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1階への侵攻(前編)


「あなたが、アステリア・ガーメントさん? 警務隊のオットーです。アダムからあなたの話は聞いています。今回の任務ではあなたの魔術師の技が必要だそうです」

「ええ、アラン・ゾイターク伯爵から聞きました。我々魔術師団はどちらかというと大技の攻撃魔法が得意で、今回のような細かい調整が出来るか少し不安ですね」

「いいえ、アダムの話では火玉で焼きながら、空気を冷やして延焼を防ぐような技術は、あなたでないと出来ないと言っていました」

「彼は私の自慢の生徒ですけど、あの発想は普通の大人には出ないですね。生活魔法に応用する発想が今回のような事を思いつく基になっているんでしょうね」


 今回は騎士団の突入部隊が入った後、オットーを中心とする警務隊の突入部隊が続いて入り、階段を上がって2階のアダムたちに合流する手はずになっていた。アステリア・ガーメントは同行して侵入し、アダムと協力して床に穴を開けて、1階へ侵攻する手伝いをすることになっている。

 玄関前に、突入する騎士団20名とオットーたち警務隊員10名が整列して待機に入った。一番後ろにアステリア・ガーメントが立つ。


「よし、突入開始!」


 アラン・ゾイターク伯爵が命令するのを、パリス・ヒュウ伯爵の肩に停まったクロウ4号を通じてアダムも見ていた。

 まずは急襲して玄関ホールの仕切り扉を閉めさせる必要がある。歓声を上げながら騎士団が突入して行った。ゴブリンは仕切り扉の前に盾を並べて守りを固めていたが、30名を超える突入部隊が流れを打って突入して来るのを見て、一旦は引いて扉を閉めた方が良いと判断したのだろう。激しい衝突が起こる前に後ろに引いて、仕切り扉を閉めた。

 手はず通り、騎士団が仕切り扉の破壊を開始する。

 それを合図にオットーたちは静かに2階への階段を上がって行った。


「ドムトル、静かに机を下げるんだ。ビクトールも手伝って」

「良し、アダム、そっちを持ってくれ」


 アダムたちも騎士団の突入を待って、仕切り扉を盾にして塞いでいた通路口を開ける。押さえにした机をずらし、斜交いにして立てかけた扉を開けた。

 オットーたちが静かに階段を上がって来る。最後尾のアステリア・ガーメントが通路を通るのを確認して、オットーが2階の踊り場から下の騎士団へ合図をした。


「よし、もう一度入口を塞ぐぞ」


 アダムの号令で、再び壊した仕切り扉を斜交いに立て、机を後ろから押さえて通路の入口を塞いだ。


「おお、アステリア先生、いらっしゃい」

「ドムトル、元気だった? アダムもビクトールも久しぶり。こちらがエンドラシル帝国のマグダレナね」

「マグダレナです。よろしくお願いします」


 奥の扉の押さえに残したメンバーを除き、剣闘士奴隷たちも寄って来て挨拶をした。


「アダム、よくやった。リッチー・ウルブライトに邪魔されなきゃもっと上手く行っていただろう」

「オットーさんも頑張ったじゃないですか。こっちに怪我をした警務隊員がいます」


 オットーは手早くアダムたちに挨拶をすると、仲間を連れて客間のベッドに寝かされている警務隊員の見舞いに行った。取り残された警務隊員はまだ目を開けていなかったが、規則正しい寝息を立てていて、オットーたち警務隊員もほっとした様子を見せた。

 1階で取り残されている3名の死体は、騎士団が一旦引く前に外に運び出すことになっている。


「アダム、次の手はずを教えて頂戴。私は何をすればいいの?」

「はい、アステリア先生。奥の仕切り扉の前に遊戯室と談話室がありますが、その真下が1階の書斎と居間だと思います。今ゴブリンたちの中心は食堂のガイの周りに集まっていて、食堂と居間の間にもう1枚の仕切り扉があるようなので、それを押さえるために、天井に大きな穴を開けて、書斎か居間に降りたいのです」

「確かあなたは魔素蜘蛛を使って天井に穴を開けたのよね」

「はい、でもゲールを通す小さな穴だったので、周りの空気を冷やして延焼を防ぐことが出来ましたが、今度は一気に侵入しないといけないので、もっと大きな穴を一編に開けたいのです」

「分かった、間取りを見ながら少し考えさせて」


 アステリアがアダムの案内で2階の各部屋を見て回る間、オットーはリンやタニアと話し合い、奥の仕切り扉と階段の踊り場側の仕切り扉の補強と、守備方法について打ち合わせをした。1階への侵攻をした後の守りを考えて、2階はタニアと剣闘士奴隷を残して守備し、1階への侵攻はオットーたち警務隊にリンとアダムたちで行うことにした。


「床が広い遊戯室の方が穴を開けやすいと思うわ」

「はい、真下は書斎で仕切り扉に近いので、一気に穴が開けられればその方が下の仕切り扉を押さえ易いですね。それに談話室の方は下に居間と礼拝堂があるようなので穴を開ける場所が難しいかも知れません」

「でも、アダム。食堂に近いと早く気付かれる恐れがないか?」

「確かにビクトールの言う通りだが、飛び降りて直ぐに仕切り扉が閉められればこちらの方が扉を確保し易い気がするんだ」


 ここで議論が分かれるところとなった。


「アダム、私は火玉では無くて、火壁で一気に穴を開けようと思うの。直ぐにあなたや、ドムトル、ビクトールで空気を冷やして延焼を止めに入る。私も穴が開いたことを確認したらすぐにそっちに移るわ。むしろその穴を通じて下に飛び降りる人は、熱気と冷気が交差する中を無闇に飛び込む事になるので、そっちが心配だわ」

「アステリア、私が一番手で飛び降ります。続いて部下が順に飛び降りるつもりです。我々は皆重装備をしているので、ご安心ください。穴さえちゃんと開けば行けます」


 オットーは最初の突入でリッチー・ウルブライトに邪魔をされて失敗し、部下を3名死なせている。何としても突入を成功させるつもりだった。


「アステリア先生、勢い余って地下まで床に穴を開けないでよ。オットーさんが飛び降りて周りを見渡したら地下だったなんて、笑い話じゃ済ま無いからね」

「ふふ、ドムトル、私に向かってよく言ってくれるわね」

「うへぇ、いや冗談ですよ、、、マグダレナが心配そうに見ているから、、、」

「いいえ、アステリア、ドムトルの曲がった口を思いっきりつねっていいですよ」

「こら、マグダレナ。こんなことで復習するな」


 アダムは決まった事をクロウ4号を通じてパリス・ヒュウ伯爵に報告をした。

 1階では、騎士団の突入部隊が仕切り扉を壊せないかやっているが、やはり簡単には行かないようだ。簡単に壊せるようなら、そのままの勢いで突入も検討していたがやはり難しい様だった。


「よし、一旦騎士団が攻撃が落ち着いたら、こっちの都合で突入を開始して良い事になった」


 アダムが顔を上げてみんなを見渡したのだった。


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