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セト村旅立ち

「アン姉さま、本当は私もご一緒したかったですわ」

テレジアが、アンの手を取って話し掛けたのだった。


 ビクトールが馬でセト村に遊びに来た。3月に入り、王都へ行く打合せに来たのだ。


 赤狼の討伐でアダムたちは普通の子供たちではなくなった。アンが七柱の聖女と呼ばれるようになって、既にもう1年が過ぎようとしていた。そこに、ザクトの冒険者と交じって魔素狼と戦う姿を見ては、村人たちも、もうとても6歳の子供とは思えなくなっていた。


「ビクトール坊ちゃま、いらっしゃい」

「この間の赤狼退治はご苦労様でした」

 ビクトールが役場に馬を預けて、メルテルの施術院に向かって歩いていると、途中に出会う村人から挨拶を受ける。ビクトールも育ちの良い子弟として挨拶を返した。


「メルテル、おはようございます。アダムはいますか」

「ビクトール、おはよう。今アダムを呼ぶから」

 アンはビクトールに挨拶すると、2階の子供部屋にアダムを呼びに行った。


 アダムたち3人は当初駅馬車で王都に向かうことになっていたが、最近になって、途中の山岳地で盗賊が出るようになって、ガストリュー子爵から待ったが掛かった。警護も付けずに駅馬車で出発して、盗賊に捕まったら元も子もない。


 ビクトールはガストリュー子爵家の馬車で王都へ向かうことになっていたが、こちらの警護も厳重にしなければならない。そこでアダムたちもガストリュー子爵家の馬車に同乗することにした。それでも、盗賊の規模が大きくなって来ていて、どうするかと言うことになっていたのだった。


「ビクトール、おはよう。日程は決まった?」

 アダムが2階から降りて来てビクトールに話しかけた。

「それが、ヨルムントの商店のザクト支店から話があって、隊商と一緒に峠越えをしないかと提案があったんだ。向こうはザクトから冒険者を2隊付けるらしい」


「こっちの衛士は何人いるの?」

 アンも話に入って来た。

「うーん、8人くらいかな。俺たち単独の方が狙われないか、それとも一緒に大勢で通った方が狙われないか、判断に迷うところだよな。それでも父上はザクトの商人を放っておけないから一緒に行ったらどうかと考えているんだ」


 ヨルムントの商店のザクト支店と聞いて、アダムはヘラーの事を思い出したが、ビクトールの話では果たしてヘラーだったらしい。今回はヨルムントで仕入れた、デーン王国から輸入した高級雑貨を王都へ運び込む。アダムたちが王都に行くことを知っていて、これを好機とガストリュー子爵へ話を持ち込んだのだ。


「そんな大掛かりな盗賊団だったら、王都から討伐隊が出ないのかな」

 アンが疑問に思ったことを聞いた。

「被害の実態がまだ良く分からないんだ。騎士団から討伐隊が出るとしても、俺たちの旅行には間に合わないじゃないかな」


 ビクトールの答えを聞きながら、アダムはアントニオやアラン・ゾイターク伯爵が居てくれれば何の心配もしないのにと思う。あの二人は別格だ。


「王都までは10日程度はかかるから、遅くとも出発は3月9日か10日頃になると思う。迎えの馬車は来させるから、準備をしておいてくれ」

 ビクトールは昼食を一緒に取ってからザクトへ帰って行った。 


 3月7日になってビクトールから連絡があった。9日に迎えをよこすと言う。ヘラーとガストリュー子爵の話し合いが終わり、隊商の護衛をする冒険者も決まったらしかった。


 それからアンは何かとメルテルの手伝いをして時間をすごした。

 アダムはドムトルやジョシューと一緒に過ごして、ザクトで習ったことでジョシューにも役立つことがあればと、魔法学で習ったことを実演したりして名残を惜しんだ。


 ジョシューは風の女神ティンベルのご加護を受けていたこともあり、最後には風の盾を出せるようになった。

「風の盾 "Ventus clypeus"、ほら俺の方がドムトルより上手く出せるようになったぞ」

「こら、ジョシュー、俺様に勝つなんてまだまだ早いぜ。俺は火玉も出せるんだぞ」

 何時ものようにじゃれつく二人にアダムは笑ってしまう。


「これが最後という訳じゃないさ。俺たちはまだまだ若い。次に再会した時に、お互いが誇れるように頑張ろう」

 アダムが言うと、ジョシューはこれからも風の魔法については、色々伝手を頼ってでも勉強を続けると宣言した。

 

