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47話 今日の私は何かおかしい……

「それじゃあ、お姉ちゃん。行ってくるね」


「行ってらっしゃい。瑠璃華さんにあまり迷惑をかけないようにね」


「わかってるよ。ただ遊びに行くだけだから心配しないでよ。いってきま~す」


 奏は元気良く玄関のドアを開け出掛けて行った。


 私は、リビングに戻りソファーに座る。


「はぁ……」


 今日の私はモヤモヤとスッキリしない気持ちに支配されていた。


 どうしてこんな気持ちになっているんだろう? 思い返してみれば、瑠璃華さんと奏が一緒に居たり、楽しそうに話している時も、こんな気持ちだった。


 もしかして私は瑠璃華さんと奏が仲良くしていることに不満があるの? 違う、不満がある訳では無い、と思う……。じゃあ、この気持ちは何?


 考えても答えが出ない……今は考えるのを止めよう。


 私は時計を見る。


 誕生日ケーキを取りに行くのは午後になってからで良い。料理は昨日で準備は殆ど出来ているから問題ない。私が今やるべきことは……。


 私はソファーから立ち上がり、掃除用具を取りに行くためにリビングを出た。物置から掃除用具を取り出し、それを手にリビングへと戻り掃除を始める。


 私は掃除をするのが好き。汚れた物や散らかった部屋が綺麗になるのは、とても気持ちが良いものだから。だけど……モヤモヤした気持ちは晴れないまま掃除を終えてしまった。


 時計を見ればもう正午を過ぎていた。私はお昼を軽く済ませて、誕生日ケーキを取りに瑠璃華さんのバイト先である『pâtisserie(パティスリー) AMAI(アマイ)』へと向かいケーキを受け取った。


 その後、寄り道せずに家へと帰り、少し休憩をしてからキッチンへ向かうと料理を始めた。


 料理中、晴れない気持ちのためか、不注意で危うく手を切ってしまいそうになる。


 はぁ……今日の私はどうしたんでしょう? 体調は悪くない筈なのに……。


 今日は奏の誕生日。こんな気持ちでは折角の誕生日が台無しになってしまうかも知れない。奏は勘がとても良い子だから気付いて気を使わせてしまう。今は奏をお祝いする事だけ考えよう。


