表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/90

50話 遥先輩とPRイベントへ

メイドの日に投稿出来たらと思っていましたが間に合いませんでした……。

「瑠璃華さん、今日のイベント楽しみですね」


「えっ!? は、はい。そうですね……」


 PRイベント会場へと向かうタクシーの車内でわたしは、話しかけて来た遥先輩に対してそう返事をした。


「瑠璃華さん、ぼーっとしてどうしました? 体調が優れないのですか? それとも……」


 遥先輩は心配そうにわたしに顔を近づけて来る。


「だ、大丈夫です! 少し考え事をしていただけなので気にしないで下さい。それと少し顔が、ち、近いです……」


「あ、ああ、ごめんなさい。もしかして瑠璃華さん、今日のイベントに行きたくなかったのではないかと思いまして」


「いえいえ、イベントはとても楽しみにしていましたよ。さっきも言いましたけど、少し考え事をしていただけですから」


 そう、今日のイベントにゲスト出演するVtubarが仲の良い恵梨香と凛子であることを知ってから、イベントで2人に会ったらどうしようかとか、もしこの場で会わなくても、夏休み明けの学園で2人とどう接すれば良いのかをずっと考えてしまっていた。


「瑠璃華さんの考え事とは何でしょうか? もし良ければ相談に乗りますよ?」


「個人的なことなので遥先輩は気にしなくても大丈夫ですよ。それにもう直ぐイベント会場に着きそうですし準備しましょう」


「そう、ですね」



 ◆◆◆



 会場前には大勢の人が列を作っていた。


「わぁ~すごく賑わっていますね遥先輩」


「ええ、今回出演するVtubarのファン以外にもアニメ、ゲームなどのコラボカフェ情報の発表も行われるらしいのでそのファンもいるのでしょう」


「そうなんですね。ところで遥先輩、わたし達この列に並ぶんですよね?」


 この暑い日差しの中で、この列に並ぶと言うのはとても大変なことだ。一度だけ夏に開催される同人誌即売会に興味本位で行ったことがあるけど、それはそれは大変な目に合った。経験者の言う通り、開場後しばらくしてから入場するか、冬に行くべきだったと身を持って体感したのだ。


「並びませんよ。向うに関係者専用の入場口があるので、そこから会場に入りますから安心して下さい」


「そ、そうなんですか。良かった……」


「ふふ、母に感謝しないといけませんね。それでは瑠璃華さん行きましょうか」


 遥先輩と関係者専用の入場口へ向かい無事に会場内に入ることが出来た。こんなにスムーズに会場に入ることが出来て、この暑い中で並んでいる人たちに申し訳なく思ってしまう。


「ここが会場です。向うに見える大きなスクリーンがメインの舞台ですね。他にも物販や展示ブースなどが一つの会場で行われます」


「すごい……こういうイベントって、あまり来たことが無いのでとても新鮮です」


「それは良かった。瑠璃華さん少し会場内を見て周りませんか? しばらくすると来場者が大勢入って来ますから、ゆっくりと会場を周れないと思います。それに舞台でのトークイベントや新企画の発表会に集中できますからね」


「良いですね、見て周りましょう」


 わたしと遥先輩はイベント開始直前の最終チェックをしている関係者やスタッフの邪魔にならないように会場を見て周ることにした。


 まずわたし達が向かったのは物販ブース。販売されている商品を見てみると『エリ☆リンチャンネル』のグッズを取り扱っていた。


「これは今日出演するVtubarのグッズですね」


「そ、そうですね。色々ありますね」


 Vtubarとしての姿でも、仲の良い友達のグッズというのは何だか不思議な気分だ……。


「どうしました瑠璃華さん? あっ、それが欲しんですね。買いますよ」


「えっ! い、いえ。いらないって訳では無いですけど……。そ、そうです! 開場前に買うのはダメだと思います」


「確かにそうですね。それでは後で瑠璃華さんが欲しい物を買いましょう」


「は、はい。ありがとうございます……」


 遥先輩に欲しいと勘違いされて、後で買って貰う流れになってしまった。欲しいか欲しくないかと聞かれたら欲しい。特にデフォルメされたラバーストラップ。可愛らしくデザインされていて欲しいと思った。


 仮に遥先輩に買って貰ったとしても学園には持っていくことは無いだろう。だって、恵梨香と凛子に見られたら、お互い気まずくなると思うから。


 その後も、遥先輩と他の物販ブースを見て周り。次の場所へと向かった。


「ここは展示ブースです。コンセプト喫茶の制服や期間限定イベントで着用した服が展示されています」


 そこには大きなガラス製のショーケースにコンセプト喫茶の制服を着たマネキンが所狭しと並んでいた。この展示ブースはかなりの広さが有り、見て周るだけでも結構な時間が掛かりそうだ。


「こんなに沢山有るんですね。展示ブース自体もとても広くて驚きました」


「ええ、この展示ブースは母がとても力を入れたと言っていまして、私も今初めて見ましたが想像以上で少し驚いています。あっ、そろそろ開場時間ですね。瑠璃華さん、人が増える前に出来る限り見て周りましょう」


