計画44
とうとうこの日が。たった数十日間の出来事でしたが、私にとってはとても長く辛い時間でした。自国から出て魔王と交渉し、アイツを抹殺するために手を組み様々な計画を考えた。
しかし、その計画のほとんどが失敗……。自分の愚かさがとても憎いと感じた事が何回あったか。
他にもアイツとのキスなんて、今でも悪夢。あの出来事は記憶から消し去りたい。そんな魔法があったような?
だけど、色々あったけれども!やっと今日で終焉を、奴を地獄に叩き落とせる!覚悟しなさい、勇者……。全ての恨みをぶつけましょう。
「王女、そろそろ気絶のフリをしてくれ。抱えて門のところに行くから」
「わかりました。あ、変なところは触らないようにお願いします」
「我は魔王なんだけど。ほら早くもう来るから」
目をつぶって、魔王に抱えられる。お腹の圧迫感で少しウッとなるが、我慢しなくては。飛んでいることで余計にお腹に腕が食い込んでくる、苦しい。
「ようこそ、勇者……。殺されに来たか」
ちょっと、勇者は死なないでしょう!そのセリフは少し変ではないですか?
「ようやくだ、ようやくこの時がきた! 殺してやるぞぉ? 魔王がぁ!」
「この我を殺すとは大きく出たな」
「お前をよぉ、殺せばさぁ。俺の残りの人生は最高なんだよ。俺のために死ねや」
「お前、勇者だよな?」
「そうさ! 俺は勇者だ! 勇者太一様だぁ! アハハハハ」
「これが我のライバルなのか……」
え?何これ。気持ちが悪いですね。こんなのが勇者って嘘ですよ。どれだけ性格がおかしくなっているですかこの人。
「アハハハハ。ん? おい、何俺の物に触ってんだよ。それ、こっちに寄越せよ。ほら、早く」
「え? いやこれは人質だ! そう、返して欲しければこの奥に来るがいい。そこで決着をつけるぞ」
「ふざけんな! 待ちやがれこのクソが! それは俺の大切なもんなんだよ、ちくしょうめが! 行くぞ、シラー」
「ああ……」
「王女よ、お主を物扱いしてなかったか? 勇者の奴」
「してましたねーー」
最低最悪な人間じゃないですか、あれ。何があったらあんなに終わった人間になるんですか?私嫌ですよ?あんなのと結婚とか、本気で。というよりも、あんなのが好き!なんていう人いるんでしょうか?あの状態の勇者をお父様に見せたら、意外とどうにかなるのかしら私の婚姻……。
「よし、ここに入ってくれ。気絶の演技を頼むぞ」
「貴方もヤられる演技で、ヘマをしないように気をつけてください」
安心しろと魔王は言いつつ、鍵をかけた。そして広場で魔王は仁王立ちで待つ事数時間、遠くからボロボロな姿の勇者が現れた。
勇者しか来ていないという事は皆さん順調に計画を成功させているようですね。そして、あの姿はかなりエンシェントさんがやってくれたようで。なかなか今のところいい感じですよ。
「我と戦う前に満身創痍だな、勇者よ」
「殺す、殺してやるぞ。どいつもこいつも俺の邪魔をするのなら殺してやる!」
「本当に勇者だよな?」
「死ねぇ!」
激しい金属音が鳴り響く、それだけの戦闘をしているのか?少し気になり薄目を開けて見ると、魔王がものすごい勢いで押されている。え、弱!それとも勇者が異常に強いんですか?あのボロボロな姿でなんであんなに戦えるんですか。
「いい加減に、死ね! 消えろ! このクソがぁ!」
「おお、なかなかやるで……。グハッ! し、しまった」
「これで、終わりだ。オラァ!」
勇者が魔王へ剣を振り下ろす。そして、刃が体を切り裂く……。まぁ、そんなにダメージにはならないんですけれどもね。
「うぉぉーー。や、やられたーー。この我がやられるなんてなぁーー。まさか、その剣は我を殺せる伝説の剣なのかーー」
演技!それに黙って死んだフリをしてくださいよ!
