11話 瑠璃華、アルバイトの面接で再会する
わたしは今、面接のために『pâtisserie AMAI』に来ています。お店の店員さんに面接に来たことを伝えると、奥の部屋に通されて、担当の方が来るのを待っているところです。いや~面接なんて、高校受験以来なんで、とても緊張しています。
しばらく、待っていると……1人の女性が入ってきました。
「待たせてごめんね。瑠璃華ちゃん」
入って来てすぐに、わたしの名前を呼ぶ女性の声に聞き覚えがあり、その女性の顔をよく見てみると……。
「マ、マリちゃん……」
「久しぶりだね、瑠璃華ちゃん。元気してた?」
わたしの目の前にいる女性は、通っていたメイド喫茶『bloom』のメイドさんだった、マリちゃんでした。なんで、マリちゃんがここに?
「あはは、驚いてる、驚いてる。実は、この店ね。私の両親が経営しているんだ」
「そ、そうだったんですか……」
まさか、ここでマリちゃんに出会うとは思っていませんでした。色々聞きたいことはあるのですが。今、大事なのは面接ですよね。
「まずは、ちゃんと自己紹介しないとね。私の名前は天衣真莉愛。まだ、見習いだけどパティシエールやってます。よろしくね、瑠璃華ちゃん」
「よ、よろしくお願いします。真莉愛さん」
「瑠璃華ちゃん、そう緊張しなくてもいいのに、私と瑠璃華ちゃんの仲じゃん」
「で、でも、わたし面接に来た立場ですから……あまり馴れ馴れしく話すのは、どうかと思いまして……はい……」
面接を受けるという緊張と、思いもよらぬ元メイドさんの登場で、わたしは何が何だかわからなくなってる。
「たしかに! それじゃあ早速、面接を始めようか。履歴書出してくれるかな」
その後、わたしは緊張と戸惑いを隠せない中で、面接は進んでいったんですが……。
「それじゃあ、瑠璃華ちゃん。シフトについての話しようか」
「えっ! ま、待ってください。真莉愛さん、まだ採用されてないのに、なんでシフトの話を……」
「なんでって、瑠璃華ちゃん。採用だからだよ」
「いやいや、真莉愛さんの独断で決めていいんですか? 店長さんに話を通したりしないんですか?」
突然、採用なんて言われたら、誰だって驚くと思うんですけど……。このお店に来てから、驚くことばかりですよ……。
「あはは、瑠璃華ちゃん。いつもの調子に戻って来たね。大丈夫だよ、ちゃんと店長、うちの両親には話してあるから。実は、瑠璃華ちゃんが、うちの店でバイトしたいって加恋から連絡が来てから、両親に採用前提で話してたからね」
「採用前提って……どうやって、説得したんですか。それに、いま加恋っていいましたよね」
困惑するわたしの質問に真莉愛さんは……。
「まず、両親の説得には瑠璃華ちゃんを紹介してくれた。遥ちゃんの名前を使わせて貰ったよ。遥ちゃんもその事には、同意してくれたからね。有名な春町グループの社長令嬢の紹介だって言ったら、すぐOK貰えたよ」
まさか、遥先輩がここまでしてくれていたとは……遥先輩って、本当にいい人すぎますよ。一体どうやって、この恩を返せばいいんですか。わたしがしてあげられるのは、雑用くらいしかないんですけど……。
「それと、加恋についてなんだけどね。加恋は今、あるお店の店長をやってるんだよ」
加恋さんというのは、わたしが通っていたメイド喫茶『bloom』の店長さんです。わたしがお店に通っていた時に、とても良くしてくれた人です。
お店が無くなって、加恋さんはどうしたのか、とても気になっていました。お店についても、何があったのか聞きたかったですから。真莉愛さんに色々聞いてみましょう。
「わたしが、採用された件に関しては、わかりました。お店と加恋さんについて、教えてくれませんか?」
「まぁ、私は詳しい事は言えないから、後で本人に聞くといいよ」
んん? 後で?
