33話 謎の女子生徒の誘い
次の日の火曜日。
放課後、わたしが廊下を歩いていると……。
「こんにちは……」
わたしの目の前には、長い黒髪の凛とした雰囲気を漂わせた女子生徒でした。
えっ……この子もわたし見たことないんだけど……謎の女子生徒って、2人いるの?
「こ、こんにちは……」
「ふふふ……どうしたんですか? 口が開いてますよ」
「あ、えっと……あなたは……だれ、ですか?」
「私ですか? ふふふ……誰だと思いますか?」
そう言われても……わかる訳ないでしょう……。昨日の女子生徒もそうだけど、何がしたいの? 聞いたところで答えてくれないだろうけど……。
「あの……わたしに何か?」
「ふふふ……つれないですね。瑠璃華さん。私は、あなたと少し話がしたいだけですよ」
話がしたいって……わたしとは、初めて会ったと思うんですけど……。しかも、この子もわたしの名前知ってるし……本当に、状況が理解できません。
「そ、そうですか……」
「瑠璃華さん。そう警戒しないで下さい。別に今は何もしませんよ」
えっ……今は何もしないってなに? 後から何かするの!? 目的がわからないから余計に怖いんだけど!
「い、今は何もしないってなんですか?」
「それは今、気にするべきことではないさ。ところで瑠璃華さん、君は妹が欲しいと思ったことはあるかい?」
「えっ? 妹ですか? ま、まぁ……わたし一人っ子ですから、姉か妹がいたらと、思ったことはありますけど……」
まさか、こんなことを質問されるなんて思っても見なかった。全く、この子の目的と意図が見えません。
「ふむふむ。じゃあもし、それが叶うとしたら?」
「まぁ、嬉しい? かな?」
「ふふふ……そうか、そうか……嬉しい……ね。じゃあ、私は行くよ。さようなら、瑠璃華さん。またね」
そう言いながら、その子は去って行った……。
またねって……もしかして、明日も誰かがわたしに会いに来るの? マジですか……誰でもいいから説明してくれないかな……本当に……。
◆◆◆
そして、次の日の水曜日には、テンプレと言ってもいいような金髪ツインテールのツンデレの子が現れ。その次の日の木曜日は、おっとり、ゆるふわな子が現れました。
わたしに、会いに来る目的を聞き出そうとしたんですけど、答えることなく去っていきます。本当に何なんだ……。
でも、あの子についてわかったことがあります。
確かに、雰囲気や髪形などが違って別人に見えますが、身長がわたしが会った子たち全員、同じくらいでした。それに、化粧などで印象は違うんですけど、顔立ちが何となくですが似ています。
恐らく、わたしが会ったあの子は同じ人が変装しています。正直言って、Stellaで働いている時の怜先輩もかなりの演技力ですが、あの子はその上を行っています。
一体なんのために、そんなことをしているのか。今日こそは、聞き出して見せます!
そう決意しながらわたしは、放課後の廊下を歩いていると……背後から人の気配がします。
「瑠璃華ちゃん。こんにちは!」
後ろから、挨拶をされたわたしは、振り返ります。すると……わたしの目の前にいるのは、月曜日に会った子でした。てっきり、今日も別人になって現れると思っていたので、少し驚きました。
「こんにちは、月曜日に会った人ですよね?」
「そうだよ~。う~ん……驚くと思ったんだけどな~」
「まぁ……慣れましたから。ところで、聞きたいことがあります。誤魔化さないで正直に話して下さい」
「いいですよ。でも、質問次第ですけどね」
そう言いながら、イタズラっぽく笑うその子にわたしは質問する。
「あなたは、変装してわたしに会いに来ていましたよね。何が目的なんですか?」
「ふっ、ふっ、ふっ。気付いたんですね。ところで瑠璃華ちゃん、誰がお好みでした?」
「いや……そんなことを言われても……」
「まぁ、そうですよね~。瑠璃華ちゃんはメイドさんが好きですからね~。わたしも、メイド服着ようかな~」
「えっ! なんでそれを……」
この子……なんで、そのことを……本当に何者なのこの子……。
「それに関しては秘密です」
「じゃあ、あなたの目的は何なんですか?」
「うーん……それは、教えられませんねぇ。でも、条件次第では教えてあげましょう」
「えっ……条件って?」
「それはですね……取り合えず、これをどうぞ」
差し出された紙を手に取り読んでみると……。
「妹喫茶『Sister's』? あっ……」
妹喫茶……わたしが通っていたメイド喫茶『bloom』の有った場所に出来るのは知っていたけど……。
「この場所はですね。前はメイド喫茶だったらしいんですけど。明日、妹喫茶としてオープンするんですよ。瑠璃華さんには、このお店に来てもらいたいんですよ。どうでしょう? 出来れば明日」
「明日ですか? まぁ、バイトは休みですけど……どうして?」
「それはですね。瑠璃華さんに少しでも妹の素晴らしさを知って貰いたいから……ですかね。もし来てくれたら後日、すべてお話ししますし。今やっていることを止めましょう。どうです? 来てくれますか?」
妹の素晴らしさ? よくわからないけど、こんなことをしている理由を教えてくれるみたいだし。それに、今やっていることを止めてくれるのならいいかも知れない。
「わ、わかりました。行きます」
「そうですか! よかった~いっぱいサービスしてあげますね! あっ! そうです。もう一つだけ約束してください」
「えっ! 何かな?」
「誰にも言わずに、一人で来てくださいね」
「誰にもですか?」
遥先輩に相談しようと思っていたけど……ダメそうです。
「そう、誰にも。もし約束を破ったら、今やっていることは続けます。そうしたら、生徒会長さんとかは苦労するかもしれませんね。ふっ、ふっ、ふっ」
遥先輩にこれ以上、苦労させるのは嫌ですし。ここは彼女の条件を呑むことにしましょう。
「わかった。誰にも言わない……」
「ふふふ……じゃあ、明日また会いましょうね。さようなら」
そう言って、去って行った。
「はぁ……どうしよう……」
わたしは、大きなため息をつきながら、生徒会室へと向かった。
その後、生徒会室で遥先輩といつも通り、甘やかして貰ったりしていたけど……。
「瑠璃華さん、どうしたんですか? 何処か体調でも悪いんですか?」
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていて……」
「そうですか……もしかして、あの子が瑠璃華さんになにか……」
「遥先輩、なにか言いました?」
「えっ! いえ、気にしないで下さい。では、そろそろ帰りましょうか」
「そうですね。遥先輩」
家に帰った後、わたしはベッドに横になりながら明日のことについて考える。
妹喫茶に行くのは良いんだけど……やっぱり、遥先輩に相談した方が良かったかな。でも、遥先輩が困るようなことはして欲しくないし……。これで、よかったのかもしれない……でもなぁ。
遥先輩に相談しなかったことを、少し後悔しながらわたしは眠りについた。




