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オーロン(王都)へ

「ビクトール様、王都での生活で従者をさせて頂くロベールです」

「ひぇー、ビクトールに従者だって、アダム」

 ドムトルが小声でアダムに呟きながら、つついて来た。 


 コルナの町に入った時にピエールが街の守り手に報告をした。町の留置場には入り切れない人数で、負傷者の受け入れも大変だったらしい。町からは王都へ早馬の報告が出された。盗賊団が仲間を取り返しに来るのではないかという噂話も流れて、町からはもう少しガストリュー子爵一行に滞在して欲しいという話もあったが、こちらにも負傷者が出ており、無理は出来ないとお断りした。


 盗賊団の頭が死亡しており、他の盗賊とのつながりや背景は今後の捜査を待つ他無かった。王都で計画されていた討伐隊は取り止めとなり、代わりに捜査のために監察官が送られて来るだろうと、町の役人から話があった。


 翌日、コルナの町を出てからは、順調に旅程をこなして行った。


 コルナを越えると山道が少なくなり、平地に降りたことを実感した。森や林の中を走る時も、直ぐに自由農家の村や町が現れ、小麦畑や休養地の牧場が広がり、アダムは春の新鮮な緑に気持ちが洗われる気がした。ケイルアンでのゴブリン退治なんて、とても本当にあったことには思えなかった。


 ニイエール、ヌヴユングと順調に進んだところで、王都から盗賊団を受取に来た監察官の一行とすれ違った。


 王国の監察官がヌヴユングの宿を訪ねて来て、盗賊団を捕縛した時の状況を聞きに来た。ソフィーとピエールが応対して話をしたが、目新しい情報は無かった。こちらからは、逃走したガイの手配と、捕まえた時には背景を調べて教えて欲しいと依頼をした。だが、役人の反応は一般的で、期待はできないと思われた。


 そして、ナラールを過ぎ王都オーロンに着いた。3月10日にザクトを出発してからケイルアンでゴブリン退治に1日かけ、予定より1日遅い3月20日の事だった。


 王都オーロンはオーロレアン王国最大の都市で、人口は8万人を越え、面積も城塞内で440ヘクタールを越えている。アダムのいた地球の都市と比較すると千代田区の1/3程度ということになる。エンドラシル帝国の帝都オーンが約600ヘクタールと言われており、この世界でも有数の大都市と言えるだろう。ちなみに人口はザクトが約1万人なのでその8倍にもなる。


 オーロンはセクアナム川の河岸に出来た町が発祥と言われ、幾度の抗争と戦いを経て、城塞都市に発展して来た。エンドラシル帝国との聖戦では、帝国軍18万人に包囲され陥落の危機にさらされたが、七柱の聖女の活躍で盛り返したと言われている。今から約660年前のことだ。

 それ以降、都市の人口増加から城壁は何度も拡張されて来たので、都市の周辺部は入り組んだ構造になっていた。


 アダムは神の目とリンクして王都オーロンを上空から俯瞰していたが、広大なスケールで街並みが広がる姿に感動する。地球時代に歴史ドラマで見たような西欧の街並みが拡がっていた。

 石造りの広場では鳩の群れが飛び交い、神の目はこれからの餌にややがっかりしている様子だった。王都には意外と大きな公園が点在して、羽を休めるところには困らないだろうと感じている。キツネやウサギくらいなら狩れるのかも知れなかった。


 オーロンの地理的な特徴を言うと、セクアナム川が「への字型」に流れており、その山に当たるところに王城がある。流れに沿って宮殿前の広場があり、北側が行政区、その南東に国教神殿があった。川を挟んで王城の向い側に王国騎士団の兵舎がある。川を挟んだこれらの施設を囲む形で第1城壁が造られていた。


 そして、第1城壁の北側に貴族街があり、それを取り囲む形で市街区が広がっている。市街区は北西部が商業地区で、北東部が一般市街になっている。第1城壁の南側は王立学園や王立博物館、王立美術館が立ち並ぶ教育文化地区になっている。セクアナム川の両岸を含む南東部が工業地区となっていた。これらの地区全体を囲んで第2城壁が造られている。


 オーロン全体を囲む第2城壁には、正門に当たる第1門から第10門までぐるりと10個の門があった。東側の第4門と南東側の第6門の外には、ザクトと同じで浮浪街が固まって形成されていた。


 アダムたちを乗せたガストリュー子爵家の馬車は正門である第1門から入り、王城を正面に見ながら商業地区の中心である凱旋門を東へ折れ、貴族街に向かう。ヘラーの荷馬車とは凱旋門のところで別れることになった。


「皆さま、今日はこちらで失礼します。改めて子爵の館へ挨拶に参りますね」

「ヘラーさん、ご苦労様でした。またお会いしましょう」

 ソフィーが馬車を停めて挨拶に来たヘラーに答えた。


「奥様、ビクトール坊ちゃん、アンとアダム、ドムトルもまた会おう」

「アダム、今回はイシュタルは随分世話になった。いつかお返しができる機会があることを祈っている」

 ガクトとケーナも客車に寄って来て、窓越しに挨拶をして来た。アダムたちも長く一緒に旅をして来て、名残が惜しいとつい感傷的になった。


「ガクトもケーナも、一緒に仕事が出来て楽しかったよ」

 ピエールも馬から降りて来て、ガクトとケーナと握手を交わした。

「俺とドムトルはいずれ冒険者になります。その時は、ザクトは故郷のセト村に近いので、ザクトで登録しようと考えています。その時はよろしくお願いします」

 アダムの返事にガクトもケーナも笑って頷いてくれた。


 凱旋門は王都の入口として、王国の全ての道に通じていると言われるモニュメントだ。オーロレアン王国建国500周年を記念して建てられた壮大な建物だった。幅と高さが50m、奥行が20mもあった。エンドラシル帝国との聖戦を制した時、凱旋パレードがここから出発した事を記念している。正面の上部には、ザクト神殿で見た七柱の神々をモティーフにしたレリーフが彫られていた。


