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初めての攻撃魔法

「くそ、俺は火の女神のご加護を受けているんだぞ」

ドムトルが焦って叫び声を上げたのだった。


いよいよアダムたちのザクトでの補講は終盤を迎え、王都への出発に備える段階に入ります。


 12月に入り、ザクトでの補講も終盤に入っていた。


「この間の狩猟会での襲撃を受けて、従来の予定では入っていなかった攻撃魔法の手ほどきをしたいと思います」


 アステリア・ガーメントがアダムたちに向かって言った。王立学園の入学レベルは既に十分に達していることも理由だった。


「やったー、何を教えてくれるのさ、アステリア先生」とドムトルが歓声を上げた。

「あなた方が攻撃の主体となって戦う魔法と言うより、仲間を助けて側面支援をする時に有用な魔法を教えます。

 1つは火魔法の火玉です。あなた達ではまだまだ威力が強くて持続力のある火玉は無理です。だから、相手の動きを制約したり誘導するためのものです。

 2つ目は相手の足元を崩して、動きを制約する。もしくは味方の足元を固めて動きやすくする土魔法です」


 アダムたちの顔は初めての攻撃魔法と聞いて興奮していた。荒れ熊の討伐の時に風の盾の有用性は十分に分かったが、あれはあくまでも受け身だった。アントニオやネイアスの後ろに控えて見ているしかなかった。側面支援でも仲間の攻撃に積極的に参加できるのだ。


「火玉については既に説明もしているので、概念は分かっていると思う。後は実践訓練ですが、室内では危険なので、後から中庭の訓練場で練習します。今日は先に、足元を崩す土魔法について、その背景原理から教えます」


 アステリアは重たそうな木桶をテーブルに並べて、中身を見せた。


「並べた木桶の中身の違いは何だと思いますか? ビクトール、言ってみて」

「岩を砕いた小石と砂と土と粘土だと思います」

「そうね、つまり何が違うのかしら、アダム」

「それは、つまり塊りと言うか、粒の大きさの違いですか」

「そうです。前に固体の特性を話しました。氷(固体)は温めると水(液体)になり、水(液体)を温めると水蒸気(気体)になって蒸発する。同じことは金属ても起こり、鉄を熱して行けば液体化する。同じように岩石も熱して行けば溶岩になる。それぞれ更に熱していけば揮発して行くでしょう。

 今回はそれとは別の固体の特性を説明するものです。熱を与えて液状化するのではなくて、大きさを細かくして行った場合に起こる違いです。木桶の中身は、

 1つ目は礫つぶてです。大きさの目安は、64mmから2mm程度

 2つ目は砂です。大きさの目安は、2mmから1/16mm程度

 3つ目は沈泥です。大きさの目安は、1/16mmから1/256mm程度

 4つ目は粘土です。大きさの目安は、1/256mm程度以下です。

それでは、ドムトル、どうすれば敵が不利になりますか」

「そりゃ、砂だろう。足元が砂のように崩れやすければ足場が悪くて不利になると思うぜ」


 ドムトルは当たり前だとアステリアへ答えた。


「そうね、でもその時、雨が降っていたらどうかしら、アン」

「濡れた砂地は硬くなるので、泥なら滑って敵は足が踏ん張れないと思います」


 アンもこの程度なら答えられると思う。


「はい、正解です」

「えー、じゃ、どっちも正解なのかよ」とドムトルが口を尖らせた。


「そうです。その時の地面の状況に応じて、粒の細かさの度合いを選択して魔法をかけるのが正解です。雨が降って足元が濡れている時は、礫や砂の程度では水はけが良くなってむしろ敵を利するでしょう。でも、細かくなり過ぎて粘土を越えるとまた硬くなって敵を利することになる。だから、正解は粒子の大きさと水との関係を知っていて、最適な状態にすることです」

「でも、それなら氷を溶かすように、地面というか、岩石を溶かせばどうですか」


 ビクトールは足元が水に沈むように液体化すれば良いと言った。


「そうね、でもそれが出来ないのは何故だと思う? アダム」


 簡単に辺りを溶岩の海に変えれれば、それは無敵だろうとアダムも思う。


「大量の熱が発生するか、必要とするからですか、アステリア先生」

「惜しい、言いたい事は同じようだけれど、つまり発現させたい現象と必要とする魔力が釣り合わないからよ。敵を溶岩の海に沈められればいいのだけれど、魔力が釣り合わないから、普通の魔術師には無理なのよ。それに大魔法使いだとしても手段と方法が釣り合わないわね。足元を崩したいだけだから」

「つまり、粒子の細かさを、天候や水分の状況を考えながら調整した方が容易だと言うことですね」


 アダムが返答するとアステリアはそうだと言った。魔法を使うにも費用対効果は考えねばならないと教える。


「アステリア先生、それなら、足元に水が十分にあったら前に習った凍らせる魔法”水よ凍れ Glacians in aqua,” で地面を氷に覆わせて、滑らせるのはどうですか?」とアンが聞いた。

