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48話 私の気持ち……

「はぁ……疲れた……」


 部屋に戻った私はベッドに横になる。


 しばらくすると部屋のドアがノックされた。


「お姉ちゃん起きてる? 入ってもいい?」


 私は起き上がり、ベッドの縁に座り返事をする。


「起きてるよ。入って……」


 奏はドアを開けて入って来る。


「ほら、私の隣に座って」


「うん」


 奏は私の隣に座る。


「今日はありがとね。お姉ちゃん」


「良いのよ。毎年やっていることじゃない」


「今年は瑠璃華ちゃんが居たから、いつもとは違うよ」


「ふふ、そうね。奏、瑠璃華さんと遊んで楽しかった?」


「うん! 楽しかったよ。やっぱり瑠璃華ちゃんと友達になれて良かったよ。瑠璃華ちゃんとね――」


 奏は楽しそうに瑠璃華さんと遊びに行った話をしてくれた。それを聞いていた私は、モヤモヤした気持ちが大きくなって行く……。奏が瑠璃華さんと遊ぶことが別に嫌な訳では無い、と思いたいけど……やっぱり……。


「おっと、いけない。私、瑠璃華ちゃんと遊んだ話をしに来たんじゃないんだよ」


「そうだったわね。私のこと、だよね?」


「うん、お姉ちゃんの様子が朝から変だったこと」


「やっぱり今日の私って、そんなに変だった? もしかして、瑠璃華さんにも……」


「顔と態度に出てたよ。瑠璃華ちゃんと私が話している時と、さっき私が瑠璃華ちゃんと遊んだ話をしている時が特にわかり易かったよ。ちなみに瑠璃華ちゃんは気付いてないから」


 私ってそんなに顔と態度に出てたのね……。でも、瑠璃華さんには気付かれていないみたいで良かった。


「そ、そっか……やっぱり奏には隠し事出来ないね……。奏の言う通り、今日の私はなんか変なの……」


「具体的にどう変なの? 流石の私でもお姉ちゃんの心は読めないよ。まぁ、予想は出来てるけど……」


 最後の方は声が小さくて聞こえなかったけど……。それよりも、奏にどう伝えようか……。


「その……そうね……。何て言えば良いのか……。今日は何故かモヤモヤしたり不安な気持ちになったりして……」


「なるほど、私が瑠璃華ちゃんと一緒にいる時にそうなるんだね」


「そう、ね……」


「単刀直入に言うとお姉ちゃんは、私に瑠璃華ちゃんを取られると思って不安になったんだね。それにその様子だと、お姉ちゃんはそれを自覚しないようにしていた。恐らく私に嫉妬の様な感情を抱きたくないからだね」


「そ、それは……」


 そう思いたくは無かったけど、私は瑠璃華さんを奏に取られるんじゃないかと不安になっていたのね……。しかも、それを奏本人に直接言われると、何だか姉として情けなくなる……。


「そうよ……奏が言う通り。私は瑠璃華さんを奏に取られると思ったの。はぁ……欲張りで情けない姉ね……」


「別にお姉ちゃんのことをそんな風に思わないよ。何度も言うけど、私は瑠璃華ちゃんを取らないよ。それにそう思うってことは、お姉ちゃんは瑠璃華ちゃんに対して何かを感じているんじゃないのかな?」


「私が瑠璃華さんに何かを感じてる……」


 奏にそう言われ、私の心の奥底にある何かが湧き上がって来ているように感じた。


「うん。そうだな~お姉ちゃんは瑠璃華ちゃんと一緒に居ると、どんな気持ちになるの?」


 瑠璃華さんと一緒に居ると、どんな気持ちになるか……。


「そ、そうね……瑠璃華さんと居ると、とても楽しくて心地が良いの。だから瑠璃華さんの家に行く時や出かける日は、今日はどんな瑠璃華さんが見れるのかなって、とても楽しみなの。それに瑠璃華さんは私の料理をいつも美味しいって言ってくれる。だから、もっと言って欲しいから料理も頑張ってるの」


