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浮浪街の捜索(中編)


 アダムたちが騎馬で第6門の警務隊詰所に着くと、既にオットーとザンスが来ていて、カーターと話をしていた。


「オットーさん、おはようございます。ザンスさんもカーターさんもよろしく」

「ああ、ちょうど今、カーターから蜘蛛の鷹狩りの時の話を聞いていたところだ。そうすると、そのシンという子が持ち帰った孤児院に、闇の司祭が潜んでいるのかい」


 アダムがそう思うと肯定して、クロウ4号が見聞きした話を報告した。そしてアガタの事も注意しておく。


「あの、エンドラシル帝国のアガタの話は、オルセーヌ公に報告するまで、他の人には話さないようにお願いします」

「分かった。そっちの話はゴブリン捜索とは違う話だ。警務総監のパリス・ヒュウ伯爵には報告するが、アダムの話はちゃんと一緒に伝えておく。怪盗騒ぎは今のところ沈静化しているからな。それに聞けば聞くほど、どうやら俺たち実務派が知らない方が良い話のような気がするしな」

「ホント、ホント、あのお姉さんは中々怖いぜ」


 アダムの話にオットーも同意してくれるが、ドムトルも会った時の印象が強いのか、つい合いの手を入れてしまった。

 アダムは、アガタから皇帝の蜘蛛と同種の魔素蜘蛛をもらった話や、マグダレナの変身の指輪の事を含めて、オルセーヌ公に報告するつもりなので、その前にアガタやマグダレナの話が一般に伝わるのは止めた方が良いと考えていた。


「それで、カーターさん、その孤児院の場所は分かりますか?」

「いや、それなんだが、良く分からないんだ。浮浪街はすぐそこなんだが、俺たちの管轄じゃ無いんだよ」


 カーターの話では、あくまで第6警務隊の任務は第2城壁の内側で、城壁外の浮浪街に管轄は及ばない。任務の一環で立ち入る事はあっても良く分からないと言う。浮浪街の治安は町の自治に任されていて、系統だった情報網も作られていないのだ。


「役目がら町の役員は知っているから、そこに問い合わせをしようかと考えていたところなんだ」


 カーターはオットーとザンスを見てから、アダムにそう説明した。しかし浮浪街の役員と聞いて、アダムはハリオの事を思い浮かべた。それはドムトルやビクトールも同じようだった。


「なあ、アダム。ハリオの件があるから、浮浪街の役員に話をすると伝わるんじゃないか」

「ビクトールの言う通りだ。カーターさん、そうしたら、ちょっと待ってくれませんか。もしハリオとかが絡んでいると、ガイに逃げられる恐れがあります。後からシンとガッツがクロウを持って返しに来るので、その話を聞いてからにしましょう」


 アダムたちは、シンやガッツを待つことにして、オットーからゴブリン捜索のその後の状況を聞くことにした。


「残念ながら、3ヶ所目のゴブリンを退治してからは特に進展がないんだよ。工業地区のめぼしい場所は終わって、今は貴族街の地下に入った所さ。まだまだ商業地区もあるからね、ちょっと嫌になるよ」

「E級冒険者も10チーム以上投入しているが、みんなの士気も上がらなくてね」


 オットーとザンスの話を聞いていると、事件があっては良くないのだが、何もないと毎日ドブさらいのようで意気が上がらないらしい。それはそうだろう、汚物と下水が集まる場所を虱潰しに見て回るなんて、とても士気が上がるとはアダムも思えなかった。


「あれ、汚いもんな。ビクトール、俺たち参加しなくて正解だったぜ」

「あっ、この野郎」


 ドムトルがボソッと呟いて、オットーから頭を小突かれていた。ビクトールはすかさず横を向いて知らんぷりをしていたが、心の中ではドムトルと同じで他人事のように同情していたのだった。

 ちょうどその時、表から来客ですよと他の隊員から声が掛かった。

 暫くしてシンとガッツが案内されて部屋に入って来たが、尋ねて来たカーター以外にオットーやザンスまで大人がたくさん居るので少し驚いたようだった。預かっていたハエトリグモを渡すだけだと考えていたので、部屋に招き入れられて緊張していた。その中にアダムたちの顔も見付けて、やっとほっとしたような顔を見せた。


「シンもガッツもおはよう。カーターさんはもう知っているから良いよね。あと、こっちが警務本部のオットー隊長で、こちらが冒険者ギルドのB級冒険者のザンスさんだ。ちょっと蜘蛛の話じゃなくて、他の話を聞きたいんだ」

「アダム、まず先に預かっていた蜘蛛を返すよ。話はそれからだ。シン、蜘蛛を返しな」

「ガッツ兄ちゃん、分かったよ。アダム、これ」


 ガッツは他の話と聞いて、少し身構えるような表情になった。シンに指示して蜘蛛の入ったカップを差し出させた。シンは黙ってガッツの言う通りに従った。

 ガッツは、アダムがカップからクロウ4号を出して確認し、携帯用の籠に入れるのを見て、改めて何の話かと聞いた。


「ガッツは王都でゴブリンが発生した話を知っているかい?」

「ああ、噂で工業地区の倉庫で騒動があったことは聞いた。でも、俺たち何も関係ないぞ」

「分かっているよ。その事で少し浮浪街の情報を聞きたいんだ」


 ガッツは浮浪街の情報と聞いて、更に態度を堅くした。

 市民権のない浮浪者は仕事で無ければ王都にも入れない。ましてその孤児となれば、市民から相手にされることは無いのだ。唯一浮浪街で生活する事が許されているだけに、その浮浪街の情報を漏らすというのは、仲間を裏切るような気になるのだろう。

