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反撃に備えて その2


「それでは、具体的な対応に入ろう」


 マロリー大佐は地図を出させて、オルランドからマルクスハーフェンを含む周辺の状況を確認する。彼は地図上でマルクスハーフェンの位置を示しながら話を続けた。


「まず、敵の集合場所を確認する必要がある。ロングシップでウトランドから直接乗り込んで来る事も可能だが、赤毛のゲーリックの一族は周辺の海に散らばっている。ウトランドに集合するのは時間の無駄だし、そこから400kmも船団を組んで移動するような危険は冒すまい」

「マロリー大佐、マルクスハーフェンの造船所で新造戦艦が造られたのなら、そこに呼び集めるのではないでしょうか?」


 クーツ少尉の発言をジョー・ギブスンが否定した。


「いや、いくら極秘に新造艦を造っていたとしても、それに加えて60隻ものロングシップの寄港を許しては、神聖ラウム帝国と言えどもばれずに済むとは考えられ無い。不審に思った第三者の目を逃れる事は難しいよ」

「ジョー・ギブスンの言う通りだと私も思う。もっと時間を節約して襲って来るだろう。私はこの辺りの砂丘のどこかに彼らの秘密の拠点があるのではないかと思う」


 マロリー大佐は地図でオルランドとマルクスハーフェンの中間に拡がる砂丘地帯を指しながら言った。

 マルクスハーフェンはオルランドとウトランドの中間地点約200kmにあったが、砂丘地帯は更にまたその中間地点でオルランドから約80km~120km位に拡がっていた。ここは低湿地の湖だったところが地殻変動で隆起し、海流で砂が堆積して砂丘になったものだ。後背地にはまだ広く湖が残っているので、人家もまばらな不毛地帯に成っていた。

 ジョー・ギブスンの話ではガント・ドゥ・ネデランディアが若い頃に干拓事業を起こして穀倉地帯に替えようと尽力したが、地味が乏しく一部の開墾に終わったと言う話だった。


「ここなら漁村も無く人に見つかる事も無い。沿岸を行く輸送船も浅瀬でデルケン人の略奪船と出会うのを恐れて、沖合を素通りして行くので都合が良い。この辺りに奴らの拠点があるのだと思う」

「そうですね、そことオクト岩礁があれば、ウトランドからオルランドに攻め入るのに都合が良いでしょう。そういう意味でオクト岩礁は本当に戦略拠点として重要だったのだと思います」


 マロリー大佐の予想にアラミド中尉が感心したように言った。


「順風であればロングシップでも1日200kmは進むと言われているが、偏西風の影響で逆風となることもあり、急いだとしてもその半分も進めないだろう。周辺海域の一族に指令を出してから集まり、侵攻準備を整えるには最低2週間は掛かると考えて良いだろう。それでももう指示が出ているとしたら猶予は無い。侵攻途上で襲撃するには至急索敵が必要だ」

「マロリー大佐、私が先行して砂丘周辺を索敵します。アダムの魔素蜘蛛を預かっているので、緊急連絡も可能です」


 アラミド中尉が偵察を志願して名乗り出た。

 アダムはそこで手を挙げて提案する。


「同時に私の神の目を先行して飛ばします。神の目なら1時間もあれば行ける距離ですから。ティグリス号のマストを拠点にすれば、ウトランドから出て着るロングシップもほぼ1日で確認できるでしょう。それにアラミド中尉の仰る通り予備の魔素蜘蛛を渡してあるので、上手くすれば敵の旗艦に乗り込ませる事も出来るかも知れません」

「おお、それは凄いですよ、マロリー大佐。それならば的確に敵の動きを知って、遠征途中に襲撃が可能です」


 アダムの提案にエクス少佐も賛同した。アダムが見渡すと、クーツ少尉だけが横を向いているが、まあ今は無視をしても良いだろう。

 アダムは早速神の目と同調して砂丘方面へ向かわせた。神の目もオクト岩礁には飽きて来ていたのか、アダムの依頼に好意的な雰囲気を感じたのだった。

 猛禽類の生活圏は約60kmだと言われているが、季節で『渡り』をする仲間もいて、長距離を飛べない訳ではない。神の目は平均時速約100kmで飛翔し、獲物を狙って襲う時には時速360kmで急降下するのだ。そういう意味で偵察には持って来いなのだった。


「それでは、こちらも出撃準備が必要だな。まずアラミド中尉はこの会議が終わったら早速砂丘方面へ向かって出航してくれ。アダムと連絡を取り合って神の目の情報と連携するようにしてくれ。何か情報があればアダムの緊急連絡で知らせる事」

「分かりました。アダムよろしくな」


 アラミド中尉はアダムに向かって目で頷いて見せた。アダムもそれに首肯する。


「クーツ少尉の方はオクト岩礁の補強をお願いする。港の北の岩礁(男島)の見張り台と女島の高台の見張り台の防備を見てくれ。資材が必要な時はジョー・ギブスンを通してガント・ドゥ・ネデランディアへ依頼する事。後、予備のぶどう砲を港口と高台の入口に移設しても有効かも知れない。エクス少佐、ハーミッシュ・ジュニアとも相談して進めてくれ」

「了解しました」


 マロリー大佐が今度はジョー・ギブスンを見ると、ジョー・ギブスンが先に口を開いた。


「こうなると私がドラゴナヴィス号に乗っていても役には立つまい。むしろ今度はオルランド本土も戦火を受ける恐れがあるとしたら、ガント・ドゥ・ネデランディアと連絡を密にして対応する必要がある様に思う。私はガントの近くに留まり、皆との連絡・調整と支援物資の調達を行おうと思うが、マロリー大佐、どうかな」

「はい、これからは戦闘行為なのでドラゴナヴィス号の運用を任せて貰えると助かります。それに、そうして頂けると新海軍への兵員の増強や兵站の確保に不安が無くなるので安心です。後これからの事を考えても、出来れば大砲や砲弾、爆薬の確保を考えた方が良いと思います。ご当主ガントとご相談ください。デーン王国もこの際協力を惜しまないでしょう」


 ジョー・ギブスンは更にマルクスハーフェンの商売仲間を通じて情報を仕入れる事を約束した。


「ジョー・ギブスン、そうするとソフィケットもオルランドへ残るのですか?」

「ええ、アン、やはり自分の手元に置いておかないと不安なのでそうするつもりです。ヘルヴァチアの傭兵団『銀の翼竜』の方々も居るので不安はありません。ザハトには充分気を付けるつもりです」

「アン、大丈夫だ。私たちが2人をしっかりと守るよ」

「ジョー・ギブスン、アメデーナ、我々との連絡要員として従者のガッツを付けるので、何かあったら相談してください」


 最後のアダムの言葉にアメデーナも頷いたのだった。


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