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ボロニアムの森(前編)


「この道でいいのか?」

「ああ、この道で良いはずだ。この奥にナラニ湖があって、目的地の遺跡があると聞いたよ」


 今日はアンがボロニアムの森にあるというエルフの村に行くことになり、アダムたちが護衛でついて来たのだった。

 アンは巫女長の助言もあって、エルフの村の先導者の指導を受けることになっていた。指導に時間が掛かるようであれば、アダム達は一旦戻ってから、また迎えに来ることになる。

 ボロニアムの森は王家の狩場として管理されており、アダムたちは入口を管理する衛士に挨拶をして森の中に入って来た。広大な森は王家の行事以外には使われないので、森番以外の人の出入りも無い。縦横に走る道も両側の木々の枝が迫って来るので見通しも悪く、アダムたちは入口でもらった簡易の地図を頼りに進んでいるのだった。

 ドムトルがいちいち道順を確認するので、ビクトールは答えるのが段々嫌になって来ていた。


「もう、850万hmもあるんだぞ。約3km四方の広さはあるんだ。しかも、王家が管理をしている森だから、他の人も入って来ないで道も聞けない。そんなに僕に言っても責任持てないよ」

「ビクトール、そんなに怒らないでよ。ドムトルも人に聞くばかりじゃなくて、自分でも地図を調べなさい。アダム、神の目はどうかな?」


 アダムは暫く前から神の目を上空に飛ばしてリンクしていたが、森の入口を越えた所で、神の目が上空から見る視界と情景が一致しなくなっていた。神の目では開けているところも、実際は並木が道に迫って来ていて情景が違うのだ。


「エルフの結界かも知れないな。上空から見える景色と、地上で見る景色がリンクしない。どちらが正しいのか分からないんだ」

「あっ、奥に見えたよ。あれがナラニ湖じゃないか」


 ビクトールが早駆けで走り出した。


「慌てないで、お互いが離れたら迷子になった時に困るから」

「ビクトールは慌て者だからな」

「ドムトルが急かすからでしょう、もう」


 アンが巫女長から聞いた話では、湖の畔に遺跡があって、そこで命の宝珠を使えばエルフの迎えが来ると言う。

 5月の中旬となり森の中は新緑が広がり、瑞々しい緑が日の光に輝いて見える。王都オーロンの5kmくらい西方にある森だが、あの広大な石畳の都心から直ぐの場所にこんな広大な森があるのは不思議な感じだ。

 道を抜けると、湖が広がっていた。


「あれじゃないかな。ほら、左の道を湖に沿って行くと、先に見える建物じゃないか」

「そうだな、ビクトールの言う通りだ。あれがナラニの遺跡じゃないか」


 アダムが騎馬を止めて、水辺に寄って見ると、打ちこぼれたような建物が見えた。石積みされた壁に蔦が絡まり、随分昔に放置された城塞に見えた。近づいて回り込むと、水辺に沿って前庭の跡もあって、自分勝手に伸びた薔薇や生垣も残っている。月の女神の石像が岸辺に座って竪琴を弾いていた。

 館跡の背後は鬱蒼とした森が拡がっている。石壁に接して森番の物置小屋のような小さな建物があった。


「これ? 小っちゃくね?」

「馬鹿、それは森番の物置小屋だろ。でも後ろの石壁の向こうの森には入る道もないな」


 ドムトルとビクトールの言う通り、前庭の跡が道の行き止まりになっていた。アダムたちは月の女神の石像の前で、騎馬を降り、岸辺の石畳に集まって辺りを伺った。


「じゃあ、やって見るね」


 アンが命の宝珠を着けた左手を上げ、魔力を籠める。


「命の輝き ”Luceat vitae”」


 命の宝珠が淡い緑色の光を帯びて輝く。アンが魔力を込めて行くと、その光が辺りに拡がって行く。緑色の光を通して周りを見ると、今まで見ていた景色と違う部分が朧に修正されて見えて来る。石壁に接して作られていた物置小屋が、石壁に作られた門扉に変わった。

