ゴブリン対策会議(後編)
「アダム、その時の蜘蛛はまだそこに居るのか」
「いえ、プレゼ皇女、残念ながら、ゴブリンに見つかって、餌として食べられました」
「そ、それはまた凄まじい話じゃな」
クロウの最後を聞いてプレゼ皇女も驚いたようだった。
アダムはペリー・ヒュウから、今王都では怪盗騒ぎが起こっていること。中々犯人が捕まらないが、それは怪盗が誰にでも変身出来る魔法を使うのではないかと思われること。偶然現場に居合わせた侍女がカーテン越しに犯人がヒスパニアム語で「Huevo de dragón(竜のたまご)」と呟くのを聞いたと証言したことを聞いたと話した。
「ペリーの奴、余分なことを」
「パリス・ヒュウ伯爵、ペリーが詳しく話したのは、わしが話せと命じたからじゃ」
パリス・ヒュウ伯爵が舌打ちをするので、プレゼ皇女が自分のせいだからと諫めた。
「ヒスパニアム国で竜のたまごと言うと、剣聖オーディンの竜殺しの伝承が有名です。ちょうど授業でその聖遺物が国教神殿に伝わっていると話が出たところだったので、国教神殿にその聖遺物を見に行って、その伝承も詳しく聞きました。実はその聖遺物の竜鱗の盾と小手を包んでいた錦織の布に、これから話す魔法が隠されていました」
「ずいぶん前置きが長くなったね。この話はその怪盗に繋がるのかな、それとも今回のエンドラシル帝国がらみの事件に関係するのかい」
アダムの導入の話が長くなってオルセーヌ公が、話の流れを確認する。プレゼ皇女やアダムの仲間は、あの時アダムが手に取って確認したのはやはり訳があったのかと驚いていた。
「お聞きになられるのはごもっともです。ですが、話の経緯だけでは無くて、後で関係すると思うところがあるので、魔法を知る切っ掛けから詳しく話しました」
「分かった。じゃあ、その続きを話してくれ」
「はい、国教神殿に伝わっていた聖遺物は、残念ながら剣聖オーディンが本当に使っていた物では無かったのですが、それを包んでいた錦織の布は、本物かそれを忠実に模した物だったらしく、そこに蜘蛛の巣を表した意匠の刺繍が隠されていました。それに魔素を流すと『蜘蛛の目 ”Aranea oculo”』と言う神文が脳裏に浮かびました」
「アダム、わしも自分の魔素を流してみたが分からなかった。それはどのような魔法なんだ」
プレゼ皇女はアダムの様子を見て不思議に思い、自分も手に取って確認していた。
「この魔法は剣聖オーディンが竜を殺す方法を魔人が酔って魔女に話すのを、隠れて聞き出す時に使ったと言われている魔法です。この魔法を使うと蜘蛛とリンクすることが出来て、その蜘蛛を動かして情報を聞いたり見たり出来るようになるものです」
アダムはクロウ2号を机の上に出して動かして見せた。その場にいた全員が目を凝らして見ていると、1cmに満たないハエトリグモがアダムの意のままに動くのを見て感動した。
「オルセーヌ公、私はアラン・ゾイターク伯爵から鷹のことやフクロウのことを聞いていましたが、自分の眼で見るまでは信じられませんでした。これは、軍事や諜報にとってものすごい力を発揮しますな」
「鷹やフクロウに加えて蜘蛛とはな。これからどんな魔法を習得するか分からないな。やはりアダムの力は極秘扱いにせねばならんな」
アダムがそのハエトリグモを使って、エンドラシル帝国大使館の光真教の神殿で、闇の司祭とガイが話すのを見たこと、その背中に取り付いて行って、パリス・ヒュウ伯爵が言った倉庫での騒ぎを見ていたこと、ガイの手下の荷船で下水道の暗渠へ行き、荷箱を不用意に開けた手下がゴブリンに殺されたことを話した。
「蜘蛛のまま長い間馬車に乗っていたので、エンドラシル帝国大使館からの道順を良く覚えていませんでしたが、倉庫の桟橋から暗渠までなら船で案内できると思います」
「おお、これは凄い進展だ。その荷箱にゴブリンと、あの魔法陣で犠牲になる女性が入れられていたに違いない」
パリス・ヒュウ伯爵がアラン・ゾイターク伯爵と顔を見合わせて歓声を上げた。
「アダム、その時の蜘蛛はまだそこに居るのか」
「いえ、プレゼ皇女、残念ながら、ゴブリンに見つかって、餌として食べられました」
「そ、それはまた凄まじい話じゃな」
クロウの最後を聞いてプレゼ皇女も驚いたようだった。
ここでオルセーヌ公がアダムに改めて聞いた。
「アダム、さっき剣聖オーディンの話がいろいろ関係するかもと言ったが、具体的にはどんなことかな」
「はい、剣聖オーディンの竜殺しの伝承には、竜を騙すために変身の指輪と言う魔道具を使ったとあります。蜘蛛の目の魔法が本当にあったのなら、その変身の指輪も本当にあってもおかしく無いと思います」
「つまり、その変身の指輪をあの怪盗が使っていると?」
「パリス・ヒュウ伯爵、アダムが言っているのは、同じものかは分らないが、変身の指輪はあってもおかしくないと行っているのですよ」
クロード・ガストリュー子爵がアダムに代わって横から答えてくれた。
