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竜骨の船『ドラコナヴィス号』 その1


 翌日のヨルムント港は市民の熱気に包まれていた。新しい大型の新造船が来るのだ。ネデランディア公国から依頼を受ける形て、ジョー・ギブスンが発注した3本マストの外洋船は、ヨルムント港湾関係者の間でも注目の的だった。

 

「船影が見えました!」


 港で待機していた使用人が大声で屋敷へ駆けつけて来て、屋敷の中が一変に浮ついた雰囲気になった。アダムたちは丁度食堂で朝食を摂っている所だったが、みんなが主人であるジョー・ギブスンの顔を見た。待ちに待った瞬間、彼が何を話すのだろうかと考えたのだ。しかし、ジョー・ギブスンは穏やかに満足げな笑顔を見せただけで、静かに落ち着いていた。


「一昨年の侵攻には間に合いませんでしたが、これでやっとマリクとの約束が果たせます」

「何年も前から計画されていたのですか?」

「ええ、実は5年以上前から準備をしていたのですよ」


 何より造船技術はデーン王国の機密事項でもある。ヘラー商会を通じて親しい王族筋へも随分働き掛けたと言う。これについては、デーン王国の傭兵団を軍事顧問として雇う事で解決した。彼らがデーン王国の利害に反しないためのお目付け役なのだが、どちらにしても軍事運用する知識も一緒に持ち込まないといけないからだ。

 デーン王国としても北海からウトランド人を排除するのは国益に沿うもので、王国内の造船及び軍需産業振興の機会にしたいとの思惑もある。


「なあ、スニック、早く見に行かないか? 俺、今回ヨルムントへ来て初めて海を見たんだけど、船って見飽きないんだよな」

「へん、ドムトルはやっぱり田舎者ね。船影が見えたって言ったって、それから本当に港に係留されるまで随分時間が掛かる物なのよ」

「わ、分ってるよ、アメデーナ。俺はその、ゆっくり近づいて来る姿を見たいんだよ」

「はは、楽しみにして頂いて嬉しいですよ。もう少ししたら馬車を出しますから、もう暫くお待ちください」


 焦れて直ぐにでも席を立ちそうなドムトルを見てジョー・ギブスンが笑って言った。


「デーン王国の傭兵団というが、何人ぐらい乗っているんだ?」

「デーン王国で募集した乗組員は50名で、それに傭兵団が40名乗っています。ヨルムントでも乗組員は補充しますので、乗員は100名を超えると思います。別に傭兵団は護衛艦を2隻伴って来ますが、その船にはそれぞれ約20名ずつの傭兵が乗っていると聞いています」


 アダムたちはそう聞いても、そんなものかと納得しているが、軍事専門家のアメデーナとしては船の大きさに驚いたらしい。


「確かデルケン人のロングシップの乗員が25名くらいと聞いたが、それは随分大きいな」

「お嬢、デルケン人のロングシップは平底船だが、デーン王国の軍船は3層艦だと聞きましたよ。長さも高さも随分違うそうです」

「スニックさんは良くご存じのようですね。今回ギブスン商会が購入した船はクエルク船と言って、元々『樫材の船』と言う意味だったそうです。これまでの船は1本マストが基本でしたが、この船は3本マストで船長は60mあります。それに船首楼と艦尾楼があるので正確には5層艦になります。操艦デッキに立つと6m以上の高さはあるので、今のヨルムント港では大変目立つでしょうね」


 ジョー・ギブスンがメインマストの高さが48mもあると言ったところで、みんなが感心して驚きの声を上げた。アダムは地球時代の記憶で、横浜に係留展示されている帆船練習艦『日本丸』を見た事があるので、あれを少し小さくした感じだろうかと想像した。


「随分思い切った進歩だな、それはやっぱり新大陸へ行くためだったのか」

「ええ、東方のアイサ大陸の物資を求めてエンドラシル海を東進しても、エンドラシル帝国の関税が高いので、いっそ逆回りで直接行って見ようとエンドロール海を西進したのです。アイサ大陸には行けませんでしたが、新大陸を発見したという訳です。未開の原住民が住んで居ても、新大陸は切り取り自由ですからね。今はデーン王国とヒスパニアム王国が争う様に大型船を建造しているのです」


 新大陸の言葉にドムトルが反応した。ユミル先生の授業でも新大陸発見の話はアダム達を熱狂させたものだった。


「ジョー・ギブスンさん、この船でも新大陸まで行けるのかい?」

「はは、ドムトルは冒険心が旺盛ですね。確かにこの船でも十分航海は可能ですよ。でも、デーン王国で最初に新大陸を発見した時は、5艦が船団を組んで挑戦したそうですが、帰還できたのは1隻だけで、参加した乗組員で戻って来れたのは約300人中で17名だけだったそうですよ」

「ドムトルはそんな事より、今回乗ったら船酔いで動けなくなるんじゃないか? そっちの方が俺は心配だな」

「言ったなアダム、どっちが船酔いに強いか勝負だな。ビクトールもいいか」


 これには軽口を叩いたアダムもドムトルも初日から苦しむ事になるのだった。


「あの、この後の予定はどうなるのでしょうか。我々はヘラー商会の友人と会う予定もあるので」

「ああ、アンさん、お伝えするのが遅くなりましたね。召使に確認させたところ、皆さま方の友人であるジョシューさんも今回の件に関係しておられるそうで、ヘラー商会の番頭と一緒に乗船して戻って来るそうです。後で港でお会いできると思いますよ」


 北海航路の拠点でもあるヨルムントでも、最新鋭の大型船は珍しく、商人組合の理事たちへのお披露目会も予定されている。今日は港で船長から到着の報告を受けた後、招いた客と共に一通り船内を見学し、その後は港湾施設のホールに場所を移して歓迎会をすると言う話だった。その時はヘラー商会の人間も参加するので、ジョシューとも挨拶できるらしい。


「やっぱり、あのジョシューだけの事はあるぜ。ちゃっかりしているもんな」


 セト村でアダムたちと一緒に補講に参加したが、ジョシューとは縁があるのだろう。確かジョシューは風の女神ティンベルの加護を受けていたはずだ。船とは相性が良いのかも知れないとアダムは思ったのだった。


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