エルフの村へ向かう途中で
アダムたちが学園の授業を終え、エルフの村に向かおうと車止めに来ると、そこにはマグダレナが待っていた。
「あなた達はこれからエルフの村に行くのでしょう? 私もご一緒しようと思って、馬車を準備して待っていたわ」
「でも、エルフの村が君を迎え入れるか俺たちには分からないよ」
エルフの村は特殊な結界で守られており、アダムは事前の了解も無く連れて行っても、入れてもらえるか分からない。それにマグダレナが来ると別の意味で厄介事に巻き込まれそうで心配だ。
「大丈夫よ、私も母の実家から紹介状を貰っているから。今回、母と一緒に王都オーロンへ来たのもそれが目的のひとつなのよ」
「アガタの実家って、エンドラシル帝国の第3公国のか、解放、、、貴族なのだろ」
「ふふ、ドムトル、はっきり言っていいのよ。解放奴隷ってね。でも母は別の顔を持っているのよ」
マグダレナが言うには、アガタの一族は第3公国に古くから住むハーフエルフの一族だった。それがアイサ大陸の蛮族の襲撃を受け捕虜となったアガタは、その蛮族からシーナ国へ貢物として献上されたと言う。シーナ国はアイサ大陸の大半を征服している大国だ。
エンドラシル帝国の現皇帝クラウディオ13世がその蛮族を征服してシーナ国と国境を接する様に成った時、シーナ国の皇帝からお祝いとして、アガタは再度献上されて戻って来たと言う。
元々アガタの一族は第3公国に居住していたハーフエルフの名門でもあり、シーナ国としてもそのまま所有していると、いずれクラウディオ13世との揉め事にもなりかねないので、先に返して来たと言う方が正しいらしい。
「すげえな、お前の母ちゃんって、大陸を跨ぐ政争の取引に使われるなんて」
「ふふ、ハーフエルフは珍しいからね。人間とエルフの混血種なんだけど、単純にはエルフと人間は種を残せないからね。かつて神の眷族が残した遺産みたいな物よ」
「でも何で、クラウディオ13世はお前の母ちゃんを手放したんだ?」
「ドムトルは何でもハッキリ言うわね。それと母の前では母ちゃんは駄目よ」
「うへっ、お姉さんだったな」
「ほほ、ドムトルは可愛いから好きよって、母が言っていたわ」
「うう」
「エンドラシル帝国の皇帝には守るべき戒律があるのよ。ハーフエルフはエルフ程ではないけど、人間以上に長生きなのよ。それを帝室の血に入れると、エンドラシル帝国が発展して来た強みである、皇帝を決定する仕組み(皇帝戦)を揺るがすからよ」
帝室の血の新陳代謝を高め、活力を維持するためには、強い者が皇帝になると言う決まりを守らねばならない。自分ひとりが一族に長命の血を受け入れ、我が子可愛さに血の承継を図ることは、エンドラシル帝国の衰退を意味する。皇帝自らがそれを守らなければ、8つもある公国が帝室を支えてくれるはずがない。それが代々皇帝が守るべき戒律だと言う。
「クラウディオ13世はそれを自分の血に入れるのではなく、自分を支える身内に取り込んだと言う事かい」
「アダムの言う通りよ。私の父、グルクスは皇帝の剣よ。何時も皇帝の側にあって、その意を受けているのよ」
マグダレナは誇らしげに胸を張る。アダムはそれを見て、皇帝クラウディオ13世とその剣グルクスには、一度ちゃんと会って話をしてみたいと思うのだった。
「でも、お前は俺たちの敵じゃないと言えるのか」
「ビクトール、敵の敵は味方なのよ。今はそれでいいじゃない。今の敵を倒した後の事は、その時考えれば良いのよ」
とにかく時間もないので、アダムたちはマグダレナの用意した馬車に乗り、騎馬はその従者に任せた。ここからの続きは馬車の中でと言う事になった。
「それで、光真教の急進派はお前たちの敵なのか?」
「彼らもまたエンドラシル帝国の仕組みを揺るがす敵なのよ。彼らは第8公国の皇太子の座を狙っているばかりではなく、闇の御子を降ろすことで人外の力を手に入れ、エンドラシル帝国だけではなく、全ての世界を手に入れようとしているのよ」
マグダレナの話が大きくなり、エンドラシル帝国の敵がまるで人類の敵のような話になって、ドムトルやビクトールには都合よく話を拡げているように聞こえたようだ。
「我々オーロレアン王国の人間からすれば、争いを輸出しているのはエンドラシル帝国で、帝国の争いは帝国内部で留めて欲しいよな」
「ビクトール、何を時代遅れな事を言っているのよ。神代の時代は終わって、今は世界は人が治めているのよ。その視野を拡げてもっと世界的に考えるべきよ。1つの国がその国だけで完結する時代はもう終わったわ」
マグダレナは敵の強大さはそんな浅狭な意識では対抗し得ないと説く。だがアダムにはまだ違う構図があるように思えた。
「光と闇の戦いは、光真教の世界だけではないのだろう。七神正教でも顔の無い神の伝承があり、神代の時代から続く光と闇の戦いの系譜があるのだと思うぞ。剣聖オーディンの時代では魔人は存在し、戦っていたのだから」
「アダム、それはどういう意味だい。敵の頭目の目的はエンドラシル帝国、ひいては世界を手に入れる事ではないのかい」
「俺は、確かに敵の頭目は自分が力を得るためと考えて動いているようだが、実はその背後にいる闇の御子の想いはそんな人の思惑とは違い、もっと次元が違うような気がする」
アダムの話にみんなが議論を止める。相手の悪意は国家の境目を越えて大きなものだと言うアダムの意見がみんなの心に落ち着いた。
「その力を得るためにアンを必要としているとすれば、どんな理由も必要なく俺は敵として戦う」
アダムは改めて戦いを宣言するのだった。
次は、「エルフの村での再会(前編)」です。
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