計画78
「邪魔をしてくるな、妖精王は。まったく運の良い奴め。こうなったらお前の話を聞いてやる、話せ」
「そうですね、その後ろの部屋の中にある魔核をいただきましょうか」
「そんな願いが通るとでも?」
「無理に決まってますよね。わかっていますよ」
「ならば、我の言う事を聞け」
「こんな事をする奴が言う事を聞くと?」
「忌々し」
ええ、私もとっても忌々しく思っていますよ。何故黙ってまともな協力をしないのか。
さてここからどうしろと?こんな状態でどう和解すれば?
「互いの意見は不一致、どうしたものか」
「そうですね、私は別に必ずしも貴方の魔核が必要というわけではないんですけれどね? ちゃんと相談していただき、意見を交換し合いながらお互いの自由を尊重して勇者抹殺の計画を立案しよう。そう言っていただけるのなら喜んで握手をしましょう」
「前の世界のようにか?」
「まぁ、そうですね」
「前の失敗に終わった世界のようにか!」
「失敗? 失敗ってなんですか。ちゃんと勇者の事は抹殺できましたよ」
「なら何故お前はまた勇者の抹殺をしなければならない状況にいる! この状況こそが失敗の証ではないのか!」
この状況はたしかに失敗と言われたらそう見える部分もあるかもしれませんが、あの世界では勇者を殺せていました。そう、失敗ではないんです。
ただあの妖精王が変なことさえしなければ上手くいっていたんです。だから完全に失敗と思われるのは心外です。
「たしかに失敗と思われてもしょうがないですよね。しかし、勇者を殺す事はできたんですよ? つまり殺し方さえ変えれば……」
「それができると? お前は言ったな? 妖精王様はお前を観察していると、その理由は楽しい結末がみたい。ようはそんな理由だ。そんな監視のあるお前と何故手を組まねばならん! もし、また気に入らないとなったらやり直しをさせられるかもしれんのだぞ!」
「そ、それは」
「我はな、お前から世界を手に入れていたという話を聞き喜んだ。我らの夢が叶ったのだからな。しかし、しかしだ! そんな最高な気分もお前の話を聞き消え失せた。なんだ? 結末が面白くないとは? どういう事だ? もっと人間を観察したいとは? ふざけるなぁ! 我らの夢を、希望を、そんな理由で邪魔するな!」
魔王はこちらを睨みつけながら、涙を流していた。まさかそれほどの感情を抱いていたなんて考えてもいなかった。
私はもしかしたら魔王に前の世界での出来事を話したのは失敗だったのかもしれない。いや、失敗だったのでしょう。もし、話さなければきっと前のようにお互いに協力し合った計画で勇者の抹殺をしていたでしょう。さて、なんて答えれば……。
「何も言えずか」
「正直に言って魔王がそんな風に思っていたなんて考えていませんでした」
「理解したか、ならば今後は我の言う通りに」
「しかし! だからといってなんですかって気持ちですよ」
「なに?」
「ギャーギャー文句を今更言いだして、なんですか? 知りませんよそんな事。私だって勇者抹殺する前に戻された被害者ですよ? なのに全て私が悪いように言ったりして、とても不愉快です。いいですか? 私と一緒に計画を立てたらまた同じ目にとか考えているなら、貴方はとんでもなく馬鹿ですよ」
「誰が馬鹿だと!」
「貴方ですよ。よく考えてください? 私を排除し、ただ利用して勇者を抹殺する計画を考えました。成功しました。それで? どうなるんですか?」
「そんなの我がまたこの世界を手に入れてだな」
「はぁ、肝心の面白さというのは? もちろん考えているんですよね?」
「……」
「妖精王様は別に貴方と一緒に勇者殺しを計画したから時を戻したんじゃないんです。私達が考えた勇者殺しの計画が面白いと感じなかったから戻したんです。わかっていますか?」
「そ、それはわかっている。だからお前との協力関係を辞め、利用しようと我は」
「そしてこんな風になってしまった。妖精王様も観察だけする筈が私の手助けをしに来るという事まで」
「……」
「妖精王様が人間の観察、何がしたいと思っていますか?」
「なんだ」
「人間の感情によりどう行動するのか? だと思いますよ。そして、絶望という感情はとっくに観察は終わっているかと」
「それは我がお前を利用した計画をしたからか?」
「いいえ、前の世界で散々私が絶望感を味わっていたからです。そして奇跡のような出来事により勇者を殺す事がなんとかできた。そんな私にまだ絶望するような感情、負の感情を観察したいと思いますかね?」
「思わない?」
「ええ。妖精王様が観察したい感情はおそらく、最後の方で見せた奇跡による私の正の感情でしょう。かなり嬉しくテンションも上がってノリノリで勇者を煽って笑顔になって殺しましたからね」
「そしたら我がやってきた計画は」
「妖精王様にとっては無駄。退屈な観察だったでしょうね。だって私、とても辛かったですから」
「そんな……」
魔王が呆然として固まってしまった。いきなりの今までの自分のした事が無駄で、また同じことをやらされるかもしれないという恐怖心が湧いてきたのかもしれない。
まぁ、妖精王の思考話なんて私のてきとうな嘘話なんですけれどね。なんとなくそれっぽい事を言ったら魔王が協力的になるかもしれないという打算。
しかし、少しは当たっているような気もするこの考え。私を観察して人間を知りたいと言っていた妖精王。なのに私は負の感情ばかり、だったら少しは手を貸して他の面を観察できるように環境を整えるなんて、考えていそうなんですよね。今回ももうダメだって落ち込んだ時に来ましたし。最後まで手は貸さずに話し合えって言って帰った事から、私の今の状況を良くしようって考えたら納得できる行動ですし。
「それで? これからどうします魔王」
「我は……」
魔王が私に返答したのは。