 事実、浮浪街は自治に任されている。悪く言えば王国からほったらかしにされているのだ。そんな状況で悪者とは言え仲間を売れば、浮浪街の居場所も無くしてしまう。孤児は浮浪街の底辺で生きていて、厳しい現実があるのだった。


「俺は警務隊が嫌いだ。いつも門の所で俺たちを追い払うだけじゃないか。それが何を聞きたいと言うんだ」

「ガッツ兄ちゃん、こんなところで、そんなこと言わなくてもいいだろう」

「シン、俺たちは失くす物なんか何も無いんだ。ただ言われていう通りにはならないぞ」


 シンがオロオロしてアダムを見た。しかし、オットーやカーターはそれが当たり前だと分かっている。無理に聞き出すのは難しいと分かっていた。


「ガッツ、お前の言いたいことは分かる。だが俺たちもお前たちがどうなっても良いと思っている訳じゃないんだ。アダムや俺がこれから話すことを聞いて、自分のために成らないと思えば無理に話してくれる必要はないよ」

「オットーさんの言う通り、これから俺が話す経緯を聞いて、自分で判断してくれれば良い。きっとお前たちにも大切な物を守るために必要だと思うから」

「ガッツ兄ちゃん、まずアダムの言う事を聞いてみようよ。浮浪街でゴブリンが出たら大変だよ。リタ姉ちゃんやみんなを守らなくちゃ」

「シン、分かった。アダム、悪い、悪気は無いんだ。俺たちも、孤児院の仲間もみんなギリギリで生きているんだ」


 ガッツもやっと落ち着いて話を聞く気になったようだった。昨日は無闇に反抗的だったシンが、逆にガッツを説得するのを手伝ってくれた。何を言っても2人とも純で真直ぐな子供たちなのだった。


「実は、ゴブリンを王都に持ち込んだ犯人がいて、俺たちは闇の司祭と呼んでいるんだ」


 アダムはケイルアンのゴブリン退治の話から、闇の苗床という黒魔法を掛けられて、ゴブリンを産む母胎にさせられた女性の話をした。詳しい話を聞く内に2人も想像以上のひどい仕業に驚いたようだった。

 更に、エンドラシル帝国大使館の光真教の闇の司祭が持ち込んだことが分かったが、行方をくらましたこと。その特徴が盲目で黒いガラス玉の義眼をした司祭であること等を説明した。シンもガッツもガイを兄のように慕っているようなので、あえてガイの話はしなかった。


「ガッツ兄ちゃん、あの司祭じゃないか。ガッツ兄ちゃんも怪しいと言っていたじゃないか」


 シンは話の途中から表情を変えて心配しだした。オロオロとガッツの手を取って話し掛けるが、ガッツはガイの事を思って言って良いのか考えているようだった。目の色は変わっているが、グッと口を噤んで考えている。


「ガッツ、その母胎にされた女性は5人いるんだ。3人は見つかったが、助けられたのは1人だけで、2人は死んでいた。後まだ2人は見つかっていない。何とかして見付けないと、その女性も助けられないし、ゴブリンが大量発生しても大変なんだ。協力してくれないか」

「ガッツ、その母胎を浮浪街に仕掛けられる恐れもある。そうなれば、おまえの仲間たちも大変なことになるかも知れないよ。良く考えてご覧」


 アダムとオットーの説得に、ガッツも話す他ないと心を決めたようだった。元々正義感が強い性格なのだ。リタに次ぐ年長者としてみんなを守らなければならないという責任感もあった。


「そいつかどうか分からないが、ちょうど俺とシンが出て来る時に荷物を運び出していたから、もういないかも知れない。行先は院長が知っているかも知れないが」

「ああ、ガッツ兄ちゃんの言う通り、ちょうどガ、、いや、そう荷物を運びだしていたね」


 2人はガイが手下を連れて荷物を運び出し、前庭で立ち話をしている所を見ていたが、シンもガイの名前は出せないと、慌てて口籠ったのだった。


「すまんが、早速孤児院に案内してくれないか。院長に話を聞いてみたい」

「院長が孤児院の運営に必要なお金を借りていたみたいなんだ。だから急に来られても嫌な顔ができないて泊めていたんだ。そんな悪い奴かも知れないが、院長は騙されていて知らないんだよ」

「心配しなくても良い。俺たちはそいつを捕まえたいんだ。素直に話してくれるなら院長にも悪い事はしないから、安心してくれて良い」


 オットーの真摯な言葉に安心したのだろう、アダムたちは2人の案内で孤児院に向かったのだった。


次は、「 浮浪街の捜索(後編)」です。


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