第1話
「はぁ~」
カタカタカタカタカタカタ…
「…」
カタカタカタカタカタカタ…
俺は永崎ケルマ
何の特徴もないどこにでもいるような社会人
そして俺は今仕事をしている…
誰でも出来るような作業をただただずっと…
カタカタカタカタカタカタ…
特別でも何でもない会社で高くもない給料貰って毎日残業…
たまには良いことがあるといんだがなあ…
「永崎君!」
部長に呼ばれた
これでまた一つ仕事が増える…
「はい…何でしょうか…?」
「今日は定時で帰っていいぞ」
「え…!?良いんですか!?」
「ああ!毎日頑張ってくれているんだ!たまにはそういう日があっても良いだろう!」
「!!ありがとうございます!!それではお先に失礼します!!」
「ああ!」
(やった~!)
(はあ~!まるで解放されたみたいだ!)
(う~ん!外の空気が一段と旨い!)
(まさかこの会社で定時に帰られる日が来るとはなあ!)
(明日は休みだし!)
(もう…)
「最っ高な一日だなあ!!」
ドッガーァン!!!
俺は雷に打たれた…
いや、これは比喩じゃない…マジだ…
そう、あのピカッて光ってドドンと音がする雷だ
その雷に今打たれた…
何?擬音と違う?そこはいいだろ
はぁ…なんでこんな目に合うんだよ…定時で帰れたからちょっと浮かれていただけなのに…
「はっ!」
俺は突然目を覚ます
そこは真っ白の空間で真ん中にごちゃごちゃと色々な物が散乱している
「どこだここ…夢の中か…?」
色々な物が散乱したところに足を運ぶ
蛍光灯、マヨネーズ、ルームランナー、象の置物、マリンバ、靴べら、ハンガー、その他諸々…
「なんなんだよこれ…」
ぱっと見て特に共通点があるようには見えない
「これなんてスーパーとかにあるショッピングカートだよな」
何気無く目の前にあったショッピングカートに触れた
そのとき
「そうか、お前はそれを選んだか」
「え?」
突然どこからか何者かの声が流れる
「だ、誰だ!」
「いずれ思い出す…」
謎の声がそう答えると突然目の前が光りだし思わず目を閉じる
そして目を開けたとき見えたものは…
~~~~~
「はぁ…はぁ…」
辺りには何も無い荒野に一人のくノ一が息を切らしながらなんとか足を地につけ耐えている
「くッ…」
相手を睨み付け、目が鋭くギラつく
そのくノ一の目の前にいるのは…
「もう辞めておけ人間…お前一人で…」
「この軍勢を相手に出来ると思うか?」
圧倒的な数の魔族達だった
「はぁ…はぁ…もう出来る出来ないの話じゃないの…戦えるのは私しかいない…私がここで…退く訳にはいかない!!」
「ふふふ…そうか…」
「ではサラバだ…気高き戦士よ」
「やれ、お前達」
魔族を仕切る長が合図をだす
大勢の魔族が一斉にくノ一の方へ向かう
くノ一の後ろにある大きな岩に身を潜めて見守る少年と少女
「ナイルねえちゃん!!」
「みんなは…私が…守る…!」
くノ一が覚悟を決めたそのときだった
「…?何か聞こえないか?」
魔族達が奇妙な音に気付く
「待て!お前達!」
「何だ…この音は…?」
魔族もくノ一もその音を聞く為に耳に意識を集中させる
「ぉ…ぉぉ…ぉぉぉ…」
「?…」
「ぉぉぉお…ぉぉおおお…ぉおおお…」
「これ…近づいて来てないか…?」
「うおおおおおおッ!!!」
「な…なんだありゃあッ!?!?」
みんなの目に写ったのはひとりでに動くショッピングカートだった
声を上げながらこちらに向かって爆走してくる
「うおおおおおおおッ!?なんじゃこりゃあああああ!?」
そのショッピングカートはなんと転生した永崎ケルマだった
「なんで!?なんで俺ショッピングカートになってんの!?てかあれ何!?魔物!?いやここどこ!?」
「突っ込んできやがるぞ!?」
魔族がうろたえる
「お前達!まず奴を仕留めろ!」
長が標的をショッピングカートに変える
「うああああああッ!!!」
魔族達が一斉に向かっていく
「うお!?うおお!?うおおお!?え!?めっちゃ向かってくる!?てかこれ止まれねえぞ!!これもう突っ込むしかねえ!!」
そのままスピードを落とさず突っ込むケルマ
ドドドドドドンッ!!!
