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ケイルアンからソンフロンドへ

「きゃっほう! すげぇ、良い気持ちだぜ」

ドムトルが歓声を上げて湯船に飛び込んだのだった。



 ゴブリン退治は一応の終わりを迎えた。罠に掛かって捕らえられたゴブリンを除いて、55匹のゴブリンを始末したことになる。


 洞窟の奥の部屋に描かれていた魔法陣も問題だった。そこに残されていた女の死体を考えると、今回のゴブリンの繁殖に関係が無い訳はない。しかし、その魔法陣の意味を分かるものはこの場にいなかった。


 ソフィーは早馬を出してガストリュー子爵に報告すると共に、負傷した衛士の補充依頼も行った。王都へは子爵を通じて報告されることだろう。


「ピエール、ガクト、ケーナもご苦労様でした。あなた達のおかげでケイルアンの治安が守られました。ガストリュー子爵家も貴族としての面目が立ちました」

「いえ、みんな頑張りました。鉄の団結やイシュタルだけじゃなく、ビクトール坊ちゃんもアダムやドムトルも活躍しましたよ」

「本当に、子供たちがこんなに働くとは驚いたよ」

 ピエールだけではなくて、ケーナもアダムたちを褒めてくれた。


「重傷者の2人も、スミスの手当てがあって、助かりました」

「いや、スミスの話ではアンがその後から、メルテル仕込みのヒールを掛けて、ずいぶん効果があったらしい。十分復帰が見込めるとの話だ」

「ああ、アンリが刺された脇の傷も、無理をしなければ動けるようになったよ。スミスとアンのお陰だ」

 ガクトの話にケーナもあいづちを打った。


「皆さま、本当にありがとうございました。今日は村を上げてご接待させていただきます。ごゆっくりしてください。それでご出発はいつになさるのですか。遅れる分の宿泊費は村が持ちますので、ごゆっくりしてください」

 村長が礼を述べて、宿の費用は村が持つと申し出た。


「いえ、ゴブリン退治が決まった日に、駅馬車便で連絡を入れたので、とりあえず応援が明日には来ると手紙がありました。明日には出発をします。これからの峠越えも心配ですから」

「それは奥様、やはり盗賊騒ぎはご心配ですよね」

 ケイルアンを無事出発しても、まだまだ盗賊騒ぎで足止めされる恐れがある。先に進める時は進んでおかなければならない。ソフィーの話にピエールたちも頷いた。


「アダムもドムトルもビクトールも、みんな無事で良かったわ」

「アンに俺の雄姿を見せたかったぜ。火玉だって、足元崩しだって、魔法をバンバン打って活躍したんだぞ」

「ククロウを使ったアダムの方が、ドムトルよりもよっぽど活躍しただろう」

「ふん、俺の盾裁きがなかったら、ゴブリンの防衛線は破られていたかも知れないんだぞ」

「そんな話より、俺はあのゴブリンの魔法陣が心配だ。あれは不吉な印だ」

 背後に何者かの悪意があることは間違いない。アダムは闇魔法があるとすれば、きっとあの魔法陣こそがそれだと思うのだ。


「あの魔法陣はどのような効果を出していたのかしら」

「それは分からないが、ゴブリン以外に、人間の関与あったことは間違いない」

 アダムの話にみんなが信じられないと不安な顔をした。


 アダムたちがルセルに向かって出発したのは、翌日の昼過ぎのことだった。ザクトからの衛士の補充が騎馬で到着した。出発した時にはまだ決着がついていなかったので、不安から道中は相当急いで来たらしかった。5人の補充が来たので、重症だった2人を含む3人を残して、衛士隊は8人から10人に人数を増やして出発した。


 アンリを含め、軽傷者はアンから連日のヒール治療を受け、十分旅に耐える体調に戻っていたので、速度を落とすことなく移動することが出来た。


 ルセルに到着したのは、日も暮れかかる頃となったが、日程に問題はなかった。ルセルには、早くもケイルアンでのゴブリン退治が伝わっていて、地元の治安を守ってくれた恩人として大歓迎された。


「気を付けて見ていましたが、特に不審者はいませんでした。宿の前にも盗賊の符丁は見られませんせした。出発しましょう」

 翌朝、ピエールの報告を受けて、ソフィーは出発を命じた。


 ソンフロンドは王都へ向かう街道の中でも一番険しい峠を前にした宿として、誰もが通り過ぎること無く宿泊する宿場町だった。ケイルアンと同じく渓流に沿って宿が密集しているが、ひとつ違いがあった。それは温泉街としても有名だったことだ。


 この温泉街は、王都からも近いことから、夏場の避暑地としても有名で、宿屋だけでなく行楽地として飲食街も充実していた。当然いかがわしい飲み屋や街娼宿もあって、浮浪者や犯罪者も紛れ込んでいる。


 アダムたちがソンフロンドに到着したのは、まだ午後も3時を過ぎた頃だった。予定通り早く到着出来て、今日はゆっくりと休むことになっていた。


 宿屋の給仕にも手伝って貰って、荷馬車から荷物を降ろすと、アダムたちは割り当てられた部屋に入った。ガストリュー子爵が王都へ行く時には必ず泊まる宿屋だけあって、歴史のある外観のしっかりとした宿屋だった。ベッドも大きくてフカフカで、ドムトルは早速飛び込むように横になって悦に入っていた。