「素晴らしいわ、アン。その考え方こそ重要なのよ。簡単な魔法でも状況によって使い分ければ、十分有効な手段になるわ」


 アステリアは柔軟な頭で魔法の幅を広げてくれるように、みんなに言った。


「今教えた魔法は辺り一面をぬかるみに変えるような大掛かりな使い方もあるけれど、まずは相手の足元を崩す程度の魔法からやってみましょう」


 アステリアはアダムたちを剣術訓練場に隣接した魔法訓練場へ連れ出した。そこは10m四方を土壁で囲まれた場所で、壁際には標的となる的が設置されていた。足元は細かく砕いた石で固められて、しっかりとした足場になっている。


「それではまず、火魔法の火玉です。これはもう何回も見ているでしょう。この間は敵からも攻撃されて、あなた達には強く意識に焼き付いているはずです。私がやって見るので、やってみて

  ”オーン。火の神プレゼよ、熱き火の玉をかの敵に与えたまえ。Orn.Dabit deus ignis ardentis Plese augue ut hosti.”」


 アステリアの右手からオレンジ色の光球が壁際の標的に向かって飛んで行った。標的に当たると丸い焦げ跡ができ、標的を貫通した。この標的は難燃性の塗料が塗られていて、全体が燃焼することが無いように加工されていた。


「アステリア先生、呪文の最初にある”Orn"は確か他の長い呪文にもあったと思いますが、どんな意味があるのですか?」とアンが聞く。

「これは、神々に祈願する呪文の最初につける定例句で、神々への呼びかけね。”神よ我は祈願する”と同意と習うわね」とアステリアが教えてくれる。


 アダムたちは壁に向かって並ばされて標的に右手を伸ばした。”Orn.Dabit deus ignis ardentis Plese augue ut hosti.”


「ドムトル、発音がおかしいわ。あまり考えないで今は聞いた通りに真似て繰り返すことを考えなさい。あとはイメージ力ね。目に焼き付けて再現する意思を強く持って」


 やはり最初に火玉を再現出来たのはアダムだった。現象の理解があることが早道なのだろう。次にそれを見てアンが成功した。


「くそ、俺は火の女神のご加護を受けているんだぞ」


 ドムトルが焦って繰り返すが、火玉は出ない。エネルギーの転換点と言われてイメージできないのだろう。ドムトルの場合はむしろ考えないで、見たものを再現しろとアステリアに言われていた。火の女神のご加護があれば、火魔法への親和性が高い。ドムトルには理解よりも共感しろと言った。


「焦ってはだめよ。みんなできるはずだから。それでは、一旦火玉は中断して、後で自分で練習してみて。先に土魔法をやって見ましょう」


 アステリアは2m程の間隔でアダムを前に立たせた。


「アダムの足元を注目していて。足元を崩せ “Frange pedibus vestris”」


 アダムの足元が砂地になり、体重をかけていた左足の踵が砂地に沈んだ。おおと、みんなの歓声が上がる。


「数cmの深さで良いのよ、足元を変えてやるだけで、踏ん張る力を分散させる。この時に自分でイメージする粒子の細かさのイメージを変えて念じれば、もっと細かい泥にもなる。この状態でやるとむしろ砂の方が不安定感があるけど、ここが濡れていたり雨が降っていたりすれば、ぬかるみに変えることも可能よ」


 アステリアはまずアダムに代えてアン、ビクトール、ドムトルと順番に前に立たせて、足元を砂に代えて感触を感じさせる。受け身での感触も現象を理解する上で重要なのだと言った。


 次にアンとビクトール、アダムとドムトルが向かい合わせになって、相手の足元を崩してみる。“Frange pedibus vestris”と全員で唱えてみる。でもこれは全員が難しかった。


 アダムは考える。固体としての結び付き方を変えて液状化するのではない。槌で細かく叩いて砕く、次にはすりこ木ですり潰す、いや石臼ですり潰す。段々に粒子が細かくなって行くイメージをする。最後には粉砥石を思い出した。硬いものを磨くのに粉状の砥石で磨くことで研磨する。細かい粒子同士で擦り合わせてより細かくする。どの段階を自分は求めるのか、具体的にイメージをする。そこを理解できれば、あとは考える必要はない。理力で命じれば魔法は完成するはずだ。

 アダムはドムトルの足元を見てイメージする。“Frange pedibus vestris”


「あっ、畜生、アダムやったな」


 ドムトルが声を上げた。


「みんな集まって。ついでだから、足元を固める魔法も見せておくね。あとで一緒に自分で練習してね。今度はドムトル来て」


 アステリアはドムトルを砂地に変えた場所に立たせて、みんなに注目させる。


「凝固しろ “Coagulo”」


 あっ、とドムトルは言うと、つま先でさっきまで砂地だった地面をケンケンした。


「固まってる!」

「元通りに固まった訳ではないわ。表面が少し固まっただけね。砂岩のようなものね。もっとも固め方には色々あるから、これから土魔法を勉強すれば、色々覚えることになる。今日はここまでよ」


 それから、アステリアは自習時間としてみんなに練習させた。


「どう、中々難しいでしょう。出来るまで色々考えながら練習してね。出来た人は他の人に見せてやって、感じさせて、理解させてやって。今日はここまでよ」


 出来る魔法が増えれば、魔力を扱う感が備わって来る。出来る魔法の幅も広がって来る。善循環させることが必要だ。アダムたちの魔法訓練はこうしてまた一段階進んだのだった。

  

次は、「個性を生かした剣技訓練」です。


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