魔族達を次々と跳ねていく
「がああッ!!!」
ショッピングカートの角がちょうど魔族の顎にクリーンヒットしていく
「う"ッ"!!!」
「おおおお!?もうどうにでもなれ!!」
ケルマがスピンして回転アタックで魔族達を蹴散らしていく
「うげえッ!!!」
あっという間に魔族達を倒したケルマ
「なんか…倒しちゃった…」
「な…いや…え?…」
長はケルマを見て戸惑う
「よし…(なんか良く分からないけど)あとはお前だけか…」
ケルマが長の方へ身体の向きを変える
「ヤバい!!ここは一度退くしかない!!」
「あ!待て!」
長が姿を消す
「消えた…」
「おい」
くノ一が戦闘の構えを取りながらケルマに呼びかける
「あれ…もしかして…俺今ちょっとピンチ?」
「答えろ…お前は何者だ?」
「あ、俺は永崎ケルマです…訳あってショッピングカートになりました」
「訳…?」
「そうです」
「なんだそれは?」
「それは実は俺も分からん!」
「ふざけてるのか…?」
「まあ…こんな格好ですしね…」
「敵と見なして問題無いな…」
「あ!ご、ごめんなさい!あの!俺元々人間で!」
「何…?」
「なんていうか…その…本当に俺も良く分からないんですけど…」
「雷に打たれて死んだと思ったらショッピングカートになってました」
「…」
無言でこちらへ近づいて来るくノ一
「いや!あの!ふざけてるわけじゃないんですよ!本当に!これが事実なんです!」
「…」
「ひょえ~!」
「待ってよ!ナイルねえ!」
ナイルねえと呼ばれたくノ一が動きを止めた
「アマミ!ミシシ!」
止めたのは先ほど岩の後ろから様子を見ていた少年と少女だった
「この人は悪い人じゃないよ!だって守ってくれたんだよ?」
(まあ、守ろうとしたわけじゃないけど…)
ケルマが心の中で呟く
「だが…」
「ナイルねえだって一緒に戦ってくれる人が増えれば嬉しいでしょ?」
「そんなことない!私は…」
「本当のこと言ってよ!ナイルねえ!」
「…」
くノ一が無理矢理に笑顔を作る
「味方が増えれば…嬉しい…」
本音では無いだろう
恐らくこのくノ一は少年達とこうやって接してきたのだ
「でしょ!だからこの人のこと信じようよ!」
「そうだな…信じよう…」
(ふえ~助かった~)
一安心するケルマ
「ありがとな!君達!俺は永崎ケルマだ!」
「僕はミシシ!」
「私はアマミ!」
「そして…」
「私はナイル…ナイル・ジャスティリバー」
「そうか!そうか!で…一つ聞きたいんだが…」
「今のって…一体何者なんだ?人間では無いよな…」
「え?知らないの?」
「ああ」
「あれは…」
「待て…」
「何?ナイルねえ」
「まず村に戻るとしよう…そこで話しても問題は無かろう」
「うん、分かった!」
「村…?」
「この近くに私達が生活している村がある」
ナイルがケルマに手をかける
「さっき言ったこと…本気じゃないからな…」
「私はあなたを信じていない…もし何かあったらそのときは容赦しない」
アマミ達に聞こえないようにケルマに囁く
(下手なことしないようにしよう…)
ナイル達についていき村に案内してもらうケルマ
「ここが僕たちの村だよ!」
(漫画とかで見たことあるような感じの村だな…薄々感づいていたがさっきの魔物といいこの雰囲気といい…やっぱりここは…別世界ということなのか…)
「ナイル…!」
一人の女性がナイルに抱きつく
「お母さん…」
「良かった…無事に帰ってきてくれて…本当に良かった…」
「…」
ナイルも優しく母に抱きつく
「アマミもミシシも無事で良かった」
アマミとミシシを優しく包み込む
「おばさん…」
「本当に…本当にみんな無事で良かった…」
涙ぐむナイルの母が何かを見て不意をつかれたような顔をする
「それは一体何?」
「あ、どうも始めまして永崎ケルマといいます」
指を指されたケルマが思わず答えるとナイルの母の顔が一気に青ざめていく
「しゃ…喋ったあああッ」
「馬鹿!そんな姿なんだから声を出すんじゃない!」
「あ、そっか」
「ナイル…そ…それ…何なのよ…?」
「いやお母さんこれはね、その…」
(あれ…?)
