~死守~シマ~
死んで守ると書いて、シマ。
これは、任侠界で言うところの縄張りである。これを取られたり、荒されたりした任侠組織は、その土地では生きて行け無くなり、看板を降ろして組を解散するしか無いのである。
「オヤッさん!このままあいつらの好きにさせとくんすか?」
とある弱小任侠一家の幹部会。そう声を荒げて、上座に座る、風祭一家初代総長、風祭源治に問いかけたのは、当一家の若頭を勤める、彼の実の娘、風祭洋子だった。
「少し落ち着け!洋子!事はそんな簡単なもんじゃねぇんだ……もちろん奴等の侵攻を野放しにはできねぇのも解ってる…けど…事はそれだけじゃねぇんだ……ここでドンパチ始まってみろ俺達を信じて今日まで来てくれた堅気衆やお前達の命だって保障はできねぇ……」
彼はそういうと、傷だらけの厳めしい顔を更に歪めて、ショートピースにマッチで火をつけると、ため息のように、紫煙を吐き出すのだった。
「オヤッさん……いいや…父さん堅気衆はあたし等が絶対守る!それに…あたしは父さんの組に入った時から決めてたよ……あたしの全てを父さんに預けるって!だから父さんも信じてよ!あたし等を!」
彼女はそういうと、周りの視線をはばかること無く、着ていた一家の半纏を脱ぎ、背中一面に彫られた枝垂れ桜の弁財天を皆の前にさらけ出すのだった。
「……ふ…まさか決起の時を実の娘に諭されるたぁな…ったく俺もヤキが回っちまったなぁ……洋子!裕司!一家の仕切りはお前達二人に任せる!奴さんにゃあ俺一人で掛け合ってみるよ……俺に万が一の事があったとしても二人は一家の再興だけを考えてくれ!」
それは彼の、苦渋の決断だった。しかし、彼の掛け合いは徒労に終わり、風祭一家は関東炎龍会の軍門に下るしかなかったのである。