑠璃華さんは私と一緒の部屋で寝泊まりしても良いってことですか?」
「はい。その方が遥先輩と沢山お話し出来るじゃないですか」
「そ、そうですか……で、でもですね。この別荘にはベッドが二つある部屋は無くて……」
「えっ? 一緒のベッドで眠れば良いじゃないですか?」
「……えっ? い、一緒のベッドでですか!? る、瑠璃華さんは良いのですか? そ、その……は、恥ずかしいとか、そう言うのは……」
そわそわしながら遥先輩はわたしにそう聞いてくる。
恥ずかしいかと言われてもわたしと遥先輩の関係上。膝枕や抱き合ったりしている訳だから一緒のベッドで寝るくらい普通だと思うんだけど。
「わたしは別に気にしませんけど? 膝枕や抱き合ったりしてるんですから。一緒に眠るくらい普通だと思います」
「そ、そうですか……で、では、一緒に寝ましょう。この部屋のベッドだと流石に2人で眠るには狭いので、大きなベッドが在る部屋を移動しましょう」
「はい、お願いします」
再度、荷物を持って遥先輩の後について行く。
「……ああ……瑠璃華さんの普通を変えてしまったのは私ですよね……でも、そのお陰で瑠璃華さんと一緒に寝ることが出来るのですから。良かった、のかな?」
「遥先輩、何か言いましたか?」
「へぇ!? い、いえ、何でも無いです。こ、この部屋です。この部屋のベッドはキングサイズですから。2人で眠るには良いと思います。それに部屋から見える景色は先ほどの部屋とあまり変わりません」
案内された部屋は先ほどの部屋よりも広く。大きなベッドや海を眺められる様に配置されたソファー。そしてバルコニーにはテーブルと2つの椅子がある。この広さだから遥先輩のご両親の部屋なのかな?
「この部屋も良い部屋ですね。わたしこんなに大きなベッド初めて見ましたよ」
遥先輩が見ていなかったら、迷わずこのベッドに飛び込んで堪能していたと思う。後でやろうかな?
そう思っているとわたしのお腹が「ぐぅ~」っと鳴った。そう言えば朝から何も食べてない。
「あ、わたし、朝が早くて何も食べてないんでした……あはは……」
「やはりそうでしたか。瑠璃華さんが朝食を食べていないかも知れないと思って私、サンドイッチを作って来たんです」
「えっ! わたしのために作って来てくれたんですか?」
「ええ、本当はタクシーの中で瑠璃華さんと一緒に食べようと思っていたんですけど。瑠璃華さんが眠ってしまったので食べずにいたんですよ。一階に置いてあるので一緒に食べましょう」
荷物を部屋に置いたわたしと遥先輩は階段を降りて、一階のリビングに移動する。
「瑠璃華さんはそこのソファーに座って待っていて下さい。サンドイッチと飲み物を用意します」
わたしは言われた通りソファーに座り遥先輩を待つ。
「お待たせしました。どうぞ、食べて下さい」
「ありがとうございます。それじゃ、いただきます」
お皿の上にはタマゴサンドと野菜が沢山入ったハムサンドの他にツナサンドが載っていた。わたしはその中のタマゴサンドを手に取り食べた。
「美味しいです遥先輩」
「ふふ、本当に瑠璃華さんは美味しそうに食べますね。あっ、口元についてますよ」
遥先輩はわたしの口元を拭いてくれた。
「遥先輩の料理は美味しいですからね。お昼と夕食が今から楽しみです」
「ふふ、もうお昼と夕食の話ですか? まだ、9時前ですよ」
「だって、楽しみなんですもん」
「ふふ、そこまで期待されると瑠璃華さんに満足して貰えるか、少し心配になってしまいます」
そんな話をしながらわたしは遥先輩とサンドイッチを食べた。
「はぁ~ごちそうさまでした~」
「お粗末様です。私は片付けて来ますので瑠璃華さんは休んでて下さい」
「は~い」
食器を持ってキッチンへと向かった遥先輩を見送ったわたしは、ソファーから立ち上がり窓へと向かい、海を眺める。やっぱり、いい景色の場所だな~。
「本当に綺麗……。後で遥先輩と浜辺で……ん?」
わたしの視界の先に大きなビーチパラソルと二つのビーチチェアを見つけた。ビーチチェアの傍にはミニテーブルまでご丁寧に置いてある。海に気を取られていて気付かなかった……。一体、誰が置いたんだろう?
「お待たせしました。あら、瑠璃華さん海を眺めていたんですね」
「はい。あの、遥先輩。あそこにビーチパラソルとビーチチェアが在るんですけど……なんで在るか知ってますか?」
「ん? ああ、あれですか。あれは確かお母さんが用意させたと言ってた物ですね」
葵さんが用意してくれた物なんだ。わたし達以外に誰かいるのかと思って心配しちゃったよ。
「葵さんが用意してくれた物なんですね。わたし達以外に誰かいるのかと思っちゃいましたよ」
「ふふ、安心して下さい。ここに居るのは私と瑠璃華さんだけですよ。過保護な両親なのでもしかしたら、何かしているかも知れませんけど。私達が気にすることでも無いですよ」
まぁ、確かにセキュリティもちゃんとしているだろうし、遥先輩の言う通りわたし達が気にすることじゃないよね。
「それもそうですね。折角、葵さんがビーチパラソルやビーチチェアを用意してくれたんですから、海を楽しみましょう」
「そうしましょう。ところで瑠璃華さんは水着は持ってきましたか?」
「は、はい。持ってきましたけど。遥先輩にわたしの水着姿を見せるのは少し恥ずかしいです」
流石に遥先輩に水着姿を見せるのは恥ずかしい。小柄な体型のせいで似合う水着が子供っぽく見えるから余計に……。
「私も瑠璃華さんと同じですよ。恥ずかしいですが瑠璃華さんと海を楽しみたい気持ちの方が強いんです。瑠璃華さんはどうですか?」
恥ずかしいけど、遥先輩ともっと仲良くなれるチャンスなんだからわたしも覚悟を決めよう!
「わ、わたしも遥先輩と海を楽しみたいです!」
「ふふ、そう来なくては……着替えは脱衣所があるのでそこを使って下さい。脱衣所からも外に出られるので着替え終わったら外で待っていて下さいね。瑠璃華さんが着替えた後で私も着替えますから、着替え終わったら扉越しでもいいので声をかけてくれると助かります」
「わかりました。まずは、水着を取って来ますね」
「私も取りに行かないといけませんので、一緒にお部屋に行きましょうか」
わたしと遥先輩は水着を取りに部屋に戻った後。水着を持って脱衣所へと向かう。
先に脱衣所に入ったわたしは、自分の水着姿を見て遥先輩がどう思うのかと心配になったり、遥先輩の水着姿に期待しながら着替えるのであった……。




