17話 2人の願い、そして……
そして、放課後。わたしは、生徒会室の前にいます。扉の向こうに遥先輩が、いるのかはわかりません……。いなかったら、どうしよう……そんな不安を抱きながら、わたしは、扉をノックする……。
「ど、どうぞ……」
生徒会室の中からわたしが、いま、一番聞きたかった声が聞こえた。わたしは、待っていてくれたことに、喜びながらも、この後が、重要なんだと自分に言い聞かせ、扉に手を掛けた。
「失礼します……」
生徒会室に入ると……メガネを外した遥先輩が、わたしの前までやって来ました。
「瑠璃華さん、まず、お話する前に謝らせてください。今まで、瑠璃華さんを騙していて、ごめんなさい……」
遥先輩は、わたしに対して、頭を下げる。
「遥先輩、頭を上げてください。わたし、遥先輩がハルだと知った時は、とっても驚きましたけど。怒ってなんかいません」
わたしが、そういうと遥先輩は頭を上げ、不安げな表情をして、話しかけてくる。
「瑠璃華さん、本当に怒っていないんですか? 私は、あなたを……」
「もう、遥先輩、何度でも言います。わたしは、そんなことで、怒ったりしません。わたしは、遥先輩に謝ってもらうために、ここに来たわけではありません」
そう、わたしがここに来たのは……。
「わたしは、また、遥先輩と楽しくお話がしたいからです。そのために、わたしは、ここに来ました」
わたしの言葉を聞いた遥先輩は……。
「私と楽しくお話がしたい……ですか……」
「わたしと話すのは……嫌でしたか?」
「いいえ! それは絶対にあり得ません。瑠璃華さんにそう言って貰えたことが、とても嬉しいんです。私、瑠璃華さんに嫌われたんじゃないかと思っていましたから……」
「遥先輩は、それが怖くて、わたしを避けていたんですか?」
「はい……瑠璃華さんに会って、もし拒絶されたらと思うと怖くなってしまい。瑠璃華さんを避けてしまいました。その事だけでも謝らせてください。本当に、ごめんなさい……」
そう言って遥先輩は、頭を下げる。
「確かに、わたしは、遥先輩に避けられた時、とても悲しくて……不安で……どうしたら良いかわからなくて……悩みました。でも、こうして遥先輩と話せていることがとても嬉しいんです……遥先輩、頭を上げてください。わたしは、遥先輩を許します」
頭を上げた遥先輩の顔は、とても嬉しそうで、いつもの遥先輩に戻っているようでした。よかった……わたしは、また遥先輩と楽しく話すことが出来る……そう思いました。
「瑠璃華さん、こんな、ダメな先輩ですが。また、今まで通り私と、お話してくれますか?」
「はい! 喜んで! 遥先輩、これからもよろしくお願いします!」
「瑠璃華さん……ありがとうございます。で、では、立ち話もなんですから、いつも通り座って話しましょう。実は、瑠璃華さんにお話したいことがあるんです。恐らく、瑠璃華さんが求めていることです」
わたしが、求めていること? 遥先輩の言葉に疑問を抱きながらソファーに座る。
「それで遥先輩、わたしに、話したいことと言うのは?」
「はい、それはですね。以前、私には、人には言えない願いがあると言ったことを、覚えていますか?」
確か、バイト先を紹介して貰った時に、聞いたような……。
「はい、覚えています。確か、バイト先を紹介して貰った時に、言っていた気がしますけど、わたしに話していいことなんですか?」
「むしろ、瑠璃華さん以外には、話すことは出来ないことです。瑠璃華さんの願いは、バイト先を紹介した時に聞きました。私は、瑠璃華さんの願いを聞いて、とても驚きました……」
やっぱり、わたしが、メイドさんにご奉仕して貰ったり、甘やかされたいという願いは変だったんだろうか……。
「だって、瑠璃華さんの願いは、私の願いでもあった訳ですから」
「えっ! それは、どういう……」
「私の願いは、誰かをご奉仕したり甘やかしてあげることです」
は? 今なんと……。
「あ、あの~もう一度言ってもらえませんか」
「ふふ、瑠璃華さん。私が冗談を言っていると思っていますね。私は、誰かをご奉仕したり、甘やかしてあげたいと思っているんですよ。今まで、私がそうしたいと思った人は、現れませんでした。でも……」
「でも……なんですか?」
「私の前に、瑠璃華さん。あなたが現れました。あなたを見て、この子なら、私の願いを叶えてくれるんじゃないかと思いました」
遥先輩の話を聞き『Stella』での遥先輩の行動を思い出すと、わたしの頭を撫でてきたことや肩もみと肩たたき、それに、乱れた髪を整えてもらったことを思い出す。
「もしかして、わたしが、お店に行った時に、遥先輩が、わたしにしていたことは……」
「はい、私が瑠璃華さんに、なにかご奉仕出来ないかと思って、理由をつけて行動した結果です」
「そ、そうだったんですね。急に肩を揉まれた時は、驚きましたよ」
「ふふ、肩を揉んでいる時の瑠璃華さんは、表情がふにゃっとしてて、気持ち良さそうでしたね」
「い、言わないで下さい。でも、まさか遥先輩の願いが、そういうことだったとは、思いませんでしたよ」
遥先輩の願いを聞いて、わたしは、少しだけ期待してしまう。本当に、わたしでいいのかな?
