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エルフの村での再会(後編)


 ユミルが入って来ると、アダムたちは思わず立ち上がった。ユミルとの出会いが王都への旅立ちの始まりだった。たった1年くらい前の事だが、アダムには随分昔のように思える。あれから色々なことがあったのだ。自分達の道を開いてくれたのはこの若い学究肌の神官だった。


「やあ、みんな元気だったかい。君たちのことはワルテル教授や巫女長さまから連絡を貰って色々聞いているよ。随分頑張っているようだね」


 ユミルはアダムたちがザクトを出てからのケイルアンのゴブリン退治やソンフロンドでの盗賊団討伐、最近の王都のゴブリン騒動でも活躍している事を聞いていてくれたらしい。

 遠く離れていてもアダムたちは自分の教え子だとユミルが思っていてくれていることが分って、アダムたちは嬉しかった。


「ユミル先生、そりゃ、俺も強くなったんだぞ」

「はは、ドムトルは威勢がいいね。勉強はどうだい?」

「うへっ、べ、勉強はビクトールと一緒に頑張ってるよ」

「こらドムトル、俺を引き合いに出すな。学業はお前よりずいぶん良いんだぞ」

「へん、アンやアダムと比べれば、俺とどっこいどっこいだろうが」


 ユミルもドムトルの挨拶を受けて、前の調子が戻って来たように見えた。アンとアダムへも暖かい視線を送ってくれる。


「もしかして、研究発表ですか? そう言えば春になったらヤーノ教授と一緒に王都に来るとおっしゃっていましたよね」

「良く覚えていたね。そう、ヤーノ教授が学園で講演をすると言うので、一緒に付いて出て来たんだ。ヤーノ教授は今日もワルテル教授の所に行っているよ」


 ヤーノ教授は神学考古学の権威で、神の眷族を祀ったトランスヴァール遺跡の発掘調査で有名だった。教授はその遺跡で見つかった叙事詩『オーディンと麗し姫』の現代語訳に取り組んでいて、完成したら王立学園で発表すると言っていた。トランスヴァール遺跡の発掘にはワルテル教授と学生時代のユミルも手伝っていて、3人はそれ以来の研究仲間だった。


「ドムトル、何か聞きたい事がありそうだね」

「だって、ユミル先生。先生もエルフの村を知っているなんて、知らなかったもの」

「うん、実は学生時代にワルテル教授に連れられて来た事があるんだ。それ以来エルフの村の研究者とも遣り取りがあってね。今回のヤーノ教授の研究が纏まったので、その写しを私が持参して来たんだ」

「初めて来た時のユミルはね、中々人見知りさんでね。ワルテル教授の後ろに隠れて静かにしていたものよ。それが神学考古学では随分有名になったものだわ」


 途中からトートも口を挟んで来た。

 トートは若いエルフなので、ユミルよりも外見が随分若く見える。そこにユミルが敬意を払って接しているので、2人の話を横で聞いていると不思議な感じだ。


「ユミル先生、これからどうするのさ。俺たちが王都を案内するよ。俺とアダムは騎士団所属の見習い扱いで、少しばかり給金も貰っているんだ。何かご馳走してもいいぞ」

「まあ、ドムトル、それは教材費用に出ている物でしょう。いつも買い食いしてるってセト村のお母さんに言い付けるわよ」

「アン、お前な、アダムも一緒だぞ。それならメルテル小母さんにもちゃんとアダムの事を言い付けろよ」


 アンがドムトルを睨みつけるのをユミルは楽しそうに見ていたが、別室にエルフの研究者を待たしていて時間がないと言う。


「アダム、話があるんだ。時間が無いから手短に言うが、ヤーノ教授が研究のためにトランスヴァール遺跡の書類を整理していて、剣聖オーディンの守り刀の話を見つけたんだ」

「守り刀ですか」

「ワルテル教授から君たちが剣聖オーディンの竜殺しの伝承に関心があると聞いていたんだが、トランスヴァール遺跡で祀られている剣聖オーディンの話はね、その竜殺しの後のエピソードなんだ。竜殺しで一躍有名になったことが継母の目を引いて、毒を盛られるきっかけになったんだよ」


 ユミルの話では、剣聖オーディンは1振りの短刀を何時も身に付けていたらしい。それは竜殺しを切っ掛けに剣聖オーディンが手に入れたと考えられると言う。


「それは、遺跡から発掘されたのですか!?」

「いやいや、勘違いしたら駄目だよ。あの遺跡は剣聖オーディンの偉業を称えるために造られたのであって、剣聖オーディンのお墓ではないからね。ただその遺跡には剣聖オーディンの逸話に関わる資料が一緒に保管されていたんだ」

「それじゃ、その短刀の行方を示す書類が残されていたのですか」


 アダムは追いかけて来た物がやっと見えて来た感じに興奮してしまう。アダムの様子を黙って見ながらユミルが楽しそうに笑った。


「ユミル、意地悪ね。早く教えて上げなさいよ」


 トートが横から口を挟むが、アダムは振り向きもせずユミルを注視していた。


「仕方がないな、トート。ここが良い所なんだから。実はね、アダム、オーロンを王都と定めて、オーロレアン王国の中興の祖と呼ばれているフィリップ1世が亡くなった時、王家の霊廟に守り刀として一緒に安置されたと言うんだ」

「おお、王家の霊廟か。そう言えばアダム、国教神殿の巫女長が今度案内してくれると言っていたよな」

「ほほ、ドムトル、それは王家の霊廟の前に行って祈るだけよ。その中に入れて貰える訳ではないでしょう?」


 ドムトルの話にトートが注意するが、プレゼ皇女や王配であるオルセーヌ公に話せば、安置されている場所にもよるが出来る事があるかも知れない。触れられないまでも実物を見れば何かの情報を得て謎が少し分るかも知れない。


「駄目もとでプレゼ皇女に頼んでみます。でも、霊廟の何処にあるか分かっているのですか」

「いやそこまでは記されてはいなかったね。だが剣聖オーディンと言えば鷹の紋章だよ。オーロレアン王国になって、それが鷲に代わったんだ。オーロレアン王国の紋章である鷲の紋章が鍵のように思うね」


 ユミルはそこまで言うと、別室で待つエルフの研究者の元へ戻って行った。


「マグダレナが戻る前に帰ろうぜ」

「ふふ、ドムトルはマグダレナが苦手なんだな。いや、アガタが苦手なのか」

「ビクトール、マグダレナには言うなよ。それに守り刀の事も言わない方がいいぞ。変身の指輪を使って彼奴なら霊廟にも入り込むんじゃないか」


 それはアダムも同じ意見だったので、みんなで剣聖オーディンの守り刀の事は今はマグダレナに言わない事にして、先に戻ってプレゼ皇女に話す事に決めた。

 アダムはハリオの賭け小屋で会った時のアガタの事やマグダレナが『不実の指輪』を使って審判に化けた事も、オルセーヌ公には早く報告した方が良いと考えていた。

 アダムたちはトートにお礼を言い、スラーへも感謝の気持ちを伝えてもらうようお願いして、王都へ帰ることにした。ナラニ湖の出口まではトートが送ってくれたのだった。


次は、「ゴブリンの王」です。


お読み頂きありがとうございます。是非ブックマークの設定とポイント評価をよろしくお願いします。

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