「そうですね」


 わたしと遥先輩は展示ブースを見て周る。


「これは、男装喫茶で着られている物ですよね。それで隣は執事服ですか?」


「確かその執事服は毎年9月頃に期間限定で着られる物だった筈です」


 わたしメイド服が一番好きだけど、執事服も結構好きだ。遥先輩が執事服を着たらカッコいいだろうなと想像できる。


「執事服……遥先輩に似合いそうですよね」


「そ、そうですか? 私に似合いますかね?」


「似合いますよ。遥先輩が着たらとってもカッコいいと思います」


「瑠璃華さんにそこまで言われてしまうと、何だか照れてしまいますね」


 遥先輩は少し嬉しそうにしている。いつか遥先輩の執事服姿を見てみたいな。


 その後も展示ブースを見て周るが展示されていない物がある事に気付いた。


「遥先輩、一般的なメイド喫茶のメイド服は展示されていますけど。遥先輩が働いている『Stella』のメイド服がありません」


「瑠璃華さん、忘れていませんか? 『Stella』がどんなお店かを」


『Stella』がどんなお店か……。あっ、そうだった。


「そうでした。『Stella』は宣伝を行っていない隠れ家的お店でしたね」


「そうです。母も『Stella』のメイド服を展示したかったと言っていましたがコンセプトを大事にしたいので断念したそうです」


「展示したいと思う遥先輩のお母さんの気持ちわかります。あのメイド服は上品さと優雅さを兼ね備えたとても良いメイド服だと思いますから」


「ふふ、瑠璃華さんの今の話を聞いたら母はとても喜ぶと思います」


 わたしと遥先輩が話していると、開場時間を告げるアナウンスが流れた。


「開場時間になりましたね。これから、多くの来場者が会場内に入って来ますから、はぐれない様にしましょう」


「そうですね。この広い会場で、はぐれたら大変ですからね。気を付けます」


 展示ブースを見て周るわたしと遥先輩でしたが、気付けば多くの来場者がこの展示ブースにもやって来ていた。


「おっと、すいません。遥先輩、人が多くなって来ましたね」


「そ、そうですね……えっと……」


 遥先輩が少しそわそわしている。どうしたんだろう?


「遥先輩どうしました?」


「えっ!? あ、えっと……そのですね……瑠璃華さん」


「はい。なんですか?」


「その……はぐれると大変ですし……て、手を繋ぎませんか? い、嫌じゃなければですが……ど、どうでしょう?」


 少し顔を赤らめながら遥先輩はわたしと手を繋ぐことを提案してきた。確かにこの人の多い状況では手を繋いだ方がはぐれる心配もない。


「良いですよ。遥先輩の言う通り、はぐれたら大変ですからね。はい」


 わたしは、遥先輩に手を差し出す。


「い、良いんですね。そ、それじゃあ……」


 遥先輩はわたしの差し出した手を握る。遥先輩の長く細い指がわたしの指と絡み合う。柔らかい遥先輩の手の温もりがわたしの手にも伝わって来る。あれ? この手の繋ぎ方って……恋人繋ぎって奴なのでは? いや、偶然だよね?


 ちらりと遥先輩を見れば、先ほどよりもさらに顔が赤くなっている。それに遥先輩のわたしの手を握る力が心なしか強くなっている気がする。


 だ、ダメだ、考えれば考えるほど意識してしまう。それに手汗も気になるし遥先輩が不快になっていないかな?