「はい、その通りです。それと、「竜のたまご」があれば魔人(魔神)を殺すことが出来るそうです。そっちの騒ぎとエンドラシル帝国の騒動とが関係あるとすれば、こじ付けかも知れませんんが、怪盗が狙っている魔人(魔神)とは、もしかすると光真教の「破壊神(闇の御子)」かも知れないと思うのです」
「うーん、アダムは凄いことを考えるね。光真教と敵対する勢力が、闇の御子を殺すために竜のたまごを探していると言うのかい」
「はい、都合よく同じタイミングで事件が起こっていることが偶然で無いなら、変身の指輪も竜のたまごも魔人を殺すために使った道具ですから、同じ目的かも知れないと思います」
ここまで話を聞いていたパリス・ヒュウ伯爵が疑問を呈した。神を殺すと言うことが理解できないのだ。
「アダム、変身の指輪が存在するかも知れないことは理解できるが、そもそも魔神だとしても神を殺せるのかね。竜のたまごを闇の御子を殺す道具として捜していると言うのは、少し考えが飛躍し過ぎではないかね」
「私が魔神(闇の御子)と言ったのは、神そのものでは無いかも知れません。神のご加護を受けた人間がいるように、闇の神の加護を受けた魔人が居てもおかしくないと思うのです。光真教の闇の司祭が何を信奉しているか分かりませんが、その背後にいるのはその様な存在かも知れません」
転生者であり神と対話したアダムは、神から負の因子を持った強い存在を示唆された。闇の苗床のような魔法を使う存在がいるとすれば、それは純粋な悪であり、魔人(魔神)と言われる存在だと思う。だがそれは、普通の人には想像もできないのかも知れなかった。
「オルセーヌ公、アダムも、結論を急ぐのはよしましょう。アダムの話は、今は話として聞いておいて、もう少し2つの事件の関連を示すような証拠が出て来るまで、様子を見た方が良いと思います」
アラン・ゾイターク伯爵が最後は冷静なコメントをした。
「そうだね。アダムが剣聖オーディンという神話時代の魔法を使うことを考えると、竜殺しの伝承にも何か真実が隠されていると思わせる。でも、今はまだそこまで決めつけるのはよして置こう」
オルセーヌ公も先入観を持たずに対策を進めることに決めた。
以前は何が何でも国土を拡大することを優先していたエンドラシル帝国も、今の皇帝の考えは違う。オルセーヌ公の元にはもっとオーロレアン王国と絆を結びたいという申し出が来ており、それは嘘ではないようだ。
だとするならば、光真教の急進派の狙いは何か良く分からない。帝国の侵略の手先でも無く、光真教が直接領土を欲しがることもないだろう。布教が目的であればもっと友好的に事を進めるはずだ。しかも、これまで執拗にアンを攫おうと狙って来たと言う。光真教の急進派の目的が良く理解できないのだった。
「それで、これからどうするかだが、アダムにはパリス・ヒュウ伯爵の捜索に協力して貰う。あくまでも情報を探る部分で手伝ってくれ」
「分かりました。それで、ペリー・ヒュウにも私の魔法を説明して、パリス・ヒュウ伯爵との連絡係をお願いしていいですか」
「どうかね、パリス・ヒュウ伯爵」
「分かりました。やはり私の影響で、あの子も色々動きたがりますから、ちょうど良いでしょう」
「では、アダムの案内で下水道の暗渠を確認してくれ。少し人数を連れて行った方がいいだろう。ゴブリンが湧いているようだと、様子を探ってから対策を立てよう。私の方から冒険者ギルドにも話をして専門家も頼むつもりだ」
オルセーヌ公の話にパリス・ヒュウ伯爵とアダムが頷いた。プレゼ皇女が一緒に行きたがったが、オルセーヌ公とスミスに止められた。
「次に、アラン・ゾイターク伯爵、ガストリュー子爵と一緒にアリー・ハサン伯爵の所に行って、先般のアンたちへの接近の真意を探ってくれ。そして王都の工業地区での騒ぎの話から、今後協力できるがニュアンスを探ってくれ。エンドラシル大使館に踏み込む訳には行かないが、光真教の闇の司祭をこのままにする訳には行かん。事が明らかになってからだと、エンドラシル帝国と我が王国との関係の障害になるだろう」
「分かりました。今の段階なら、倉庫の騒ぎから判明した話として、アダムの魔法の事は言わなくても話ができるでしょう」
「はい、妻の実家も今回の事は迷惑を掛けたと言っています。アリー・ハサン伯爵もさすがにその点は理解されるでしょう」
アラン・ゾイターク伯爵とクロード・ガストリュー子爵が了解した。
これで、今日の打合せは終了となり、アダムとドムトル、ビクトールは、この後パリス・ヒュウ伯爵と一緒に警務総監の政務室へ向かうことになった。
アンは国教神殿の巫女長から、後で独りで来るように言われていたので、国教神殿の巫女長を訪ねることにして、みんなと別れたのだった。
次は、「 命の宝珠 」です。
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