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ギブスン商会 ジョー・ギブスン その2


「我々ギブスン商会とポンメルン家の関係をお話するためには、ポンメルン家の歴史を話さなければなりません。皆さんはポンメルン家の歴史をご存じですか?」


 ジョー・ギブスンは改めて応接の椅子に座り直し、アダムたちを見渡した。


「あの、神聖ラウム帝国の建国神話に出て来る、建国王ヨウムの5人の使徒のひとりだったと聞きました」


 アンがスニックから聞いた話を思い出して返事をすると、大きく頷いて話し出した。


「そうです。ポンメルン家が『水龍の末裔』と呼ばれたのは、北海の雄と呼ばれた水軍を率いていたからなのです。特に水龍を模した艦首を持つ旗艦が有名で、『竜骨の船』と呼ばれていました。

 その頃は建国して間もなく、周辺の諸国とのせめぎ合いに終始していました。特に北海沿岸の蛮族の侵攻に苦労していました。ウトランドのデルケン人もその中の一勢力だった時代です。初代のポンメルンは海軍を率いて奮戦し北海の制海権を得たのです。その頃がポンメルン家の絶頂期でした」


 ジョー・ギブスンの話では、ポンメルン家が『水龍の末裔』だと言われ始めたのはその頃だと言う。だが、神聖ラウム帝国は内陸部を中心にその後も勢力を拡大し、揺るぎも無い大帝国になった。しかし一方で北海では制海権は、ロングシップを得たウトランドのデルケン人に奪われ、次第にポンメルン家はその水軍と共に名声を失って行ったのだと言う。


「絶頂期のポンメルン家の水軍は、まだロングシップを造り出して居なかったデルケン人の船を、海戦でことごとく打ち破ったと言われています。先頭を行く『竜骨の船』はあたかも水龍の胸鰭を拡げるように波を掻き立てながら突進し、敵の船体を打ち破って行ったと言われています。その艦首の水龍の横には戦乙女と呼ばれたポンメルン家の幼女が立っていたと言われています。

 その為、その後ポンメルン家は帝国の貴族としては輝きを失って行きますが、ポンメルン家の女系子孫は神の眷族である『水龍の末裔』として、神聖ラウム帝国の貴族の間では是非とも手に入れたい血統の一族となったのです」

 

 ジョー・ギブスンの話を聞きながら、ソフィケットを見ると話しの中心が自分の事だと分かっているのだろう、生き生きとした瞳が話を聞く全員を見回し、得意気な笑みを漏らしている。


「ギブスン商会は私で13代目となる商人で、ヨルムントでは北海航路を使った北洋材の輸入業者としては名前を知られた存在です。ウトランドのデルケン人も自分たちにとっても有益な者まで全てを攻撃するわけではありません。我々もデルケン人の長老会と交わした交易権を持っています。

 しかし何処でも権威に抗う者は居て、長老会の指示に従わないデルケン人の一派がおります。その中でも赤毛のゲーリックと呼ばれるデルケン人が一番厄介なのです。不意に現れて通行料を要求して来ます。長老会へ払う税金の他にそんな物を払うととても交易は成り立ちません。ところがこんな海賊行為もデルケン人の法で裁いて貰おうとすると、わざわざウトランドまで出かけて行かなければなりません。しかも長老会も一枚岩では無いので、必ず正義がなされるとは限らないのです。

 ある時、若気の至りと言うか、私は無理な大勝負に出て、デルケン人の長老会と交わした交易品目を越えて、大量に仕入れた商品を船いっぱいに満載して帰路を急いでいた時がございました。悪い事は起こるもので、ネデランディア沖まで来たところで赤毛のゲーリックの船に見つかってしまいました。嵐の中を追い掛け回され、もう駄目かと思った時に、助けてくれたのがポンメルン家の水軍でした。勢いは衰えたと言いながらも、赤毛のゲーリックも一艦で向かって来る訳には参りません。その時に私を助けてくれたのが、この子の父方の祖父であるタルクス・ドゥ・ポンメルンでした」


 ジョー・ギブスンはそこで話の息を継ぎ、召使が持って来たお茶を飲んでから話を続けた。


「私たちは無二の親友となり、ご子息のマリクも勉強の為に私の商船に乗り込ませた事もございました。私の商船でしたらウトランドのデルケン人の港へも交易権で停泊することが出来ます。神聖ラウム帝国の海軍に居てはとても無理な事を経験できる訳ですから、メリットが大きかったのです。

 その頃は同じ建国の使徒と言われたネデランディア公爵家は、帝国の北海に面した公国を任せられるようになっており、ポンメルン家はその傘下の伯爵となって海軍を担っておりました。

 そしてタルクスと示し合せ、いずれ子供たちを娶わせる約束をしたのです。マリクが船に乗り組んでヨルムントにも出入する様になった頃、娘のマリーと出会い、両方の親の思惑通り、二人は恋に落ちて結婚する事になったのでした。

 ポンメルン家は名前の通った貴族でしたが、神聖ラウム帝国の貴族としてはかつての勢いはありません。一方、ギブスン商会はヨルムントでも有数の商家で、これまでのオーロレアン王国への貢献も認められて准男爵にもなっておりました。その影響力は自分で言うのも何ですが、財政的に苦しかったポンメルン家だけではなく、その寄り親であるネデランディア公爵家にとっても大きな財政的支援となりました。gガント・ドゥ・ネデランディア公爵は現在病に倒れていると聞いていますが、若い頃にはタルクスを含め親しく交流していたのです」


 ジョー・ギブスンはそこで一旦話を止めると、横に座るソフィケットに向き直り、愛おし気に頭を撫でると優しく笑いかけた。しかし、再び顔を上げて話し始めた時には、口調も表情にも少し暗い影を落としたようにアダムには感じられたのだった。


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