闇の司祭の捜索(前編)
「良し、今度は闇の司祭の番だ。オットー、頼む。アダム達も引き続き助けてくれ」
「了解しました、パリス・ヒュウ伯爵」
「俺たちも行けます、大丈夫です」
ガイだった者を討伐した前庭では、早速屋敷の中に戻る警務隊とアダム達へパリス・ヒュウ伯爵が指示をしていた。側にはアラン・ゾイターク伯爵もいて、騎士団へ後始末を色々指図している。
「リンたちが心配です。直ぐに行きましょう」
「アダムの言う通りだ。大丈夫だ、小父さん。闇の司祭なんて、俺たちがやっつけるからさ」
「ドムトル、何でお前が請け負うんだよ」
「そうよ、ドムトルは口ばかりじゃないの」
ビクトールの突っ込みにマグダレナも反応した。最近はドムトルと口争いをするのが習慣の様になって来ていた。
「お、お前に言われたくはないわ、マグダレナ。お前、まだついて来るのかよ」
「当たり前でしょ。リンやタニアは私のために突入してくれたのよ」
「ドムトルもマグダレナもいい加減にしろ。リンたちが待っているんだぞ」
アダムはリンたち剣闘士奴隷の元へ早く戻らなければと気が急いていた。
管理人のザップの話では、闇の司祭は元リンデンブルグ辺境伯が作った秘密の小さな礼拝堂にいる可能性が高い。アダムはリンたち剣闘士奴隷が隠れ場所に気が付いていないので心配だった。勝手に中から出て来られる前に戻らなければならない。
「こっちの後始末は任せておけ、アダム。アントニオを応援に付ける。アントニオ、アンを頼む。騎士団を10名ぐらい連れて行け」
闇の司祭との遭遇を想定して、アンも一緒に中に入る事になっていた。もしもの時に、彼の闇魔法に対抗できるのは、アンの『月の雫』とアダムの『竜のたまご』だけだからだ。アラン・ゾイターク伯爵はアダム達の横にしっかりとした大人の守り手を付けたかった。
「分かった、任せてくれ」
「アラン・ゾイターク伯爵、私も一緒に行きます」
アステリア・ガーメントも名乗り出て来た。闇の司祭と対決する時を考えると、アステリア・ガーメントの魔法支援は、アダムにとってもとても心強いものだ。
「あと管理人のザップも連れて行った方が良い。隠れ場所の入口を口で聞いても手間取るだけだ。彼に開けさせる方が良い」
アントニオの意見で、直ぐに管理人のザップが連れて来られた。
「おお、何で今更わしが中に入るんだ? 誰かちゃんと説明してくれ、ええ? 分かった、分かった、あまり強く引っ張るんじゃない。俺は昔戦場で足を痛めているんだからな」
管理人のザップは急に引きずるように連れて来られて怒っていた。中に入ると言うので急いで身支度をしたのだろう、使い古した年代物の武具を身に付け、一人だけ時代が違うような出で立ちに見えた。彼はパリス・ヒュウ伯爵を見付けると、早速文句を言おうと身構えたのだった。
「おお、あんたがここの指揮責任者かね。一緒に中へ入る前に言って置きたい事がある。あのゴブリンの化け物が盗んで身に付けていた武具は、わしのご主人様が集めた大切な宝物だ。勝手に騎士団員がねこばばしない様に見張って置いて欲しい。言って置くが、ちゃんと返してくれないと、グランド公爵家が煩く言って来るからな。おお、何と面倒な事だ、、、」
「警務総監のパリス・ヒュウだ。あの大剣『憤怒』の事は私も知っている。心配しなくても大丈夫だ。警務隊がしっかり集めて確認し、必ずそちらへ返すから。それより、こちらの指示を聞いて、秘密の入口を開け、闇の司祭の捕縛に協力してくれないか」
「ふん、そんなの当たり前だ。わしを騙した悪党を野放しにするものか。わしも昔は辺境伯の元で戦った戦士だ。任せておけ」
ザップは騙された事への怒りを思い出したのか、急に顔を上気させ、小太りの身体を伸ばして胸を張った。その様子が可笑しかったのか、ドムトルがすかさず混ぜっ返した。
「小父さん。誤解したらいけないから言うけど、秘密の入口を開けて欲しいだけだぞ。後は邪魔にならない様に後ろに隠れていてくれたら良いからさ」
「ば、馬鹿にするんじゃない。わしも若い頃は辺境伯の片腕と言われた戦士だぞ。お前のような子供に言われる筋合いは無いわ」
「分かった、分かった、怖いな。でも、無理するんじゃないぞ、小父さん」
「ば、馬鹿野郎。子ども扱いするんじゃない」
ドムトルが怖いものに触るように言うので、ますますザップを怒らせたようだった。
「良し、中へ入ろう」
オットーがみんなを見回して行った。
アダムたちの再突入が始まったのだった。




