1話 天国から地獄!? この街の中にメイド喫茶はございませんか?
3月。凛聖女子学園の合格発表の日、わたしは受験番号の紙を片手に貼り出された合格者一覧を祈りながら受験番号を探していた。
「えーっと。653、654、655、656?……656!あったーー!!」
わたしの受験番号を見つけた瞬間、今までの苦労が報われたことに安堵し歓喜の声を上げた。わたしは見事にこの長く苦しい受験戦争に勝利したのである。これで大好きなメイド喫茶に心置きなく通うことができるというものよ。
「へへへ。あっ! そうだ忘れるところだった。合格したことをお母さんに連絡しなきゃ」
わたしはポケットからスマホを取り出しお母さんに電話をかける。
「あっ!もしもしお母さん」
「瑠璃華。合格発表はどうだったの?」
「うん、そのことなんだけど。へへへ~、合格したよ!ご、う、か、く!」
「本当に!よかったじゃない瑠璃華。今日はお祝いね!」
「うん!あっ!そうだ。お母さん、わたし寄るところがあるから、もしかしたら遅くなるかも」
「あっ。もしかしてメイド喫茶に行くんでしょ。はぁ~、まぁ合格するまで我慢するって言ってたし……。わかった。あまり遅くならないでよ」
「うん、わかった」
スマホをポケットにしまうと、わたしは一足先にまだ興奮覚めやらぬ学園を後にした。
わたしは街の繁華街から少し逸れた通りにある雑居ビルを目指していた。そこには『Bloom』という、わたしがよく通っていたメイド喫茶がある。
思い返せばわたしが最後にあの店に行ったのは中学三年の夏休みに入る前、受験があるから店には受験が終わるまで来れないと涙を流しながら事情を話し、若干引かれながらメイドさんたちに慰められた。あの時は、メイドさんを愛でられなくなると思うと悲しくて堪らなくて泣いてしまった。
そして、わたしがメイド喫茶に行かなくなってから夏期講習や塾に通ったりして受験に向けての勉強に励んでいたんだけど……。
やはりメイド不足が深刻になっていって最初はメイドさんの夢を見ることから始まり。ゴスロリや色合いが似たロングワンピースを着ている人をメイドさんだと誤認するようになり、仕舞いには幻聴や幻覚まで見る始末でした……。
流石に不味いと気を紛らわせるため、最初は布切れで小さいメイド服を作ってみたりしたのだけれど……。
最終的にはわたし自身がメイドさんになればいいじゃないかと狂った考えに陥り、わたしが着るためのメイド服を作って家ではそれを着て勉強していました。あの時のわたしはマジで頭がどうかしていたんだと思う。
でも、そのおかげで落ち着きを取り戻した結果、見事合格したのも事実なんだよね~。
わたしが過去の黒歴史を思い出して歩いていると、『Bloom』のある雑居ビルが見えてきた。
「ふふふ、マリちゃんとサラちゃん元気かな~」
わたしはこの時、合格したことと我慢していたメイド喫茶に行くことの2つの要素によりとてもご機嫌だった。今からわたしはメイド喫茶という天国に行けるのだと信じてやまなかった……。
地獄に叩き落されるとも知らずに……。
◆◆◆
目的地の雑居ビル3階。わたしは『Bloom』の扉に貼られた紙を見て驚愕した……。
「う、嘘でしょ……。何でお店が閉店してるのよーーー!!!」
そう閉店していたのです。張り紙には『諸事情により閉店いたします』と書かれていました。
この街にはわたしが知る限り、この店しかメイド喫茶はないはずです。わたしは急いでスマホでこの街に別のメイド喫茶がないかを探しましたが……。
「やっぱり……。この街にメイド喫茶はこの店だけだったじゃん! なんなの! メイド喫茶は無くなってるのに、なんで執事喫茶と男装喫茶が出来てるの! それに妹喫茶がオープン予定ってなによ! しかも妹喫茶がオープンする場所ここじゃない! なんでメイド喫茶じゃないの! ……ううっ……もう帰ろ……」
次々と襲い掛かる驚愕の事実にわたしは悪態をつき、泣きそうになりながらその場を後にする……。
今日はわたしの人生において最高と最低を味わう日になるとは思っても見なかった……。
はぁ……。せっかく、家から学園に通うには距離が遠いことを理由に1人暮らしがしたいと両親を説得して、学園の近くにマンションを持っている親戚に合格したら部屋を用意して貰えることになったのに……。まぁ、本当はメイド喫茶に通いやすいからなんだけどね。
「はぁ~。わたしはこれからメイド喫茶のないこの街でなにを生きがいにすればいいんだろう……」
この街にないのであれば、ある所まで行けばいいだけなんだけど交通費や移動に使う時間がなぁ~。また、わたしは家でメイド服を着て気を紛らわすしかないのかな……3年間も……ただのバカじゃんわたし!
雑居ビルを離れ繁華街に戻ろうと来た道を戻るわたしは、何気なくいつもは通らない脇道へと入って行った。
この何気ない行動が今後のわたしの運命を変えることになるとは、今のわたしには想像すらできなかっただろう。
しばらく狭い脇道を歩いていると喫茶店と思われる看板を見つけた。
『Stella』? こんな人気のない所に喫茶店があるなんてもしかして隠れた名店ってやつかな? 色々あって疲れたしここで少し休んでいこう……。
わたしは扉を開け店内に入って行くとそこには……。