 瑠璃華さんの話をするほど、心の奥から湧き上がる何かが徐々に鮮明になって来た。これは瑠璃華さんに対する私の気持ちだ。


「ああ、だから最近料理のレパートリーとクオリティーが、なるほど。ふふふ、そうなんだ……。お姉ちゃんなりに色々頑張ってるんだね」


「まぁ、瑠璃華さんに喜んで貰いたいから、ね……。それに私、瑠璃華さんとずっと一緒に居れたら良いなって思い始めているの」


「うんうん。お姉ちゃんにとって瑠璃華ちゃんは、そう思う程に特別な存在だってことだよね」


「特別な存在……それって……」


 私の瑠璃華さんに対する気持ちがわかった気がした。そう、これは……。


「私はこれ以上は言わないし答えないよ。後はお姉ちゃんが考えて答えを出すべきことだから」


「そうね。これは私が考えて答えを出さないといけないことね。奏と話してなかったら、ずっと目を逸らしていたかも知れないわ。ありがとう奏」


「別に感謝される事なんてしてないよ。私の目的のためでもあったから……」


「目的のため? それってどういう事なの?」


「えっ!? ああ、それはお姉ちゃんは気にしなくても良い事だよ。あはは!」


 ワザとらしく笑っている奏を見て、絶対に何かを隠していると感じた。


「ねぇ、奏。私に何か隠してない?」


「隠してない、隠してない。私がお姉ちゃんに隠し事なんてしないよ~。ホントだよ~」


 これは聞いても教えてくれないな……。まぁ、悪いことでは無いだろうから良いか。


「はぁ……これ以上は聞かないわ」


「そう? じゃあ、この話はお終いだね。あっ! そうそう、実はお姉ちゃんにお願いしたいことが……」


「お願いしたいこと? なによ?」


「それはね……これだよ、よっと……」


 突然、奏は私の膝に頭を乗せた。


「か、奏!? 急にどうしたの!?」


 こんな事は、今まで一度も無かったことだ。私の膝に頭を乗せた奏はまるで甘えるような仕草をした。


「ん~? 私も一度くらいはお姉ちゃんに甘えても良いかな~って思ったの。これが最初で最後だよ……」


「そう……出来ればもっと早く甘えて欲しかったかな。それに最初で最後なんて言わないでよ。驚いたけど、嬉しいんだから」


 私は奏の頭を優しく撫でた。過去の私に将来、奏が甘えてくるなんて言ったら驚くだろうな。


「瑠璃華ちゃんと出会ってなければ、お姉ちゃんに甘えるなんて考えなかったよ。それに最初で最後なのは本当。だって、お姉ちゃんには瑠璃華ちゃんが居るからね。浮気はいけないよ、浮気は」


「浮気って、まだ瑠璃華さんと、あっ……」


 私は途中まで出かかった言葉を飲み込んだ。やっぱり私は瑠璃華さんのことを……。


「ふふふ、最後まで言えば良かったのに」


「な、何でもない。気にしないで良いから」


「残念、お姉ちゃんの本音を聞けると思っただけどな~」


「言わないわよ。奏は大人しく私に頭を撫でられてなさい。それとも耳かきして欲しい? まだ、お母さん程ではないけど、瑠璃華さんは喜んでくれるの」


「いや、いいよ。私はお姉ちゃんの膝枕を堪能するよ」


「そう……じゃあ、奏が満足するまで……」



 ◆◆◆



「あ~満足満足。はぁ~瑠璃華ちゃんはこれを独り占めしてたんだね」


 奏は起き上がり満足そうな表情をしている。


「そう、なら良かった」


「今日はありがとね、お姉ちゃん。それじゃあ私、部屋に戻るよ。お姉ちゃんが瑠璃華ちゃんとどうなりたいか、よく考えてね」


「うん、わかってる」


 奏はドアを開け部屋を出ようとしたが立ち止まり、振り返る……。


「ああ、そうだ。瑠璃華ちゃんともっと仲良くなるためのアドバイス。名前の呼び方を変えるといいよ。『さん』と『先輩』呼びじゃあ、距離を感じるからね。呼び捨ての方が良いと思う」


 実は前から私もそうしたいと思っていたけど、瑠璃華さんには言い出せなかった。


「確かにそうね、私もそうしたいとは思っていたけど、タイミングがね……」


「そうなんだ。念のために言っておくけど、お姉ちゃんが提案するんだよ。瑠璃華ちゃんは後輩なんだから先輩であるお姉ちゃんがするべき事だからね。わかってるよね?」


「流石にそれはわかってるよ」


「そっか良かった。それじゃあ、おやすみなさいお姉ちゃん」


「おやすみ、奏」


 奏は部屋から出て行った。


「はぁ、奏にあんなに心配されるなんて……」


 奏が言っていた呼び方については、後で考えるとして。今は自分の気持ちに向き合わないといけない。


「瑠璃華さん……」


 私はベッドから立ち上がり、棚に飾ってある瑠璃華さんが取ってくれたぬいぐるみを手に取りベッドに座った。


 今、瑠璃華さんに対する私の気持ちはハッキリしている。


 それを言葉にして言えばいい。そうすれば、私は前に進める気がするから……。


 だから言おう。


 私は……。


「瑠璃華さんが好き……」


 言葉にして改めて実感する。瑠璃華さんのことが好きなんだって……。


 この気持ちを伝えるにはもっと瑠璃華さんと仲良くなる必要がある。そこで奏の言っていたように名前の呼び方を変える所から始めよう。


 今は夏休み、瑠璃華さんと出かける予定も沢山ある。瑠璃華さんとの距離を縮められる又とないチャンスだ。そして最終的には……。


「瑠璃華さんに私のことを好きになって貰う……」


 私は持っているぬいぐるみをギュっと抱きしめる。


「頑張れ私……」


 そう決意した私はベッドにぬいぐるみを抱いたまま横になり、瑠璃華さんとの幸せな日々を過ごせるように願いながら眠りについた……。

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