「アダム、すぐに温泉というのに入りに行こうぜ」

「ビクトールも誘って行こう」

 そこへビクトールが遊びに来た。3人は連れ立って宿の温泉へ行った。夕食までは時間があったので、温泉浴場には鉄の団結のメンバーや衛士も来ていた。


 浴場の前で湯船に入る時に使う浴衣を渡されて、露天の湯船に向かうと、渓流の谷川が一望に出来る絶景が広がっていた。

「きゃっほう! すげぇ、良い気持ちだぜ」

 ドムトルが歓声を上げて湯船に飛び込んだ。周りの客から迷惑そうな視線が寄せられて、ビクトールが他人の振りをする。アダムは地球時代の温泉と変わらぬ姿に懐かしくなってしまった。修学旅行で仲間と風呂場でふざけ合ったことを思い出した。


 アダムもドムトルも川育ちなので、セト村にも海もプールも無かったから、当然ドムトルは金づちで泳げない。アダムもこっちの世界では泳いだことはなかったが、潜ってみせると、ドムトルもビクトールもびっくりして真似をしたがった。


「こらこら、ここは身体の傷や疲れを取るところだぞ。大人しく入れ」

 3人は当然に怒られても、大笑いして騒いでしまって、周りの大人の顰蹙を買ったのだった。それは女性客用の湯船の方にも聞こえていたようで、後の食事の席で、改めてソフィーから叱られることになった。アンは苦笑いをしていた。


 食事が終わって、ガクトとケーナが寄って来た。

「宿屋の主人にも聴いたが、ここのところは小さな商人ばかり狙われているようだ」

「近隣の宿屋を見て回ったが、盗賊の合図らしい符丁は出ていなかった」

 ガクトが宿屋の主人に聞いた話をすると、ケーナも気になって宿場を見て回った話をした。


 そこへ宿屋の主人に案内されて一人の商人が近寄って来た。


「これはお初にお目にかかります。王都で雑貨を扱っております、グランドと申します。もしよろしければ、明日の行程をご一緒できないかと思いまして、お願いをしに参った次第です。人数は多い方が盗賊も出ないと思います」

「そちらの人数は何人ですか」

「2頭立ての荷馬車が1台で、載っているのは私と部下の3名です。ただし、部下の3人は元冒険者上がりでして、警護要員でもあります」

「すいませんが、ご返事を即答は出来ません。こちらも同行者の意向を確認しないといけませんので」

「分かりました。どちらにしても明日には立ちたいを考えておりますので、ご返事をお待ちしております。私は213号室に宿泊しておりますので、よろしくお願いします」

 グラントはソフィーや同席のメンバーに挨拶をすると出て行った。


「どうして、応じなかったの。こっちも人数は多い方が良いんじゃないか」

「ビクトール、止めた方が良いよ。相手は2頭立ての荷馬車だから、スピードも遅いし、初めてのメンバーと連携するのも難しい」

「アダムの言う通りだ。王都の商人と言っても本当か分からないしな」

 ガクトがはっきりと考えを言った。もし襲われたら、守る対象は絞られていた方がやり易い。逃げる時も同じだと言った。

「断るにしても、返事は明日の朝にした方が良い。相手に対応する時間を与えない方が良い」

 ケーナも同じ意見だった。ゴブリン退治でこちらは纏まって動けるようになった。お互いが信頼して戦える。余分な要素は無い方が良いと言った。

「分かりました。明日の出発は遅めを予定しているから、朝一番にお断りしてください。ピエール、お願いします」

「承知しました、奥様」


 解散して、アダムたちは部屋に戻った。アダムはアンに頼んで、ククロウを借りた。少し宿の周りを見て回るつもりだった。早速窓を開けてククロウを飛ばすと、アダムはペットに横になってリンクした。


「闇の目”tenebris oculi”」

 アダムは自分たちに近づいて来たグラントの様子を探って見ようと思っていた。何も無ければそれでいいが、一緒に行くつもりが無くても、前後について来られたら同じだ。警戒して置いて損は無いと思ったのだ。


 ククロウは前と同じように、まずアンの部屋の窓を身に行く。”アン、アン、大好き”  アダムはまたククロウを説得するところから始める。アンはきっと喜ぶよ。


 グランドは213号室と言っていた。だいたいこの辺りと見定めて、近くの枝に停まって、音を探る。

「返事が来ないすね」

「ああ、嫌われたかな。まあ、いいさ。それならそれで、先に宿を出て様子を見て抜かれるさ。その上で付いて行けばいい」

「本隊は何処にいるんすかね」

「分からないな、ケイルアンのアジトがゴブリンにやられているなんて考えもしなかったからな。先行して本隊を探していたら、今度はこっちが見失うかも知れんしな」


 嫌な予感は当たると言うが、グラントは盗賊の一味だった。アダムは話声がした方向を確認して、窓から中をククロウに覗かせた。

 グランドの元に部下が顔を寄せ合って話し合っていた。盗賊本隊の場所を知らないようだと、このまま見張っていても意味がない。アダムは朝食の時に相談することにして、ククロウを戻すと、アンの元に返した。


 明日は決戦となりそうだ。無邪気にぐっすりと眠るドムトルをみながら、アダムは明日の手順を考えて眠れない夜を過ごしたのだった。


次は、「ソンフロンドの峠道」です。


お読み頂きありがとうございます。是非ブックマークの設定とポイント評価をよろしくお願いします。


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