「遥先輩の願いを叶えるのは、わたしでいいんでしょうか?」
「瑠璃華さんがいいんです。私は、瑠璃華さんの願いを叶える自信があります。だから、お互いの願いを、叶え合う関係になりたいと思っています。いかがでしょうか?」
遥先輩の顔を見ると、それを心から望んでいることがわかる。わたしの、答えは決まっています。遥先輩がハルとして、わたしにしてくれたこと……それは、わたしがずっと夢見ていたことですから……。
「はい! 遥先輩に、わたしの願いを叶えて欲しいです。これから、よろしくお願いします」
わたしの言葉を聞いた遥先輩の笑顔は、とても輝いていました……。
「先輩としては、ダメダメかもしれませんが、瑠璃華さんの願いを全力で叶えて見せます」
こうして、わたしと遥先輩との問題は解決しました。わたしは、問題が解決した安心感からか、眠気が……。
「ふあぁ~~」
「瑠璃華さん。もしかして、寝不足ですか?」
「まぁ、あまり眠れませんでしたから……でも、遥先輩が、気に病む必要はありませんからね。わたしたちの問題は、解決したんですから。今日は、ちゃんと眠れると思います」
わたしがそう言うと、遥先輩は少し考えた後……急に、ソファーから立ち上がると、わたしの座るソファーにやってきて……わたしの横に座った。
「は、遥先輩、どうしたんですか?」
「早速ですが、瑠璃華さんの願いを叶えようかと思いまして」
遥先輩は、自分の膝をポンポンと叩いた……それって、もしかして……。
「瑠璃華さん、私の膝を枕にして眠って下さい。下校時間まで、まだ時間がありますから。時間になったら、起こしますので安心してください」
「い、いいんですか……」
「はい。さぁ、どうぞ」
「で、では……失礼します……」
わたしは、ゆっくりと遥先輩の膝に頭を乗せた……や、やわらかい……わたし、膝枕って初めてかも……ファーストキスならぬ、ファースト膝枕の相手が遥先輩とは……誰が、予想しただろうか。
「瑠璃華さん、どうですか。私の膝の寝心地は」
「ひゃ、ひゃい! や、やわらかくて、温かくて、サイコーです……はい……」
「ふふ、それは、良かったです」
そう言って、遥先輩は、わたしの頭を撫ではじめた。遥先輩の細い指が、わたしの髪を撫でる。まるで、大切な物を扱うような、優しい手つきで……その手から伝わる温かさが心地いい……。
「どうですか~瑠璃華さん。眠れそうですか?」
「はぁい、少し……眠くなってきました……ふあぁ~」
「ふふ、大きな欠伸ですね。瑠璃華さん、安心して眠って下さいね」
遥先輩の優しい声に、わたしの瞼が段々重くなっていき……わたしの瞼が閉じた時……。
「お休みなさい、瑠璃華さん……」
その声が聞こえた瞬間、わたしは、眠りについた……。
◆◆◆
「瑠璃華さん、起きてください。瑠璃華さん」
遥先輩が、わたしを優しく起こす。
「ふあぁ~。遥先輩、もう時間ですか?」
「はい、気持ちよさそうに眠っていたので、起こすのは心苦しかったんですが、下校時間がありますから……」
「大丈夫です。遥先輩のお陰でよく眠れましたから」
「それは、良かったです。じゃあ、瑠璃華さん、帰る準備をして帰りましょうか」
「はい!」
わたし達は、生徒会室を後にして、校門まで一緒に向かう。
「そういえば、瑠璃華さん」
「なんですか、遥先輩?」
「5月の中旬には、中間テストがあります。もし、瑠璃華さんが良ければですが、テスト期間に入ったら、テスト勉強を一緒にしませんか? わからない所があれば、教えますよ」
そういえば、そんなことを聞いたような気がする。わたしは、勉強が出来ないわけではないけど、遥先輩が教えてくれるならいいかも。
「いいですよ。そうだ! その時は、わたしの家でどうですか? 1人暮らしですし、ちょうどいいと思います」
「いいんですか。私の家には、妹がいますし助かります。では、予定は後日決めましょう。それでは、瑠璃華さん。さようなら」
「はい! 遥先輩、さようなら」
遥先輩と別れて家に帰ったわたしは、これから始まる遥先輩との人には言えない秘密の関係に心躍らせるのでした。




