計画53
「それでは門の準備をお願いしますね」
「ああ、我らに任せておけ。それよりも王女は自分の心配をしておくがよい」
「そうだな。これからお前のやる事はほぼいや、完璧に自殺みたいな行動だからな」
「頑張ってきますよ……」
私はこれから勇者に会いに行く。とても正気ではやってられないのだが、やるしかないのだ。
門を作るのには別に私は必要がない。ここに居る魔物達や魔王達で形は完成できてしまう。ならば私の役目は?そう、勇者を連れてくるための囮になる事。この門まで連れてくるのが私の役目。
途中で殺されませんように……。
「勇者は南西の村を出て、平原の魔物を殺しまくっているようだ。そこにお前を送り込む。お前は俺達が門を完成させるまで勇者を惹きつけろ。そして、完成したら合図をするから勇者に触れろ。その瞬間にここへ戻すからな? いいか? 絶対に死ぬなよ? 戻ってきてからもお前の仕事は残っているんだからな」
「それならば、門を完成させた直後に王女を勇者のもとへ送れば良いのでは?」
「それはこれ以上俺達に犠牲者を出せと言ってんのか?」
「いやぁ、そんなことは、王女助けてくれ」
「はぁ。これが考え無しの馬鹿なのは知っているでしょう? 怒っても無駄ですよ。早く勇者のところへ送ってください」
馬鹿ってなんだ!という声を無視して私は勇者の居るであろう場所へ行った。
最初に目にしたのは草むらに転がっている、無数の死体……。魔物だけならまだ笑顔を保てたかもしれない、しかし中には人の死体もあった。
これから声をかける相手が魔物だろうが人間だろうが殺しているのは知っていたのですが、実際に見るとやはり、ちょっと。
「お前はぁ、リーンじゃないかぁ?」
「えっ?」
声のした方向に顔を向けると、剣が私に振り下ろされるところだった。
「きゃっ!」
「あははは! その声、その顔! やっぱりお前はリーンだ! 殺したかった。殺したかったぞ! あはははははは」
咄嗟に転がって避けて勇者に顔を向けると、以前の勇者の姿はなかった。
ボロボロな服に、血塗れな全身。血によって固まっているであろう髪に、血走った目は周りにクマができていてとても怖い。持っている剣をよく見るととても刃こぼれをしてボロ剣。
勇者じゃなくて、アンデットかなにかですか?
「あの、勇者ですよね? だいぶ印象が変わりましたね」
「死ねぇ、クソ女」
「嫌ですよ。というよりも、さっきから会話するつもりありますか?」
「何を話したいって? この裏切り者がぁ! 絶対にお前は苦しませて殺してやるからな。その顔を切り裂いて、手足を折って、何も抵抗できなくしてボコボコにしてから殺してやる」
「そう簡単に殺されませんよ。というか、勇者は何をそこまでおこっているのですか?」
「は?」
「私にはまったく身に覚えがないので」
私が平然とそう言うと、勇者が怒鳴り返してきた。
「お前は俺を呼び出してあんなにこき使いながら、魔王と結託して元の世界へ戻そうとしたじゃないか!」
「そんな、私はただ勇者は故郷に帰りたいかなぁ? と思ってあの門の前に行っただけですよ。まさか魔王が生きていたなんて思いませんでした」
「あの時、俺が門に入った時に笑っていただろ!」
「見間違えでは?」
「だいたい、魔王を殺したらお前は俺の物になる約束だ!」
「それは父が勝手に約束した事でしょう? 私は了承した記憶はありませんが?」
「なんだと? あれだけお前は笑っていたじゃないか! 楽しそうに話していたじゃないか!」
「それはそうでしょう。これから世界を救ってくれようとする人ですよ? 失礼な態度はとれませんよ。話している内容は意味不明でしたけどね。なんでしたっけ? えっと私達の子供とか言ってましたっけ? フッ、ありえませんよ」
「ガァァアァア! こ、この……どこまでも俺を馬鹿にしやがって!」
なにこれ、結構楽しいですね。勇者ものすごい顔してますよ。このままだと一気に殺してきそうですね。他に……あ!
「勇者はそんなに私が好きだったと?」
「今、殺してやる」
勇者が急に迫ってきたので急いで防御魔法を使った。
「ホーリーウォール」
「く、邪魔だ! この! この!」
「質問に答えてくださいよ。好きだったんですか?」
「結婚しようとしていたんだからわかるだろ!」
「私、囚われている時に貴方のことを聞いたんですけど」
「囚われているだと? 嘘つくな!」
「どこかの村の女の子、それも私に似た人ととても良い雰囲気になっていたそうで」
「な! え、や」
「しかも、告白のようなことをして結果的にキスした。とか? これはどういう事ですかね」
「あ、あれは。その、えっと。リンは……」
「そうですか、リンというのですね。良かったじゃないですか! 愛し合える人が見つかって。あ! だから元の世界に帰りたくなかった……あれ? でもあの時は私と結婚とか言っていましたよね。おかしいですね。そのリンさんのことはどうでもいいんですかね?」
「お、俺は。いや、その、違って」
うわぁ。塞ぎ込んでなんか凄い悩みだしましたよこの人。殺気が狂気がとても薄まっているのですけれど……このまま背中からサクッと刺せそうですけども、この後これを利用しなくてはいけませんからね。
魔王からの連絡はまだですかね?




