20話 遥先輩と遊びに行こう
「遊びに……ですか?」
「ダメ……でしょうか?」
遥先輩が、不安げな表情でわたしを見てくる……そんな顔しなくても、わたしが遥先輩の誘いを断るわけないじゃないですか。
「遥先輩! 遊びに行きましょう! わたしも、遥先輩と遊びたいです!」
「瑠璃華さん、いいんですか。ふふ、とっても嬉しいです。では早速、行きましょうか瑠璃華さん」
笑顔になった遥先輩に急かされて、わたしと遥先輩は、学園を出たんですけど……気になることがあり、遥先輩に聞くことにしました。
「あの~遥先輩。遊びに行くのはいいんですけど……遥先輩は、その恰好で大丈夫なんですか?」
「まぁ、この学園は、寄り道程度でとやかく言われることは無いですけど。それよりも、私と瑠璃華さんが一緒に遊んでいたら、瑠璃華さんに迷惑をかけてしまうかも知れませんね」
「迷惑ですか?」
「はい、私って生徒会長として以外にも、目立ちますから。家のこととか、私の素顔を探ろうとしている人もいますから……」
あ~なるほど、遥先輩と仲良くしていたら色々と、しつこく聞いて来る人がいるかも……わたしもそういうのは、あまり好きじゃないからな~。
「でも、安心してください。以前、瑠璃華さんが繁華街で私を見かけたと言われてからは、駅のトイレで、私服に着替えてから、お店に行くようにしました。今日も、着替えを持ってきていますので」
「だから、荷物が多いんですね」
「はい。駅のトイレで着替えるのは、あまりやりたくはないんですけど。学園で着替える訳にも行きませんので……」
確かに、トイレにカメラを仕込んで盗撮とかする人もいるから、不安になるのもわかる。うーん……あっ! そうだ!
「そうです! 遥先輩、わたしの家に来ませんか? わたしの住んでるマンションは、学園の近くにありますから」
「え! とても嬉しい提案ですが、いいんですか?」
「いいですよ。駅のトイレで着替えるより、安心ですし」
◆◆◆
「へぇ~、ここが瑠璃華さんの住んでいるお部屋ですか。広くて綺麗なお部屋ですね」
「まぁ、最初は部屋が広くて浮かれてたんですけど、掃除が大変で、もう少し狭い部屋だったら良かったかなぁ~って思いましたね」
「ふふ、確かに大変かも知れませんね。お手伝いが必要なら私が、力になりますよ。私、掃除も料理もできますから」
「じゃあ、遥先輩に頼んじゃおっかな~なんて」
わたしは、冗談でそう言ったんですけど……遥先輩を見ると、遥先輩の目が輝いていた……遥先輩のわたしにしたいご奉仕の中には、掃除も含まれているようです。いつか、遥先輩がわたしの部屋を掃除するためにやってくるかもしれません。
「そ、そうです。遥先輩、早く着替えて遊びに行きましょう。脱衣所は、向こうの扉です」
わたしは、脱衣所の扉を指さすと、遥先輩は、少し待っていてくださいと言い残し、脱衣所に入って行った。
しばらくして……。
「お待たせしました、瑠璃華さん」
脱衣所から出てきた遥先輩は、すごく大人っぽくて……とても綺麗でした。わたしが、遥先輩の服を着ても似合わないでしょう。いつか、わたしも大人っぽい服を着こなす時が、来るんでしょうか? ……たぶん、来ないですね、うん。
「あの……どうでしょうか? 似合っていますか?」
「すごく似合ってます! 大人っぽくて、とっても綺麗です。メイド服と制服姿しか見たことなかったんで、すごく新鮮です!」
「そ、そうですか。瑠璃華さんに、褒めて貰えて嬉しいです。ところで瑠璃華さんは、着替えないんですか?」
「わたしは、着替えませんよ。遥先輩と遊ぶ時間が無くなっちゃいますから」
それを聞いた遥先輩は、そうですかと言って残念そうでした。そんなに、わたしの私服が見たかったのかな~。『Stella』で私の私服、見てると思うんだけど。まぁ、遥先輩と出かける機会は、沢山あるだろうから、その時でも良いよね。
「じゃあ、遥先輩行きましょうか」
◆◆◆
わたしと遥先輩は、繁華街にやって来ました。さて、何処に行こうかな? 遥先輩に聞いてみようかな。
「遥先輩、どこか行きたい所ってありますか?」
「え! 私が決めていいんですか? えーっと、そうですね……あっ! 私、ゲームセンターに行きたいです。実は私、プリクラって撮ったことないんです。瑠璃華さん、どうでしょう?」
「いいですよ。じゃあ、ゲームセンターに行きましょう」
ゲームセンターに着いたわたしと遥先輩は、早速、プリクラを撮りに行く。
「へぇ~中はこうなっているんですね」
中に入り、興味深そうに見ている。
わたしは、お金を入れて操作する。ふと、遥先輩を見ると少し緊張した表情で、棒立ちしていた。
「あの~。遥先輩、大丈夫ですか」
「え! はい、大丈夫です」
うーん。このままじゃ、証明写真みたいになちゃうよ。遥先輩の緊張をほぐすには……あっ! そうだ!