「出来た……ふぅ……」


 なんとか料理を作り終えた。後は奏と瑠璃華さんが帰って来るだけ。



 ◆◆◆



 ソファーに座り、2人の帰りを待っていると、ドアが開く音がした。


「ただいま~」


「お邪魔します」


 奏と瑠璃華さんの声がする。私はソファーから立ち上がり玄関へと向かう。


「おかえり奏。瑠璃華さん、いっしゃい」


「お邪魔します。遥先輩」


 瑠璃華さんの顔を見た瞬間。晴れない気持ちが、少しだけ楽になった気がした。


「お昼は軽く済ませたから、お腹ペコペコだよ~。ね、瑠璃華ちゃん」


「はい、遥先輩が美味しい料理を沢山用意してるって、奏ちゃんが言っていたので……わたしも楽しみです」


「ふふ、そう……2人とも手を洗って来てね」


「は~い。瑠璃華ちゃん行こ」


 奏は瑠璃華さんを連れて洗面所に向かった。


 私はキッチンへ行き、料理をテーブルへと運んで並べていく。


 すると手を洗い終えた奏と瑠璃華さんがやって来た。


「おお、やっぱりお姉ちゃんの料理はいつ見ても美味しそうだね」


「これ全部遥先輩が作ったんですか!? 凄いです……」


「ふふ、夏休みで時間は沢山ありましたし、昨日の内で準備は殆ど出来ていましたから。さぁ、2人とも席について下さい」


「そうだね。瑠璃華ちゃんはそこに座って」


「うん」


 奏と瑠璃華さんは席に座る。私も奏の隣の席に座ろうとすると……。


「お姉ちゃんは向かいの席だよ。瑠璃華ちゃんの隣」


「えっ?」


「えっ、じゃないよ。私と向かい合った方が、祝う側と祝われる側で別れて、ちょうど良いでしょ」


「確かにそうね。瑠璃華さん隣失礼しますね」


「はい、どうぞ」


 私は瑠璃華さんの隣の席に座る。瑠璃華さんの隣はやっぱり落ち着く……。


「早く食べよ。美味しそうで待ちきれないよ」


「もう、奏ったら……それじゃあ、食べましょうか」


「「「いただきます」」」


 食べ始めた奏と瑠璃華さんは、私の料理を美味しそうに食べている。


「お姉ちゃんの料理はやっぱり美味しい。流石私のお姉ちゃんだね」


「とっても美味しいです遥先輩」


「ふふ、ありがとうございます。でも、ケーキもあるから食べすぎ無いようにね」


 その後も食事は続き、そろそろケーキを出すタイミングだと思った私は席を立ち、キッチンへと向かいケーキを手に戻る。


「美味しそうなケーキ。お姉ちゃん、いつものお店で買って来たの?」


「ええ、『pâtisserie(パティスリー) AMAI(アマイ)』でね」


「あ~、見た事のあるケーキだと思ったら、私のバイト先で買って来たんですね」


「ええ、あのお店のケーキはとても美味しいですからね。誕生日ケーキは基本、あのお店です」

 

 そう言いながら、私はケーキに刺したロウソクに火を着けて、部屋の電気を消した。


「さぁ奏、吹き消して」


「うん、ふぅ~」


 奏はロウソクの火を吹き消す。それを見た私は部屋の電気をつける。


「あらめて、誕生日おめでとう奏」


「おめでとう、奏ちゃん」


「えへへ、ありがとう。お姉ちゃん、瑠璃華ちゃん」


 奏は嬉しそうに言う。


「それじゃあ、ケーキを食べましょう。切り分けるから待ってて」


 私はケーキを切って皿に取り分け、奏と瑠璃華さんに渡す。


「ありがとう、お姉ちゃん」


「ありがとうございます。遥先輩」


「さぁ、食べましょう」


 ケーキを一口食べると、濃厚で滑らかなクリームとふわふわの生地がマッチしていてとても美味しい……。


 この時、私は思った。


 もし私が瑠璃華さんの誕生日にケーキを作ったら喜んでくれるかな?


 瑠璃華さんが私の作ったケーキを食べて、美味しいと言ってくれる所を想像するとつい笑みがこぼれた……。


「お姉ちゃんどうしたの? すごく嬉しそうだけど」


「えっ! こ、このケーキが美味しかったから……」


「確かにね。いつ食べてもこのお店のケーキは絶品だね。お姉ちゃんの作ったケーキも私は大好きだけど」


「遥先輩ってケーキも作れるんですか? 一度で良いから食べてみたいです」


「そ、そうですか……ケーキを作るのは時間が掛かるので、時間に余裕がある時に作ってあげますよ」


「本当ですか! 楽しみだな~」


 私がケーキを作ると言うと瑠璃華さんはとても嬉しそうしていた。瑠璃華さんの誕生日には気合を入れてケーキを作らないと!