「うるさい、消えろ」
勇者が剣を突き刺す。
「グァーー! 必ず復活し、この世界を手に入れてみせるぞぉ!」
魔王がアイテムを使って光り出し、そしていなくなった。予定通りテレポートもうまくいったようですね。
「はぁ、はぁ、はぁ。やっとだ、やっと手に入れれる。そして久しぶりだなぁリーン。いつまで寝てるんだ? 起きろよ、そして俺に抱きつけ」
鍵を拾わずに、錠前を普通に壊して中に入って来たんですけど……。怖!これが、勇者?と、とりあえず目を覚まさないと。
「ん、わ、私は……。ここは? 勇者様? どうなっているんですか?」
「勇者じゃないだろ? 太一って呼べよ」
「え? あ、はい。太一様ここは?」
「チッ、太一だって言ってんのに。まぁいいや。ここは魔王城の庭か? さっき魔王を俺が殺した。お前は拐われていて監禁されたりしていたからどんな生活を送っていたか知らねぇけど、もう帰れるぞ。そして俺と結婚だ」
「そ、そうですね!」
えっと、ここから門まで誘導をしなくては!難しそうですけど。
「そうだ! 太一様に伝えなくてはいけない事があるのです。ついて来てください」
「ちょっと待てよ、どこに行くんだ」
勇者を振りきり、門の前まで来た。あとは話をしてこいつを向こうへ……。
「この門の事でお話があります」
「なんだこれは?」
「この門は、魔王が作った門なのです。異世界へ通じる門らしいのです」
「は?」
「監禁されているときに聞きました。普通ならこの門は別の世界へ行く門らしいのですが、別の世界の物などを持ちながら通るとその世界へ行くことができる門らしいのです」
「それで?」
「貴方は帰れるんですよ! 自分の本来の居た世界へ! どうですか? 嬉しいでしょう」
「……」
ジィーーッとこちらを見たまま何も言わない勇者がとても怖いのですが。しかも、ピクリとも動きません。まぁ、あとはハーピィからの風魔法でこの門に叩き込むだけ。あと少し隙ができたら……。
「帰る? 俺が自分の世界に? あんな何もないクソみたいなところに帰るわけないだろ。俺はこの世界でお前と結婚して、王となって暮らしていくんだよ。そういう約束だろ?」
「しかし、良いのですか? 向こうの世界には貴方の大切な人達が……」
「おいおい、意味がわからないぞ? なんでこんなにも苦労したのに何も無いままで終われるんだよ。ありえないだろ。いいか? 向こうで俺はただの普通の1人の人間でしかない。でも、こっちではどうだ? 俺は魔王を倒した英雄で、人類を救った人間! そしてなにより、お前みたいな美人を好きにできて尚且つ国王となる未来が約束されている。なのに帰る? 絶対に、死んでも俺はカエラナァイ」
ガシッと肩を掴まれ、ドアップで語りかけられる勇者の覚悟に私は少し怯えた。でも、私にも譲れないものがあるのです!さぁ、今ですよ魔王!来なさい!
私は魔王の隠れている茂みに目線をやった。
シュン
「我は生きているぞ、勇者よ」
「え、は、なん、で」
勇者が驚愕し、私から手を離した。魔王は私を引っ張り寄せ叫ぶ。
「今だ! やれハーピィ!」
突風が計画通りに吹いた。勇者はバランスを崩して門の中へと吹き飛んでいく。やった!これで終わ……。
「え?」
最初に感じたのは、ほんの少しの違和感だった。脇の腹に痛みを感じると。意味がわからないと思いながら自分の脇腹を見る。すると、私の脇腹に何故か鋭利なフックが突き刺さっていた。そのフックには縄が付いていて、門に下半身飲み込まれている勇者が持っている。
「絶対に、俺は、帰らなぁぁぁあい!」
門の吸い込む力が強くそのまま勇者は飲み込まれていった。しかし。
「なんで、私まで……」
私もそのまま勇者跡を追うように引きずられて、門を潜ってしまった。




