36話 カナの正体
そして迎えた月曜日の放課後。
わたしは、カナちゃんとの待ち合わせに指定された図書室の扉の前にいます。
「よ、よし」
覚悟を決めて扉を開ける。
図書室に入ると1人の生徒がいました。わたしは、カナちゃんかと思いましたが違うみたいです。あの子は、確か……春町奏さん。遥先輩の妹さんです。
遥先輩に怜先輩と七菜香先輩を紹介して貰った日に、生徒会室に向っていたわたしが図書室の前でぶつかった子です。その後、気になってその子のことを調べたら直ぐにわかりました。まさか、あの子が遥先輩の妹さんだとは思いませんでした。
本を読んでいた奏さんは、図書室に入ってきたわたしを一瞥すると直ぐに本へと視線を戻しました。
とりあえずわたしは、図書室内を見て回りましたが、やはりこの場所には奏さんとわたしだけみたいです。
まだ、カナちゃんは来ていないようなので、わたしは席に座りカナちゃんを待つことにしました。
10分ほど待っていますけど、まだカナちゃんは来ていません。この静かな図書室で聞こえるのは、奏さんが本のページを捲っている音だけ。
すると……奏さんが席を立ちわたしの方へとやって来ました。
「あ、あの……誰かと待ち合わせをしているんでしょうか?」
「は、はい。待ち合わせをしているんですけど、まだ来ていなくて……もしかして、図書室閉めるんですか?」
「いえ、もう少しだけ開けている予定ですので……」
「そうですか、図書室を閉める時は言って下さい。直ぐに出ていきますから」
「あ、あまり気にしないで下さい……あ、そうです。瑠璃華さん、姉と仲が良いそうですね」
「えっ! あっ、はい。友達として仲良くさせてもらっています。奏さんは遥先輩からそのことを聞いたんですか?」
急に遥先輩の話題を出して来たので驚きました。遥先輩は奏さんにはわたしと仲が良いことを話していたのかな?
「違います。姉が電話をしている時に、瑠璃華さんの名前が出てきたのを偶然聞いたものですから……盗み聞きは良くないことだと思いましたけど、気になってしまって……」
申し訳なさそうな表情で奏さんは、そう話しました。
「気にしないで下さい。偶然聞いてしまったのならしょうがないですよ」
「そう言ってくれて安心しました。ところで瑠璃華さん。瑠璃華さんの待っている人が来るまで私とお話しませんか?」
「いいですよ。わたしも奏さんと話をしてみたかったですから」
その後、奏さんとしばらく話をしていたんですけど……。
「う~ん。瑠璃華さん。まだ、気づかないんですか? 先週は、ちゃんと同じ人だって気づいてくれたじゃないですかぁ。はぁ~ダメダメですね。『瑠璃華お姉ちゃん』」
んん!? 瑠璃華お姉ちゃん……しかもこの声……もしかして!
わたしがなにかを察したことを感じたのか、奏さんは……。
「ふっ、ふっ、ふっ。やっと気づいたみたいですね。瑠璃華お姉ちゃん。私が誰だかもうわかりますよね?」
「か、カナちゃん。えっ? えっ!? 遥先輩の妹が奏さんで、カナちゃん……なの? えっ……」
まさか、遥先輩の妹の奏さんがカナちゃんで、今回の噂の原因だったなんて……。
「そんなに驚くことですかぁ? う~ん。遥お姉ちゃんは、私のことをほとんど話していないんですねぇ~。まぁ、しょうがないかなぁ~。瑠璃華ちゃんのこと取られたくないみたいだし」
奏さんはそう言いながら、ウィッグとメガネを外しました。その素顔は、本当にカナちゃんでした……。今までウィッグをつけて学園に通っていたんだ……プールの授業とか、どうするんだろう? って! そんなことを考えている場合じゃない。本題に入らないと。
「奏さん約束通り。なぜこんなことをしたのか教えてくれませんか?」
「ん~そのことだけどね~。本当は瑠璃華ちゃんの前だけに現れる予定だったんだけどね。いや~まさか他の子たちに見られて、いつの間にか噂になっちゃっうなんて思わなかったよ。あはは!」
「それで、どうしてわたしに変装して現れたりしたの? 遥先輩がすごく困っていたんだけど」
「あ~それはね。瑠璃華ちゃんの好みが知りたかったからと趣味みたいなものかな。色んなキャラを演じて瑠璃華ちゃんの好みを知ろうとしただけで。別に遥お姉ちゃんを困らせたくてやった訳じゃないから。家で遥お姉ちゃんに色々言われたりしたけど、私ってやると決めたらやり通す主義だから、遥お姉ちゃんに嫌われない程度に……ね」
わたしの好みが知りたいからこんなことを……。そういえば、妹が欲しくないかとか誰が好みだったかを聞いてきたことを思い出す。でもなんでそんなことを?
「わたしの好みが知りたいなら直接聞けばいいと思うけど。なんで、そうしなかったの?」
「それは、その方が面白いかなぁ~って、思ったからかな。でも結局、瑠璃華ちゃんの好みはメイドと遥お姉ちゃんみたいだし……出来れば妹にも興味を持ってくれれば……でもそれは後で、ゆっくりと妹の素晴らしさを知ってもらえれば……ふっ、ふっ、ふっ」
面白いかな~って、それだけの理由なの? でも、奏さんが嘘をついているように見えないし本当にそれだけなのかな? それに、なにか最後に言っていたようだけど、聞こえませんでした。
「メイドさんは好きだけど、それに遥先輩とはただの友達だから……」
「いいよ、いいよ。隠さなくても瑠璃華ちゃんと遥お姉ちゃんの関係はただの友達じゃないでしょ。まぁ、私も2人が何をしているのかを見たことも聞いたこともないんだけど、わかるんだよ。私も遥お姉ちゃんも似たような願いを持っているんだから。瑠璃華ちゃんならわかるんじゃないかな? 遥お姉ちゃんの願い」
遥先輩の願い……それは、誰かをご奉仕したり甘やかしてあげることでした。もしかして、奏さんも……。
「もしかして、奏さんも誰かをご奉仕したり甘やかしてあげることが願いなんですか?」
「ん~少しだけ違うんだけど……。まぁ、そろそろ図書室を閉めないといけないから、詳しいことは私の家で話してあげますよ。どうです? 遥お姉ちゃんも住んでいる家ですよ。行ってみたくないですか?」
遥先輩の住んでいる家……すごく気になります。でも、良いんでしょうか。遥先輩に確認した方が……。
「遥お姉ちゃんに確認しないととか思ってない? 私も住んでいる家なんだからそんなこと気にしなくていいんだよ。私が友達を家に連れてきただけなんだから……ね」
「た、確かにそうだよね。じ、じゃあ行くよ。奏さんと遥先輩の家に……」
「そっか、良かった~。じゃあ、行こっか」
奏さんが帰る準備をしている時、わたしは念のため遥先輩にメッセージで簡潔に事情を説明して奏さんに誘われて家にお邪魔することを伝えました。
その後、帰る準備を終えた奏さんと一緒に学園を出るのでした。




