45話 終業式の後は『Stella』で
期末テストを無事に終え、ついに終業式の日です。
その終業式もあっと言う間に終わってしまい放課後になりました……。
わたしは今閑散とした教室で恵梨香と凛子と束の間の会話を楽しんでいた。
「ん~、終わった、終わった。ついに明日から夏休みだよ! 瑠璃華」
「そうだね~。恵梨香と凛子は夏休みはどうするの?」
「あたし達は、まぁ……夏休みは色々と忙しくて……瑠璃華とも遊べないと思うんだ~ごめんね~」
「そうなんだ、残念……。ねぇ、前から気になっていたんだけど。恵梨香と凛子って何やってるの? 遊ぶ機会もあまり無かったし……」
恵梨香と凛子は困った表情をしている。
「え、えっと……そ、それは……」
「ごめんね~それは瑠璃華にも教えられないんだよ」
「そっか……まぁ、2人にも色々有るよね」
「そそ、それに瑠璃華にも色々と有るでしょ」
「えっ! さ、さぁ~どうだろう……」
「あはは! まっ! お互い様って事で、ね」
う~ん……恵梨香に逆に痛い所を突かれてしまいました……。恵梨香は私と遥先輩との間に何かある事を感じている様だし。この話題はもう止めよう。
「そ、そうだね~お互い様だね~。ま、まぁ、お互い夏休み楽しもう!」
「あっ! 強引に締めた」
「ふふ……良いじゃない恵梨香。瑠璃華の言う通り、お互いの夏休みを楽しめば良い……この話はお終い……」
「むぅ、凛子がそう言うなら仕方ない」
凛子がこの場を収めてくれて助かった。
そんな時、わたしのスマホにメッセージが……確認すると送って来たのは遥先輩ですね。一緒に行きたい所がある様で、生徒会室に来て欲しいみたいです。
「瑠璃華どうしたの?」
「ん? まぁ、ちょっとね」
「なになに、教えてよ」
「教えな~い」
「ええ~気になるな~」
「良いじゃない恵梨香……瑠璃華も用事が出来たみたい……。ほら、帰るよ……。じゃあね、瑠璃華」
凛子は恵梨香に鞄を手渡した後、恵梨香の手を取り、引っ張って教室から出て行こうとする。
「凛子、引っ張らないで! じ、じゃあ瑠璃華、バイバ~イ」
凛子に引っ張られながら、教室を出ていく恵梨香にわたしは小さく手を振った。
「さて、わたしも行こうかな」
遥先輩を待たせるのも悪いし早く生徒会室に行こう。
◆◆◆
生徒会室に入ると遥先輩がソファーに座って待っていました。
「瑠璃華さん来ましたね。さあ、行きましょうか」
「行くって何処にですか?」
「ふふ、瑠璃華さんのお気に入りのお店にですよ」
「ん? わたしのお気に入りのお店?」
何処に行くのかと思いながら、遥先輩について行けば何度も通った脇道へと入って行った時、わたしは気付く。ああ、確かにわたしのお気に入りのお店だと。
「さぁ着きましたよ」
「遥先輩が行きたかった所って、Stellaだったんですね。確かにわたしのお気に入りのお店です。でもどうして?」
「実は私、Stellaにお客さんとして来たことが無いんです。私、前から瑠璃華さんがどんな気持ちで私達の接客を受けているのか気になっていまして。一度体験してみたいと思ったんです。でも、私1人で行くと怜にからかわれると思うので……」
「なるほど、それでわたしを誘ったんですね」
「ま、まぁ瑠璃華さんを誘った一番の理由は一緒にお茶したかったからです。さぁ瑠璃華さん、入りましょう」
店内に入ったわたしと遥先輩は、怜先輩と七菜香先輩に出迎えられ、怜先輩にいつも座っている席へと案内される。
その時の怜先輩は含んだ笑みをしていて何故か楽しげでした。
席についたわたし達は、メニューを手に取る。さて、何を頼もうかな? しばらく、メニューとにらめっこして注文を決める。
「瑠璃華さん決まりましたか?」