「後でって……どういう意味ですか?」
「まぁ、今はいいじゃない。とりあえずこの話は一旦置いといて、シフトについて話そうか」
恐らく、聞いたところで教えてくれないだろうし……しょうがないか……。
「そうですね、すいません。面接なのに関係ない話をして……」
「いいの、いいの。気にしないで、後でちゃんと教えてあげるから」
この後、シフトについての話をしました。毎週月曜日は定休日で、土日のどちらかは交代で休めるそうです。出来れば週一で『Stella』通いたかったわたしにとって朗報です。
それと、毎年、夏季休業で一週間お店を閉めて、真莉愛さんのご両親は旅行に行くそうです。
「まぁ、この仕事で一番大変なのは、クリスマスだからね……覚悟しといたほうがいいよ。本当に大変だからさ……」
「は、はい。覚悟はしておきます……」
やっぱり、クリスマスは忙しいんだな~。今から心配になって来たよ……。
「じゃあ、これでバイトについての話はお終い。来週からよろしくね~。それじゃ、瑠璃華ちゃんが聞きたかったことについて、話そうかな。その前に、加恋入ってきて~」
「やぁ、瑠璃華ちゃん。去年の夏休み前以来だね~」
「加恋さん! どうしてここに!?」
わたしの目の前に現れたのは、加恋さんでした。まさか最初からこのお店にいたんですか!?
「今日、面接だって真莉愛から聞いていたからね。瑠璃華ちゃんには、私からちゃんと話すべきだと思ったんだ。ごめんね、お店が無くなってて、ショックを受けてたって、ハルから聞いたからさ……」
「な、なんで、ハルのことを知っているんですか?」
「それは、私が『Stella』の店長だからよ。雇われだけどね……」
「う、嘘……。ほ、ほんとですか?」
「私は、瑠璃華ちゃんに嘘なんかつかないよ。色々とあってね……」
「色々ってなんですか?」
「まぁ、お店については経営が苦しくてね……もうお店閉めるしかないと考えていた時に、遥ちゃんの母親がお店にやってきて、このお店を買い取りたいって言ってきてね。まさか、社長自ら交渉しに来るとは、思っても見なかったよ」
「なるほど、それでお店を手放したと……」
「そうなんだ、提示された条件も良かったし。何より、遥ちゃんの母親と趣味が合って意気投合してね。新しくメイド喫茶やるから、店長やらないって聞かれたから、やるやるってね」
「えぇ……」
ノリが軽い、軽くない?
「な、なるほど~。理解しました……」
「あぁ~よかった~。瑠璃華ちゃんにキチンと話せて。真莉愛、今回はありがとね」
「いいですよ。私と加恋の仲じゃない。私も瑠璃華ちゃんに会えて嬉しかったし」
「じゃあ、瑠璃華ちゃん。これからも『Stella』をよろしくね。私、もう行かなきゃ。じゃあね~」
そういうと、加恋さんは帰って行った……。
「あはは、驚いたでしょ」
「ほんとですよ。まさか加恋さんがいるなんて思いませんよ」
「瑠璃華ちゃんを、驚かせたくてさ。でも、会えて嬉しかったでしょ」
「それはもう、ずっと気になっていましたし……」
本当に、心配でしたから、元気そうでよかったです。でも、まさか『Stella』の店長をやっているなんて、思いもしませんでした。
「それじゃあ、瑠璃華ちゃん。私、そろそろ仕事に戻らないといけないからね。あっ! そうだ、これ瑠璃華ちゃんにあげるよ。私が作ったんだ」
「ありがとうございます。真莉愛さん」
帰り際に、真莉愛さんからスコーンを貰いました。家に帰って食べたら、とても美味しかったです。今日は、思いがけない再会で、驚いてばかりの1日でした。