 メルテルの別れは今回もあっさりとしたものだった。明日は出発の日となっても、夜は早々とアダムたちを子供部屋に上げて、しっかりと休ませた。


 翌朝はいつも通りの朝食が用意されていた。

 アダムとアンが食事をしていると、施術院の準備を終えたメルテルが食堂に入って来た。

「忘れ物は無いかい。もう直ぐ迎えの馬車がくるよ」

 メルテルに言われて、アダムとアンは持って行く荷物をもう一度点検する。


「メルテル母さま、大丈夫です」

 アンがメルテルに抱き着いた。メルテルは優しくアンの頭を撫でてくれる。

 アダムが荷物を持って席を立った。ククロウを入れた籠も抱えて持つ。

「ベルタおばさんもお元気で」

 ベルタおばさんがアダムとアンを抱きしめてくれた。

「2人とも元気でね。メルテルに手紙をちゃんと書くのよ」

 メルテルに代わってベルタおばさんが2人に注意した。


 迎えの馬車は村の中央広場に来ていた。

 アダムたちが行くと、顔見知りの衛士が挨拶をしてくれる。

「ガストリュー子爵家の方ですね、今日は宜しくお願いします」

 メルテルが挨拶を返した。


 ドムトルの一家も既に来ていた。アダムはドムトルと目で合図を交わした。

 広場にはジョシューやその家族だけではなくて、村長も見送りに来てくれていた。

 ブルートが村長に気が付いて挨拶に行く。メルテルも気が付いて2人に挨拶をした。


「アンもアダムもドムトルも、セト村にとっては特別な子供達だからね。私は王都に行っても頑張って欲しいと思っているんだよ」

 村長は赤狼の討伐があって、アダムたちがザクト滞在中に大活躍したと言う噂話が、本当だったんだと驚いたらしかった。ブルートとメルテルが村長の激励にお礼を言った。


 ジョシューが大人しく遠くから手を振ってくれた。

「では、メルテル母さん、みなさん、行ってきます」

 アダムが代表して挨拶をして馬車が出発した。


 アダムたちがザクトに到着したのは正午を過ぎた頃だった。

 ガストリュー子爵の領主館に到着すると、執事長のベンが迎えに出てくれていた。


「皆さんがお待ちになられていますよ」

 ベンは、今回の王都へ同行する商人や警備の冒険者が打合せに来ていると教えてくれた。

 アダムたちは最初にビクトールたちと昼食を摂るために食堂に通された。


「よく来たね。アン、アダムとドムトルも、今回はソフィーも同行するから頼むよ」

 ガストリュー子爵が歓迎してくれた。

 アダムたちが席につくと、召使たちが昼食の用意を始めた。


 ソフィーは、本当は先に王都へ行って、ビクトールの為に屋敷を整える予定だったが、山岳地帯に盗賊が出るというので様子見をしていたのだ。今回は、やはり遅れても一緒に行く方が安全だという話になった。元々ビクトールの部屋はあったから心配はない。

 アンの部屋はテレジア用にあった部屋を当てて、テレジア用の部屋はまだ時間があるので、別途整えることにしたのだ。


「アン姉さま、本当は私もご一緒したかったですわ」

 テレジアが、アンの手を取って話し掛けた。

「テレジア、お前はまだいいじゃないか。私が寂しいではないか」

 末の娘に甘いガストリュー子爵がお前はまだ1年あるじゃないかと言った。


「それにしても、盗賊の被害は色々出ているのですか?」

「王都へ行くには、宿場町として、マツレ、ヌュール、ケイルアン、ルセル、ソンフロンド、コルナ、ニィエール、ヌヴユング、ナラール、オーロン(王都)と普通9泊10日になるが、途中3泊目のケイルアンから山岳地帯に入る。5泊目のソンフロンドを越えたところが一番の峠道で、6泊目のコルナまでは山岳地帯が続く。この山岳地帯に最近盗賊団が出没するんだ」


