計画10
「ゴブリンキングに犠牲の話を伝えた」
会議室に戻って来た魔王がそう言ってきた。
「そうですか、では今度はどのように死ぬかの説明を話しますので、お聞きください」
皆さんの顔が少し曇るが、持ち直す。
「では、ゴブリンキングに直接聞いてもらうとしよう」
「そうですね、2度手前になりますからね」
魔王は水晶を出して、ゴブリンキングに繋げた。
「あれ?魔王様さっき話したばかりでは?」
「ああ、その話。計画の細かい事をこれから聞いてもらうために、連絡したのだ」
「そうでしたか、ではお聞かせください」
「うむ、王女頼む」
「初めまして、ゴブリンキングさん。今回計画の内容を話させていただきます、勇者を召喚した国の王女リーンと申します。それでは…」
「え?なんで人間が?てか王女?は?」
なんか、ゴブリンキングが混乱してますね?どうしたのでしょうか?
「魔王様!人間が何故そこに!?というより今王女って言いませんでしたか!どういう事ですか!」
なんでしょうか、デジャヴ?会議室の中もあー、そうか。こんな反応になるよな的な空気になってますが、どうにかしてくれませんか?話が進みませんよ?
「落ち着くのだ、ゴブリンキングよ。この王女は、味方だ。訳あって、勇者を殺したいからわざわざこの城まで来たのだ。そして、我等の手助けをしてくれている」
「…は?」
まぁ、そんな反応になりますよね。
「ゴホン、ゴブリンキングさん。私は最悪の未来を回避するために、魔王と手を組みました。私は私の望む自由な未来のために、魔王は世界を魔族のものにするために。最終的な目的は違えど、乗り越えなければならない壁、共通の敵は同じ勇者なのです。ご理解いただけましたか?」
「イヤイヤ、理由。その最悪の未来ってなんだ、人間の王女」
「勇者との結婚です」
「え?」
「勇者が魔王を討ち倒した時、世界を救い王都に戻り救世主になったら、私は勇者の嫁。勇者の妻。勇者のワイフにならなければならないのです」
「魔王様ぁ!コイツ絶対に変!ヤバイって!なんでこの子の言う事聞いてんの?てか、幹部陣も?マジで?終わった?魔族の未来終わった?」
なんですか!失礼な方ですね。どんな苦しみかも知らずに。
「しかしな、王女の計画は何気に良いんだよな。先程のも、今までのも、全てこの王女が計画してくれたのだぞ?」
「え?じゃあ、本当に勇者を殺そうと?」
「そう言ってるじゃないですか」
「おかしいな…俺の知ってる人間ってもっとこう…」
なんかブツブツ言い始めましたよ?魔王どうにかしてくださいよ。
「時間が無い、ゴブリンキング。話を聞いてくれ」
「あ、はい」
これでやっと話せる。
「えー、それでは改めまして。今回の計画ですが、貴方には犠牲になっていただきます」
「ああ、聞いた」
「細かく言いますと、ほぼ無抵抗で死んでもらいたいのです。勇者は間違いなく、敵討として貴方達のところへ行きます。そこで演技をしていただきたい。1つは勇者達に強くなったという印象を植え付ける作業。これはただ向かっていき普通に攻撃するフリをして、殺されていただければ結構です」
「後々の旅の戦闘を辛くするためにって事だな?」
「ええ、その通りです。2つ目に、勇者の仲間に私達はスパイを送り込みました。特徴は大剣の前衛職。男です。名前はシラーと言います。その人に多めに戦闘員をぶつけてください」
「何?逆ではないのか?」
「いえ、むしろ強さをアピールしたいのですよ。ならば手っ取り早いのは無双を見せつける事です」
「なるほど、信頼を。というわけか」
「ええ。というわけで、お願いします」
「わかった、この犠牲を無駄にしないでくれ」
そう言って、通信は切れた。
「これで、あとは見守るだけですね」
「今度は計画が上手くいくと良いが」
「絶対に、成功させるんです。覚悟を無駄にさせないためにも。しかし、そうは言っても…祈る事しかできませんがね」
こうして、勇者への戦闘計画2度目が始まった。
画面には森が映っている。
『シラー、初めに言っておく。いや、皆んなにか。戦闘で俺の事を庇わなくて良い、自分や他の仲間を庇ったりし合ってくれ。俺は死んでも蘇るから』
前回のように死人が出ないよう注意喚起ですか。
『わかった』
『シラーさんって本当に口数が少ないですね!』
『しかし、強さは本物だ。今回はどれだけ居ようと敗退はねぇな』
こちらはこれから大量に犠牲を出してしまう。その前にも既に、かなりの犠牲者が出ているのだ。なのに、こんな会話を聞かされると苛立ちますね。今すぐにでも殺してやりたいが…このタイミングではない。今殺しても仲間が補充されるだけ、下手したらこの前の二の舞。ああ、早く勇者の蘇生の加護さえ無くせれば…。そんな思考に囚われていたら、戦いが始まった。
『お前!よくも、俺の大切な仲間を!師匠を!絶対に貴様を成敗する!』
勇者がゴブリンキングに向けて吐いた言葉だ。そんな事言ったら、お前はこちら側の奴等を何人殺しました?成敗ですって?貴方に命を裁く権利があるんですか?勇者様は本当に、偉いのですね。貴方の正義は、全員共通の正義ではないんですよ。こちらからしたら、貴方が成敗される側ですよ。そんな考えをしてても戦いは続く。ゴブリンキングは私の計画をしっかりと守ってくれている。順調に進んでいる。そして、いよいよ、最後の時が…。ゴブリンキングが、倒された。
『やったな、勇者。天国でギムも喜んでるよ』
『ああ、やりましたよ。ギムさん、仇は取りました。』
『勇者様』
『…』
なんだこの気持ちの悪いやり取りは。ただ、自己嫌悪に陥っていたのを死人のせいにし、そしてさらに殺した者に転換し今その相手を殺したことにより、死人もこれで満足だろうという自己解決。弱かった自分が悪いと思わず、助けた人、殺した相手に全責任を負わせる。本当に勇者か?たしかに、一般的には殺した相手が悪い場合がほとんどだが、今回の場合は死の危険は常にあり、死は自己責任の筈の冒険。覚悟ありの死だ。なのに、こんな被害者意識はいったい何故…。
私は気持ちが悪くなりながらも、計画は成功した事を確認した。成功したが喜びは生まれず、なんとも言えないもどかしさが私の心に残った。
森にて戦闘後
「強くなってますね、俺達。前回あんなに苦戦したのに」
「まぁ、あの時はもっと数も居たからな。このくらいなら問題ないだろ。それにしても、シラーお前って本当に強いんだな」
「そうです!私も、危ないところを何回も助けてもらいました、ありがとうございました」
「シラーさん、貴方が仲間になってくれて本当に良かった。心強いよ」
「…すまない、少し疲れた1人にしてくれ」
「そうですね、すみません」
3人が森を先に行く、シラーは振り返りゴブリンキング達の死体に頭を下げた。そして。
「意思は継ぐ」
そう一言言って勇者達を追いかけた。