「えい!」
「る、瑠璃華さん!? なにを!」
わたしは、遥先輩の腕に抱きついた。時間も限られてるし、思いついたのがこれでした。
「遥先輩の緊張をほぐそうかと思いまして……嫌でしたか?」
「いえ! 全然、むしろ嬉しいというか、なんというか……」
「そうですか! じゃあ、撮りましょう。遥先輩、はい! 笑って~」
わたしは、遥先輩の腕に抱きついたまま、片手で操作する。遥先輩を見ると顔が少し赤くなっていた。恥ずかしいのかな?
あっという間に撮影が終わり。わたしは、遥先輩から離れる。
「あっ……」
「遥先輩。あとは、こうやって撮った写真に落書きをしたりするんですよ」
「え! あ~そうなんですか、面白いですね。私もやっていいですか?」
「はい! 一緒にやりましょう」
この後、遥先輩と撮った写真に落書きなどをして、プリントされるのを待つ。
「あっ、遥先輩、出来たみたいですよ」
「へぇ~思っていたより、綺麗に仕上がるんですね」
プリントされた物を遥先輩に渡すと、嬉しそうに見ていました。よかった~。
「ありがとうございます、瑠璃華さん。ふふ、何処に貼りましょう……」
「喜んでもらえたようで、良かったです。遥先輩、他になにかしたいことはありますか?」
「そうですね……店内を回りながら、考えましょうか」
「それもそうですね。じゃあ、行きましょう」
店内を見て回っていると、クレーンゲームコーナーで……。
「瑠璃華さん、このぬいぐるみ可愛いですね」
見てみると……なんと、前にわたしが、恵梨香に取ってもらったペンギンのぬいぐるみでした。
「遥先輩、やってみますか?」
「取れるかどうかわかりませんが、やってみます」
クレーンゲームに挑戦した、遥先輩でしたが……。
「む、難しいですね……どうやら、私では無理みたいですね……」
残念そうにしている遥先輩を見て。わたしは、取ってあげたいと思ったけど、わたしも取れなくて、恵梨香に取ってもらったからなぁ~。……そういえば、恵梨香はどうやって取ってたんだっけ? うーん……あぁ、何となくだけど思い出してきたぞ。
「遥先輩、わたしがやってみますね」
わたしは、恵梨香がぬいぐるみを取った時のことを、思い出しながらプレイする。何度か挑戦してようやく……。
「遥先輩! 取れました!」
「瑠璃華さん、すごいです。クレーンゲーム上手なんですね」
「いえ、友達が取った方法を思い出しながらやったからですよ。それじゃあ……はい! これ、遥先輩にあげます」
「え! いいんですか? でも、瑠璃華さんが取った物ですし……」
「遥先輩、もらってください。実はわたし、このぬいぐるみもう持ってるんですよ。前に友達に取ってもらったんです」
「そうなんですか、瑠璃華さんも同じものを……で、では、いただきます。大切にしますね。えへへ……瑠璃華さんと一緒、ですか……」
ぬいぐるみを大事そうに抱きながら、遥先輩はそう言ってくれました。
そういえばなにか、最後に言っていたような気がするけど……。まぁ、遥先輩に喜んでもらえたし、嬉しい……。
「ところで、遥先輩。この後、どうしましょうか?」
「そうですね……では、そろそろ出ましょうか。瑠璃華さん、どこか行きたい場所はありますか?」
「わたしですか?」
「はい、私が行きたい所に行ったんですから、次は瑠璃華さんの番ですよ」
わたしの行きたい所か~。そうだ! 恵梨香と凛子に渡す、お礼のお菓子を買わないと。
「じゃあ、わたし、『pâtisserie AMAI』に行きたいです」
「『pâtisserie AMAI』ですか?」
「はい。わたしが、遥先輩に連絡する勇気をくれた友達に、お礼がしたくて」
「なるほど。では、私も瑠璃華さんのお友達にお礼をしないといけませんね。瑠璃華さん、私もお礼のお菓子を買いますので、そのお友達に渡してくれませんか?」
「いいですよ。じゃあ、行きましょうか」
わたしと遥先輩は、『pâtisserie AMAI』で恵梨香と凛子に渡すお菓子を買いました。そして、遥先輩との楽しい時間も終わりに近づき……。
「瑠璃華さん。今日は、楽しかったです。また、遊びましょうね」
「はい! えへへ……わたしも、楽しかったですよ」
「ふふ、そうですか……それでは、瑠璃華さん。また、明日」
「遥先輩も気を付けて帰って下さいね」
そして、家に帰ったわたしは、遥先輩と撮ったプリクラを見て……遥先輩の腕に抱きついたことを思い出し……。
「あ、あれはちょっと、やり過ぎだったかも……でも、遥先輩の腕に抱きついた時……あたたかくて……安心したんだよねぇ……」
また、遥先輩と一緒に遊びたいなぁ……。