 ガストリュー子爵の話では、元々山岳地帯にはゴブリンやオークが発生し、稀にはオーガも出没すると言う。今回はさらにそこに山賊も出たのだと言う。

「ゴブリンやオーク、オーガですか」

 アダムたちはまだ見たことが無かった。セト村やザクトの辺りにはいない。


「彼らは元々大きな群れでは襲ってこない。普通は冒険者が1グループでもついていれば襲ってこないが、盗賊は大人数で襲って来る。今回は20人から30人はいたらしいよ」


 今回の移動にはガストリュー子爵家の馬車が、駅馬車と同じ4頭立て9人乗りの馬車が1台、4頭立ての荷馬車が1台で、乗客としてはソフィーとビクトール、アン、アダム、ドムトル、ソフィー付きの侍女が3人の8人だった。別途御者が2名と警備の衛士8人が騎馬で付く。

 商人のヘラーの方は、4頭立ての荷馬車が2台で、乗客はヘラーと部下が3名で御者を兼ねている。警備として冒険者グループが2チーム、8人が付く。


「これだけの人数だから、大丈夫だと思うんだけどな」

 ビクトールが呟くように言った。色々考えると中々食事にも手が出ないようだ。

 ドムトルは召使にあれこれ皿に取ってもらって、パクついていて、ビクトールに睨まれていた。

「なるようになるんじゃないか」

「ドムトル、お前何も考えていないだろ」


 テレジアが召使に指示して、何かとアンに料理を持って来させて食べさせようとする。アンは必死にそれを止めていた。

「アン姉さま、私が作らせた美味しい焼き菓子もありますから、後で是非食べて下さいね」。

「テレジア、アンはこんなに体が小さいのですもの、そんなに食べれませんよ」

 ソフィーも横で止めてくれるが、フランソワがにっこり笑って皿を戻して来る。フランソワとテレジアの母娘は、人に振舞って食べさせるのが礼儀だと考えているところがあった。


「俺たちはセト村とザクトしか知らないから、今度の旅はすごく楽しみなんだ。ビクトールは王都へ行ったことがあるのか」

 ドムトルがビクトールに聞くと、ソフィーが答えてくれた。

「ビクトールを連れて実家へ帰ったのは、もう3年くらい昔だから、ビクトールは小さくて覚えていないんじゃないかしら」

「母上の仰る通り、あんまり覚えてないよ」


「ソンフロンドの宿場町は温泉でも有名だから、泊まった時に行くといいよ」

 ガストリュー子爵は王都に行くときには必ず寄るから、今回も衛士隊長のピエールには温泉宿を取るように言い付けてあると言った。

「お父様、温泉というのはどんなものですの?」

「火山の影響で地下水がマグマで熱せられて、熱いお湯が湧いているんだ。それを大きな湯船に引いて来て、みんなで入るんだ。鉱泉の効果で体の傷や病気に効くんだよ」

 ソンフロンドは王都にも近い高地でもあるので、夏の避暑地としても人気があると教えてくれる。


「ドムトルもアダムも、ケイルアンもジビエ料理で有名だから、楽しみにしていていいわよ」

「ソフィー、ジビエ料理って何?」

 早速ドムトルが食いついて来て聞く。ソフィーは野生のイノシシ料理で有名だと言った。


「アン姉さま、やっぱり途中まで付いて行こうかしら。お父様、山賊が出る前に戻って来るのはだめ?」

 テレジアが無茶なことを言い出して、みんなの苦笑を買った。

「ご主人様、お待ちの皆様もそろそろ食事を終わられるころだと思いますが、どう致しましょうか」

 話が脱線しそうになって、忠実な執事長のベンが声を掛けて来る。


「そうだったな、明日の打ち合わせが今日の本題だった。みんな、席を移そうか」

 食事も終わっていたので、子爵が席を立って、客が待つプレイルームへみんなを誘導した。


次回は、「王都への旅立ち」です。


お読み頂きありがとうございます。是非ブックマークの設定とポイント評価をよろしくお願いします。

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