「あ、あの……遥先輩。その、手汗がですね、気になったりしませんか?」


「いえ、気にしていませんよ。私の方こそ緊張してしまって、瑠璃華さんと同じです」


「そうですか、良かった。確か遥先輩と手を繋ぐことって無かったですね」


「はい。ふふ、瑠璃華さんの手、柔らかいですね」


「そ、そうですか? 何だか今日の遥先輩は、その、積極的ですね。どうしたんです?」


「えっ!? そ、それはですね……瑠璃華さんともっと仲良くなりたいからですよ。奏が言っていました。仲の良い友達となら手を繋いだりすると」


「まぁ、そういう人もいますね。でも、わたしと遥先輩って仲は良いと思いますけど。今もこうして出かけている訳ですし。それに膝枕や耳かきだってして貰っています」


「そ、そうですけど、そうじゃないんですよ……。そ、それよりも舞台でトークイベントが始まる時間です。席は用意していますので早く行きましょう瑠璃華さん」


「ちょ、ちょっと遥先輩。引っ張らないで下さい」


 遥先輩に話を中断されて、わたしは遥先輩に手を引かれながら、トークイベントが行われる舞台へと向かった。



 ◆◆◆



「着きましたよ瑠璃華さん。ここが私と瑠璃華さんの席です。見やすい位置に席を用意してくれました」


 わたしが遥先輩に手を引かれて案内されたのは、関係者が座るであろう席の近く。ここならトークイベントも良く見られるだろう。


 席に着いたわたしは遥先輩から貰った水を飲み一息つきながら、トークイベントが開始されるのを待つ。


 しばらくして、司会と思われる人を含めた数人の方たちが舞台に上がり。大型スクリーンには『エリ☆リンチャンネル』の配信開始前に映し出されるロゴが現れた。


「皆様お待たせいたしました。これよりトークイベントを開始いたします」


 司会の人の自己紹介に続き、宣伝や企画を担当する人の自己紹介が行われ。そして……。


「続きまして皆様お待ちかねの特別ゲスト。『エリ☆リンチャンネル』の白百合エリさんと黒百合リンさんです!」


 すると大型のスクリーンに白百合エリと黒百合リンが映し出される。しかもあのクオリティの高い3Dモデルで動いているのだ。やっぱり、専用のスタジオから配信されているのだろう。流石に3Dモデルを動かす機材がここに有るとは思えないし2人に会うことが無いようで少し安心する。


「皆さん、こんエリ~。最近、姫らしさが失われているとよく言われている白百合エリと!」


「本物の魔女だと疑われている黒百合リン、だよ……」


 2人の自己紹介も終わり、トークイベントが始まった。


 このイベントに出演した経緯から始まり、新しいコラボカフェの情報や新企画の発表などが軽快なトークと共に進行して行く。


 その中でも着ぐるみ喫茶なる物を企画しているそうで、遊園地で見かけるような重たくて暑そうな物ではなく、着ぐるみパジャマを着て接客するそうだ。


 聞いた時はお客さんが来るのかと思ったけど、アニメなどでキャラクターが着ぐるみパジャマを着てお泊まり会などをしているシーンを見て、わたしも可愛いなと思ったし、結構いけるのかも知れない。


 着ぐるみパジャマ……遥先輩が着たらどんな感じかな? 大人っぽい遥先輩が可愛らしい着ぐるみパジャマを……うんうん、すごく良い気がする。


 そんな事を考えていたら、次のコーナーが始まるようだ。


「この後はゲストのお2人のミニライブをお楽しみ下さい」


 そう言うと司会と舞台に上がっていた人たちが舞台から降りて行き、2人のミニライブが始まった。


 今歌っているのはオリジナル曲でファンからも人気の一曲。2人の歌を聞いていると恵梨香と凛子であると改めて理解する。


 しかしあの3Dモデル、ラグやカクつきも無くあんなに滑らかに動くなんて専用のスタジオでも無ければ出来ないことだ。展示ブースもそうだけど、本当に力の入ったイベントだと感じる。


「2人は凄いなぁ……」


「瑠璃華さん何か言いましたか?」


「いえ、何も言っていませんよ」


「そうですか。瑠璃華さん何だか楽しそうですね」


「楽しいですよ。本当に……」


 ミニライブが終わり。出演者のコメントや『エリ☆リンチャンネル』の活動告知などが行われた後、トークイベントは終わりを迎えた。


「瑠璃華さん、トークイベントもミニライブも大変素晴らしかったですね。私、このようなイベントは初めてなのでとても楽しめました」


「わたしもとっても楽しかったです。特にミニライブで、あの3Dモデルがあんなに動くなんて驚きました」


「瑠璃華さん気になりますか?」


「気になりますよ。専用のスタジオでも無いとあんなにクオリティの高いライブは出来ないと思いますし。見学が出来るならしたいですね」


「それは良かった!」


「えっ?」


 良かったとは一体……。


「瑠璃華さんならそう言うと思いましたので、母にスタジオを見ることが出ないかと聞いてみたら、二つ返事で了承して貰いました。それに母が瑠璃華さんに一度会ってみたいと言っていましたので、私の母にも会って貰えると嬉しいのですが……」


 スタジオには行ってみたいし遥先輩の母親にも会ってみたいけど、恵梨香と凛子に鉢合わせするかも知れない。でも、遥先輩がわたしのために用意してくれた機会だし……。


「遥先輩、わたし行きたいです。それに遥先輩のお母さんにも会ってみたいです」


「良かった。では、早速行きましょう。でもその前に母に連絡をするので少し待っていて下さい」


 遥先輩はスマホを取り出し電話をかけ始める。


 そう言えばスタジオって何処に在るんだろうか?


「瑠璃華さんお待たせしました。母も瑠璃華さんが来るのを楽しみにしているそうです」


「そうなんですか。それで遥先輩、スタジオは何処に在るんですか?」


「スタジオはですね。母の会社にあります。車で行くと直ぐですので、タクシーで行きましょう」


「えっ!? 会社に在るんですか?」


「はい、確か……事前投資だと言っていましたね。もし気になるのであれば直接母に聞いてみると良いでしょう。快く教えてくれると思いますよ。それでは行きましょうか」


 わたしと遥先輩は会場を出て、タクシーに乗り遥先輩の母親の会社へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