 歴史ある街並みの中を馬車は進んで行った。石造りのしっかりした建物が並んでいる。

「ここは王都でも目抜き通りだから綺麗なのよ。同じ王都でも南東部の工業地区は随分汚いのよ」

 ソフィーの実家も凱旋門に近い商業地区に店を持っていると言う。こんなところで育ったお嬢様だと思うと、竪琴を爪弾きながら美しい声で歌う、彼女の優雅な姿も頷けるとアダムは納得した。セト村の田舎育ちの自分たちとは大違いだと実感する。


「ザクトも凄い都会だと思ったが、王都は桁が違うな」

 凱旋門は高さが50mもあった。ザクト神殿の高さが30mだったことを思うとスケールが違うとドムトルがため息をついた。


「あらあら、王城や国教神殿を見たらもっとびっくりするわよ。王立博物館や美術館も素晴らしいのよ」

「私は本当に楽しみです。セト村にいた時には考えられなかったもの」

 アンは窓の外を流れる景色を見ながら、うっとりと呟いた。こんなに自分がわくわくする気持ちになるなんて、いつもアダムの後ろに隠れていたセト村の時代には、とても考えられなかった。アンは自分の気持ちの変化に驚いていた。


 いつの間にか道は貴族街に入り、大きな邸宅が整然と並ぶ街並みに代わっていた。ザクト領主であるガストリュー子爵家の王都の館は、王国の中堅貴族として恥ずかしくない規模を誇っていたが、周りの大貴族たちの豪華な館と比較すると、ずいぶん堅実な造りに見えた。地方領主として王都での政治活動も必要になるので、それなりの大きさがあったが、無駄な浪費をする余裕も無かったからだ。


 大商人の娘であるソフィーにはそこが少し物足りないようで、アダムたちに説明する口調にそれが少し現れていた。でも今年は3男のビクトールが、来年には長女のテレジアが王立学園に入学する。これから王都での生活が多くなり、学友との付き合いも出来ることを考えると、少し手を入れなくてはとソフィーはフランソワと相談して決めていた。


 馬車は正門から入り、車止めに着いた。そこには到着を聞いて出て来た、王都の執事長や侍女たちが出迎えに出ていた。荷物が降ろされて、執事たちが館に運び込んで行く。


「みなさま、いらっしゃいませ。執事長のトーマスです。これからよろしくお願いします」

 トーマスは30代の後半の落ち着いた執事だった。しっかりと折り目正しい挨拶をした。

「トーマス、よろしくね。紹介するわ、みんな。王都の執事長のトーマスよ。彼はベンの母方の甥なのよ」

 ソフィーの紹介にアダムたちも挨拶を返した。その時、彼の後方で少し離れた所に立っていた婦人がソフィーに話し掛けた。


「初めてお目にかかります。アン様の家庭教師、兼側使(そばつかい)として参りました、ミネルヴァです。そして、この子がビクトール坊ちゃまの従者になります、息子のロベールです」

 ミネルヴァの横にはしっかりとした顔立ちの10歳くらいの男の子が立っていた。彼は几帳面な挨拶をした。


「ビクトール様、王都での生活で従者をさせて頂くロベールです。よろしくお願いします。それから、皆々様もよろしくお願いします」

「ひぇー、ビクトールに従者だって、アダム」

 ドムトルが小声でアダムに呟きながら、つついて来た。 


「フランソワから聞いています。彼女の乳母姉妹(うばしまい)だとか。ロベール、息子のビクトールをよろしくね。あと、こちらが、アン、アダム、ドムトルです。3人はガストリュー子爵家の寄子(よりこ)です。ビクトールの兄弟同然に頼みます」


 ソフィーがフランソワから話は聞いていると親し気に話しかけると、ミネルヴァは自信に満ちた落ち着いた挨拶を返した。ロベールは初対面でもあり、丁寧で控えめな応対だった。


「アン様、衣装が仕立て上がって来ています。お部屋に入ったら、早速お召し替えを致しましょう。そのお姿では少し優美さに欠けるようにお見受けしますわ」

 ミネルヴァはアンににっこり笑って言った。アンはどぎまぎして、助けを求めるようにアダムを見たが、アダムもこればかりはどうしようも無い。最後にはアンが恨めしそうに見て来るので、アダムは困ってしまった。ソフィーはほらねと言う顔をして笑っていた。


「アダム様とドムトル様には、騎士団の独身寮が割り当てられておられますが、今日の所はこちらの客室にお泊り頂き、明日以降に移動のご手配を致します」

 トーマスがアダムに向かって言って来るが、アダムは気が付かないで、自分の想いにふけっていた。


「さあ、王都での新しい生活の始まりだ」

 アダムはこれからの新しい生活に期待が膨らむのを感じていた。きっと王都でも色々な出来事が待っているに違いないと思ったのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。アダムたちはやっとザクトから出ることが出来ました。新しい展開にご期待ください。


次は、「 初めての王都 」です。


お読み頂きありがとうございます。是非ブックマークの設定とポイント評価をよろしくお願いします。



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