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個性を生かした剣技訓練

いよいよアダムたちのザクトでの補講は終盤を迎え、王都への出発に備える段階に入ります。


 アントニオによる剣術の講習も終盤に入っていた。


 これまでは一律に同じ練習をしていたが、各人毎の個性を生かした剣技の練習も取り入れ始めていた。

 アダムはネイアスを相手にレイピア戦の講義を受けていた。

 ネイアスがアダムの前でレイピアを構える。


「相手のスタンスを見ろ。突き主体なので、利き腕側の足が前に、肩幅程度の開きで、つま先は相手を向いている。後ろ足はやや開いている。突く時の前足は足の踵から地面に着く。これはつま先から着けると、突きの伸びが出ないからだ」


 これはアダムへのレイ対策の教育でもあった。ネイアスは乱入して来た時のレイと同じような軽鎧にマントを付けて、レイピアをアダムに向けている。


「右手は軽く肘を曲げ、手の甲を上にして、柄頭を手首の裏に付けるくらい。そうすると剣の重みで剣先が下がろうとするが、指を支点に抑えることで保持が容易になる」


 エンドラシル帝国での貴族の決闘ではレイピアの人気が高い。決闘はお互いがこの体勢で開始線に立ち、始めとなる。


「左手は頬の前に手を左右に振って顔面の防御をする。特に決闘の場合は、左腕を犠牲にして急所を守ることも選択肢だ」


 決闘の場合は攻撃の先手を交互に行う事があり、受けて耐えることが自分の攻撃の条件となる。左腕を犠牲にしても相手の攻撃を受け切り、自分の攻撃回で起死回生を狙うことは、決闘では良くある作戦だと言う。立会人がいる決闘ならではの作戦だと、アダムは思った。


「レイピアは剣の中で最も間合いの長い部類に入る。刃長が約90cmあり、突くことで約130cmが攻撃範囲だ。ネイアス、突いて見せろ」


 アントニオの指示でネイアスがアダムに突いてくる。2mの間隔が、一気の踏み込みでアダムの軽鎧を突く。ネイアスはすかさず後退して開始線に戻った。

 鋭い突きに横で見ているドムトルやビクトールもため息をつく。


「どうだ、多人数との戦闘では力押しされるが、1対1では非常に有効な武器だ。あとレイピアは刃が鋭く両刃なので切る事もできる。肘を曲げ手首を返して切って来ることもあるから、注意しろ」

「確か、冒険者ギルドでアダムとレイがやった時も、鍔迫り合いから手首を返した切り下しでやられたよな」とドムトルがすかさず注釈を入れる。


「アントニオ先生、レイピアの弱点は何ですか」とビクトールが聞いた。

「間合いだな。長所は短所と背中合わせなんだ。間合いが長い分、踏み込んで突いて来たところを、避けて踏みとどまれれば、こちらの好機だ。今度は逆に刃長の長さがレイピアの欠点になる」


 アントニオはネイアスに自分を突かせて実演する。ネイアスの突きを剣で受けて滑らせながら、アントニオは一気にネイアスに身体を寄せ、手首を掴むと引き倒した。


「すげー、これって格が違うよな」とドムトルが嘆息する。

「相手が左手にダガーを持っていても、片手剣の間合いなら戦い様はある。アダム、ここは宿題だな」


 アントニオがアダムに、自分の間合いを絶えず意識するように教えてくれる。


「アントニオ、あれをアダムに見せてやっていいですか」


 ネイアスがアントニオに聞いた。あれと聞いて、アントニオがまなじりを上げて薄く笑った。面白がっているのだろう。ネイアスに頷いて見せた。

 ネイアスに促され、アダムはネイアスに正対した。


「アダム、レイピア独特の攻撃を見せてやる。止めて見せろ」


 ネイアスは右足を前にレイピアの攻撃態勢を取った。左手を頬の高さに上げながらマントの端を掴んだ。アダムが違和感を覚えた瞬間、ネイアスは大きく左手を振り回してマントをアダムに被せるように拡げて見せた。