「はい、決めましたよ」
遥先輩がベルを鳴らし怜先輩を呼び注文をする。
「かしこまりました。少々お待ち下さい。お嬢様」
注文を受けた怜先輩はバックヤードへと戻って行く。
遥先輩は掛けていた眼鏡を外しケースに仕舞い、一息ついた。
「ふぅ……何でしょう。怜にお嬢様って呼ばれると、その……むず痒いですね……」
遥先輩はソワソワと落ち着かない様子です。
「大丈夫です、直ぐに慣れますよ」
「そ、そうでしょうか?」
まぁ、友達にお嬢様って呼ばれたら、違和感があるのは仕方ないと思う。わたしは、メイド喫茶に通いなれているから、当たり前の様に感じるけど。
でも、恵梨香と凛子にお嬢様って呼ばれたら、今の遥先輩みたいになるかも。
「お待たせいたしました。お嬢様」
怜先輩が注文した品を運んでくる。
「お嬢様、以上でお間違えありませんか?」
「ええ、大丈夫です。ありがとう……」
「それではお嬢様、ごゆっくりお過ごしください」
そう言って怜先輩はバックヤードへ戻って行った。
「う~ん……やはり慣れません……」
遥先輩はまたソワソワし始める。
「そう感じるのは怜先輩だからじゃないですか? 例えば、そうですね……わたしがメイド服を着て遥先輩の事をお嬢様って呼んだらどう思います?」
「瑠璃華さんが私にですか? う~ん……そ、想像出来ないですね……私がメイド服を着て瑠璃華さんを甘やかしているからだとは思いますが……瑠璃華さんがメイド服を……い、かも……」
遥先輩が最後に何か言っていた様ですけど、声が小さくて聞き取ることが出来なかった。それに何だか遥先輩の顔が少し赤くなっている気がする。
「遥先輩、少し顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」
「えっ! ああ、恐らく暑いからですよ。気にしないで下さい」
「暑いなら怜先輩にエアコンの温度を下げて貰えるように頼みますか?」
「いえいえ、本当に大丈夫ですから」
「そうですか? それなら良いですけど……」
わたしは紅茶を一口飲み。一息つく。
「先ほどの話の続きですが、瑠璃華さんのメイド服姿には少し興味があります」
「興味あるんですか……例えで言ってみただけなんですけど。わたしの体型ではメイド服を着ただけの子どもにしか見えない気がしますよ」
実際、メイド服を着た時は体型などのせいで、辛うじてメイド見習いの子どもくらいには見えるんじゃないかな? って感じでした。
遥先輩と比べたらわたしのメイド服姿は霞んでしまうでしょう。
「そうですか? 瑠璃華さんが着たら可愛いと思います。いつか見てみたいです。瑠璃華さんのメイド服姿」
「う、う~ん……ま、まぁ機会があれば……」
「その機会を楽しみにしていますよ、瑠璃華さん」
遥先輩にわたしのメイド服姿を期待されているけど。まぁ、何時か見せる日が来るかも知れない。わたしの気分次第だけど……。
その後も紅茶とお菓子を遥先輩と楽しみ、時間が過ぎていく……。
「瑠璃華さん、そろそろ出ましょうか」
「そうですね」
わたし達は会計を済ませ、Stellaを後にする。
その帰り道で。
「瑠璃華さん今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、わたしも遥先輩とStellaに行けて、楽しかったですよ。また機会があれば行きましょう」
「そうですね、機会があれば。次に瑠璃華さんに会えるのは、夏休みの宿題をする時ですね。食事は私が用意しますから楽しみにして下さい」
「はい! 楽しみにしています」
その後、遥先輩と別れて家へと帰ったわたしは、今年の夏休みを遥先輩と思いっきり楽しもうと改めて決意する。