 アダムたちが驚いて見ていると、その扉が開いて身なりの立派な男性が出て来た。背の高いひょろりとしたその人物は、頭に山高帽を被り、ちょび髭が垂れるように長い。顔の皺が年齢を表していた。


「みんな、よく来たね。おーおー、聞いていたがアンは小さいね。ぼくの妹も小さいが、本当に小さいね。あー、君がドムトルかな。ぷっくりした顔が可愛いね。えー、君がビクトールかね。うん、お坊ちゃんだ。人の良いところが分かる。すると、君がアダムか。聞きたい事がいっぱいありそうな顔だ。いいだろう、入りたまえ」


 月巫女の兄は、みんなに話す機会を与えなかった。訳知り顔で自分から話しては頷き、大仰な仕草で歓迎の意を表すと、みんなを先導して扉の中に入って行った。

 彼に続いてアダムたちが石壁をくぐると、そこは小さなコミュニティーの広場だった。石畳の広場の周りには瀟洒な山小屋風の建物が点在し、開けたナラニ湖側からの明るい光が、瑞々しい新緑の木立を背景に浮かび上がらせている。


「全然違う。光が、太陽の位置も違う気がする」

「ほう、良く分かったね。アダムは観察眼がある」

「あの、どういうことですか?」


 月巫女の兄はにっこり笑うと、アンの疑問に答えてくれた。


「あー、ここはね、王都の中で一番魔素が強い森なんだ。それを利用して結界が張ってある。詳しくは説明できないが、森の記憶を基に時間設定がずらしてあるんだ。だから外は午後だが、この中は朝の陽光が入って来ている」

「そんなことが出来るのですか」

「おー、この遺跡はね、昔神の眷族が長く住んでいた館の跡なんだ。彼は隠遁生活をするために自分の棲み処の時間をずらしたんだ。その結界が残っていてね、周りの世界と何百年かずれているんだ。だから、絶対外からは探られることはない。僕たちはそれを利用させてもらっているだけなんだ」


 アダムたちは彼に連れられて、広場に面した一番大きな建物に入った。他の建物が平屋の小さな山小屋風なのに、この建物だけは2階建てで、入ると小さなホールのような部屋だった。


「おー、良く来たね。ここがこの村の役場のようなものだ。それで僕が村長でセレーネの兄のスラーだよ」


 スラーの話で、アダムは月巫女の名前がセレーネだと言う事を思い出した。月巫女の兄という事は、エンドラシル帝国との聖戦で活躍した七柱の聖女も知っているはずだ。長命のエルフというのは、みんなそんなに長生きなのだろうか。

 その時奥の扉が開いて、若い女性のエルフが出て来た。


「スラーの叔父様、呼びに行くなら声を掛けて下さいな」


 彼女は月巫女ほど小柄ではなかったが、それでも人間種の大人の女性に比べると、やはり小柄な女性と言った方がいいだろう。エルフ特有の小さな顔は瞳をとても大きく見せる。くりくりっとした目が生き生きと笑いを含んでアダムたちを見た。少し尖った耳がグレーの髪から見えた。


「はは、彼女はね、下の妹の娘のトートだよ。まだまだ子供だがね」

「叔父様、止めてください。人間から見れば十分年寄りですよ。アン、良く来ましたね。アダムやドムトル、ビクトールもいらっしゃい。セレーネ伯母様から話は聞いていますよ」

「おっ、おう」


 トートがアンから順に抱きしめるように挨拶をすると、ドムトルが素っ頓狂な声を上げた。トートはその様子を見てにっこり笑う。


「ちゃんと焼き菓子も用意していますよ、ドムトル」


 こうしてアダムたちはボロニアムの森にあるエルフの村に到着したのだった。


次は、「 ボロニアムの森(後編)」です。


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