 アダムが片手剣でマントを受けた時には、マントの真ん中を突いてネイアスのレイピアの剣先はアダムの軽鎧を突いていた。レイピアだからできる作戦でもある。


「はい、一丁上がり」とネイアスが笑った。


 クッ、とアダムが歯噛みする。


「面白いだろう。マントは実に有効な装備なんだ。これは目くらましに使って、レイピアだからできる攻撃でもある。マントに穴が開いても、死ぬよりは良いからな」


 アントニオは、マントを剣で受けると剣の自由が奪われるのも痛い。そのままだと重たいし、下げて外そうとすると1手遅れると言う。


「今度武器屋に行った時に良く見ておくんだ。マントは単なるお飾りや防寒具ではない。立派な装備なんだよ」


 金具が簡単に外れる工夫をしたり、左手に巻いて盾代わりに使うために金網を入れたり、穴が開いても生地を代えれるように工夫したり、色々なマントが作られていると言う。


「アダム、お前は全体を見て指示する役だ。いつでも臨機応変な対応ができなきゃ駄目だ」


 アントニオは、そのためにいつも頭を使って考えていろと言う。自分が置かれた状況を絶えず検証し、心構えを作っておく。見た目は悠然と構えていても、頭はいつもフル稼働している、それがお前の役割だと教えた。

 アントニオは、ドムトルには大盾とメイスの練習をさせた。

 重装備の相手に当たる役割だ。領主館の剣士に甲冑を着せて、ドムトルに攻めさせる。


「全身で相手を止めるつもりで当たれ。大剣の間合いを詰めて、相手の弱点を叩け。メイスの打撃力は甲冑でも昏倒させる」


 アントニオは大盾とメイスを胸の前に構えさせ、体から前にぶつからせた。

 相手をしてくれる剣士には申し訳ないが、アントニオはドムトルに本気で打たせた。相手は全身鎧で防備しているが、打ち身で痣が出来ないはずがない。


「軽快に動いて躱すのではなく、受けながら前に出ろ」


 大盾は大きくて重い。取り回しが悪く、肘から革ベルトで固定する方法もあるが、そうすると逆に盾を押さえられると左手の自由が利かない。また倒れた時に抑えられ易い。バインド(固定)しないで保持できればいいのだが、今度は手首の力だけでは辛くなる。なかなか力と体力がいる役割なのだ。


 しかしアダムが見てもドムトルの性格にあったスタイルだと思う。これまでもドムトルは打たれても足を止めず前に出る事が出来た。相手の大剣に決定打を打たせないためにも、間合いを詰めて当たる必要がある。


「受けて、受けて、受けて、隙を見つけて相手を叩きつけろ」


 こうなるとアントニオの指導は理論的というより、根性論的に聞こえて来る。


「ドムトル、お前は集団戦で前衛の要になれる力がある」


 これはドムトルの「褒めれば豚でも木に登る」性格を良く知った上で、指導しているのかも知れなかった。

 しかし、打たれても足を止めず、懲りずに前に出て行く姿は、アダムにはとても頼もしい切り札に見えた。


 ビクトールはクロスボウの練習をさせられた。


「次の矢を早く装填できるようにしろ。クロスボウは練習さえ出来れば、力も要らない。正確さも十分期待できる」 


 ビクトールは密猟者と戦った時に活躍したことで、クロスボウに得意意識が芽生えていた。そこから、言われて練習するのではなく、自分で色々工夫することが出来るようになっていた。自信家とは言えないビクトールだが、クロスボウだけは自分に合った武器だと思い始めていた。 


「体格が大きくないこともあるが、少し暗い(冷静な)性格に合っている」


 ネイアスからの最後の一言が、少し心に引っかかったビクトールだった。


 アントニオの講習の最後は剣技レスリングだった。

 突きや切りといった剣の攻撃ではなく、接触を伴った格闘の業だ。剣を合わせて戦う時に、柄頭で相手の鼻を打ち砕く、鍔で殴る、腕を取り足を掛け押し倒す。長いロングソードの鍔で引っかけて引き倒す、金的を狙って蹴る、指で眼球を潰す、なんでもありの格闘技だ。


 アダムたちは大人の剣士が模擬戦で戦いながら、繰り出す技を見て学習した。自分たちでもやって見る。そして大人の剣士に相手をしてもらって、身体の大きな相手に密着して、恐れず動けるように練習をした。


「お前たちの身体はこれからどんどん大きくなる。今から戦いの感覚を磨いておけば将来必ず役に立つ。剣士の身体を作る上でも有効だ」


 アントニオはアダムたちの身体づくりの一環として、以降の講習では必ず時間を取って練習させた。

 アントニオの話では王立学園に入学すると、学年対抗で模擬戦を戦う。上級生に進むと、コース毎に学年順位が発表されると言う。


 アダムたちも訓練が進んでくると、自分たちの実力を試したくて仕方が無くなって来た。アダムたちは、段々早く王立学園に入学したいと思うようになって来たのだった。

 

次は、「アンの服作り」です。


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