 私はケーキを食べながら、瑠璃華さんにどんなケーキを作ってあげようかと食べ終えるまで考えた……。


「はぁ~美味しかった~」


 ケーキを食べ終えた奏はお腹をさすり満足そうにしている。


「私は洗い物と片づけをしますので、奏と瑠璃華さんはゆっくりしていて下さい」


「いえ、遥先輩。わたし手伝いますよ」


「大丈夫ですよ。瑠璃華さんは奏と休んでいて下さい」


「でも、遥先輩だけじゃ片付けるのは大変ですよ」


「ですが、お客さんである瑠璃華さんに片付けを手伝わせる訳にはいきません」


「ねぇ、お姉ちゃん。手伝って貰ったら? 瑠璃華ちゃんの言う通り、1人じゃ片付け大変でしょ? 私は、先にリビングで休んでるからね~」


 奏はそう言うとリビングへ行ってしまった。


 確かに2人の言う通り、これを片付けるのは、私1人では大変ですね。やっぱり瑠璃華さんに手伝って貰いましょう。


「それじゃあ、瑠璃華さんはテーブルの上を片付けてくれますか。私が洗い物をしますから」


「わかりました」


 私は、キッチンへ向かい洗い物を始める。


 しばらくして……。


「遥先輩、片づけ終わりました」


「そうですか、ありがとうございます。私ももう少しで終わるのでリビングで休んでいて下さい」


「あ、あの遥先輩」


「どうしました? 瑠璃華さん」


「料理美味しかったです。本当に……」


 瑠璃華さんは私の料理を食べる度にそう言ってくれる……とても嬉しい。それ以外にも瑠璃華さんと一緒に居ると、とても心地良くて心が温かくなる……そして何故かドキドキするのです。どうしてこんな気持ちになるのでしょう? 瑠璃華さんとのあの関係があるから? 友達だから? それとも……。


「喜んでくれて嬉しいです。本当に瑠璃華さんは、私の料理を美味しそうに食べてくれますね」


「だって、好きですから……」


「えっ!?」


 す、好きってなにを!?


「遥先輩の料理。えへへ……」


「えっ、ああ……そ、そうですか。これからも瑠璃華さんに食べさせてあげますよ」


 わ、私、今なにか、と、途轍もない勘違いを!? ふ、普通に考えたら、私の料理だって事くらいわかる筈でしょ! やっぱり、今日の私は本当に変だ……。


「はい、楽しみにしていますよ。それじゃあわたし、先に奏ちゃんの所に行ってますから早く来てくださいね」


 そう言い残して瑠璃華さんはキッチンから出て行きました。


「私、今、何を考えていたの……?」


 私はしばらく、キッチンに立ち尽くしていた……。



 ◆◆◆



 リビングへ向かうと、奏と瑠璃華さんがソファーに座って話をしているようだった。その時、瑠璃華さんが奏と楽しそうに話しているのを見て、私はなんとも言えない不安に襲われた……。


「お姉ちゃん、どうしたの? 立ってないで座ったら?」


 奏は瑠璃華さんの隣を指さす。


「えっ? あっ、そうね。瑠璃華さん、隣失礼します」


「あっ、どうぞ、どうぞ」


 私は瑠璃華さんの隣に座る。


「と、ところで2人は何を話していたの?」


「ああ、今日遊びに行った時の話をね」


「えっ、そ、そうなの……」


 本当に今日は、2人で遊びに行って楽しかったみたいですね……少し寂しいな……。


「う~ん……」


 何故か、奏が私の方をジッと見てくる……な、なに?


「瑠璃華ちゃん、お姉ちゃんは私の誕生日の準備で疲れているみたいです。そういう訳で今日はこれでお開きにしよう。夜道は危ないので私がタクシーを呼ぶから、それで帰ってね」


「えっ! 遥先輩疲れていたんですか? そうですよね……あんなに沢山の料理も作っていますし、ケーキも取りに行ったでしょうから……気づきませんでした……。今日はゆっくり休んで下さい」


「う、うん。気遣ってくれてありがとうございます」


 急にこんな事を言うなんて、奏は一体何がしたいんでしょうか?


 その後、奏が呼んだタクシーで瑠璃華さんは帰って行きました……。


「奏、どうして瑠璃華さんを帰したの?」


「ん? お姉ちゃんの様子が朝から変だったから2人で話がしたくて……。だから後で、お姉ちゃんの部屋に行くから寝ないでね」


「う、うん……わかった……」


 奏の話したい事って一体……。

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