計画75
投げたナイフの数、8本。その内6本のナイフが私の体に刺さっていると思います。
最初の2本は痛みを感じました。でも 3本目、それが胸の辺りに刺さった時から意識がぼんやりとして……。なんだか、感覚が、無くて。
「リーン! 返事をしてくれ! 頼むから、お願いだから顔をこっちに向けてくれ! リーン!」
「あっらぁ? あっらあっらぁ? 王女ちゃんってばおネムなのかしらねぇ。キャハハハハ! あんなに叫んでる勇者様を無視するなんて、ここら辺のナイフをもう少し深く刺したらもっと寝やすくなるかなぁ?」
「やめろぉ! 手を出すな、この外道が! よくも、よくも俺のリーンをこんな目に合わせたな! 絶対に許さない。絶対に殺してやる!」
「おやおや、このナイフを刺したのは勇者様じゃないですか! そちらの的に投げてはほとんど王女ばかりの的へナイフを突き刺して、そんなに殺したかったのですか? 一応2本程度私に刺さっていますがね」
「違う違う違う違う違う違う! 俺は、お前の的を狙って、それで」
「あ、早くあと残りの2本を投げたほうがいいのでは? このお遊びも終わりませんし、王女ちゃんも限界きちゃいますよ?」
「わかってる!」
「おっと、そうだった。これ以上王女ちゃんにナイフが刺さったらどうなるんだろうね?」
静かになる空気。動きの止まる勇者。ニヤつく魔物。意識のないリーン。
誰も何も言えない空気でもやはり関係ないと言葉を発したのは勇者だった。
「頼む。もうやめてくれ」
「ん? 何を?」
「もう、この的当てをやめさせてくれ!」
「嫌だ」
「なんでも、どんな事でも言うことを聞く! だから! お願いだ! リーンを助けさせてくれ。リーンは俺にとって大切な人なんだ。失いたくない。死なせたくない。お願いします、どうか、お願いします」
「あのさぁ、勝手だよね? そっちは魔王様を殺そうとしているんだぞ? こっちにとっての大切な方だ。なのにお前だけ大切な人を死なせたくない? 調子に乗るなよ。あーー、殺したくなってきたこの女」
「わかった! 約束する! 俺は絶対に魔王を殺さない。だからリーンを殺さないでくれぇ、頼むからぁ」
「信用できないな。そうやって演技しているかもしれないし」
「してません。本当に魔王を殺しません。だから、だからお願いします。リーンを早く治療させてください」
「君ってそれでも勇者なのか? こんな女1人の為に人類滅亡を選んじゃうの?」
「俺には何よりもリーンが大切なんだ、だから」
「でも、魔王様を倒さない勇者に価値ってあるのかな?」
「え……」
「だって、君は勇者だ! 魔王様を倒すためだけにいる存在。それなのに役目を放棄していったい君の存在価値は?」
「そ、そんなの関係ない。リーンは」
「王女ちゃんは別の人の物になるだろうねぇ」
「そんなわけ」
「があるんだよ! だって、君は何にもないんだもん! 無能で役立たず。そんなのに王族が結婚? しないしない。考えろよ」
「そ、そしたら俺は……」
「うん! 魔王様を殺す覚悟を決めて王女ちゃんにサヨナラするか、魔王様を殺さないで王女ちゃんを生かしてなおかつ、王女ちゃんとサヨナラするか。どのみち王女ちゃんとはサヨナラだよ」
2択はあってないようなものだった。返事をすることができない。リーンの大切さは自分のものだからこそ、助けても一緒になれないなら……。
そんな考えをして、危険な決断をしようとしたら魔物はまた話しだす。
「これから言う契約をしてくれるなら、全てが丸く収まるかもしれないけどねぇ?」
「わかった! その契約をしよう!」
「良いんてますか? まだ話してませんよ?」
「リーンを助けられて、一緒になれるならどんな契約でも良い!」
「わかりました。それではその契約というのはですねぇ……」
勇者は内容を聞き驚いたが、その契約を結んだ。勇者にとってその契約しかもう色々な意味で助かる方法がなかったから。
いつのまにか寝てしまっていた……。違いますよ、私気絶したんですよ。
そりゃそうですよね?あれだけ血を流せば意識なんてなくなりますよ!もう少しで死ぬところだったんじゃないですか?私。
現状を見ると、体に刺さっていたナイフも無くなって傷もない。おそらくベルとザザールが合流し、助けられたってところですかね?
馬鹿達はここら辺にいるのでしょうか?目が覚めた事ですし、私もこの宿から外に出てみようかと。
コンコン。
「はい、どうぞ」
ノックをするならザザールかベルですね。事情が聞けそう。
「起きていたか、王女よ」
「は……」
これは夢ですかね?何故目の前に魔王が居るんですか?ここは宿ですよね?
いや、よく周りを見るとこの部屋見覚えが……。もしかして前に使っていた部屋では?
「え、あの、え? なんでここに魔王が?」
「我が城に居て何がおかしい」
「ここって……。やっぱり魔王の城? ちょっと待ってください! なんで私がここに居るんですか!」
「起きて早々にうるさい奴だ。お前は契約の為に使われた駒だ」
「け、契約?」
「そう、契約」
「私がいつ契約を?」
「お前ではない、勇者だ」
「利用したんですか? 私を」
「聞きたいか? どんな契約か?」
「教える義務があるでしょう! 何故こんな事までしたのか! あんな目にあわせたのか! 全部話してもらいますよ!」
私の目の前に居るニヤけた魔王が腹立たしい。殴ってやりたいが、そんな事をしてもなんの得にもならない。私は不愉快でも今は我慢するしかなかった。