(さっきは戦闘中だったから警戒心でなんとも思ってなかったけど…)
(これ…結局なんなの…?)
「落ち着いてください!いやですね、私は…」
ケルマがなんとかその場を抑えようとする
「お前は喋るな!」
「いや、でも…」
「それは付喪神じゃな」
おばあさんがやってきて言う
「付喪神…ですか?」
「そうじゃ…物には神様が宿ると言われておる」
(いや、違うんだけど…まあ、でもこのままでいくほうがいいか)
「そうです、付喪神です」
「ええ~!そうなの!?」
アマミとミシシが食いつく
「じゃあさ!じゃあさ!付喪神ってことはさ!神様なの?」
「そうだぞ~!神様なんだぞ~!」
「凄い!凄い!」
「と、とりあえず詳しく話を聞かせてもらうぞ」
ナイルが家の中にケルマを招き入れる
「ナイル…大丈夫なの?」
母が耳元でナイルに囁く
「多分…」
「多分って…私、心配よ?」
「大丈夫、私がなんとかするから…」
そういってナイルとケルマだけが家に入っていく
「二人だけのほうが話しやすいだろ、あんな嘘をついてしまったのだから」
「そっちのほうが助かる」
「まず…あなたのことを話してもらう」
「ああ…とは言ってもさっき言ったことがほとんどだ」
「俺は元々普通の人間で、あるとき雷に打たれた」
「それで目を覚ましたら知らないところで」
「それって…ここのことか?」
「いや…ここに来る前だ」
「真っ白い部屋にいろんな物がごちゃごちゃしてる…そんな場所だった」
「で俺がたまたまショッピングカートに手をかけたら」
「いきなり「お前はそれを選んだか」って声が聞こえたんだよ」
「それで?」
「そしたらいつの間にか眠ってて目を覚ましたらこの世界にいたって訳…おまけにショッピングカートの姿で」
「…」
「まあ…改めて口にだして説明してみると馬鹿馬鹿しい話だなとは思うしな」
「信じないのも無理はない」
「ああ…やっぱり私には信じられない」
「どうしてもあなたが味方だと思えない…私の目には敵に見える」
「そうか…ん?」
「何?」
「その写真に写ってるのは…?」
「これのことか?」
棚の上に置いてある一つの写真
その写真にはナイルと男性の二人が写っていた
「俺…この写真の男…知ってるぞ…」
「え?そんなはずは…」
「いや…知っている…絶対に会ったことがある!」
「誰かと勘違いしてるとかそんなんじゃない!俺はこいつを知っている!」
「でも…駄目だ…知っているはずなのに…名前も…何も…出てこない…」
「なあ!この男の名前を教えてくれ!何か思い出すかもしれん!」
「…その人の名前はグリム・ジャンパー」
「グリム…ジャンパー…」
「駄目だ…名前だけじゃ…今この村にいるのか?頼む!会わせてくれ!」
「…」
「頼む!」
「無理だ…もう…」
「どうしてだ…?」
「彼は…もういない…」
「!?…そう…だったのか…悪い…」
「いいんだ…別に…でも…もしかして…」
「なんだ?」
「いや…なんでもない…」
「そうだ、次はこの世界のことを教えてくれ」
「まず、あの魔物は一体…」
「ナイルねえ!!敵が!!」
アマミとミシシが扉を開け慌てた表情で伝える
「何!?」
ナイルが勢いよく家を飛び出す
「ナイル!!」
「母さん下がってて!アマミとミシシをお願い!」
「ふふふふ…一人で良く頑張ってますねえ…ナイル…」
突然攻めてきたのはフードを深く被った魔族と体格の良い魔族の二人
「その声…まさか!?四天王の…!?」
「おっと!」
フードを被った魔族がナイルに接近する
ナイルが攻撃を仕掛けるとそれを魔族が受け止めた
「どういうことだ…?何故お前がいる!」
「ふふふ…どうしてでしょうねえ…?」
「くッ!答えろ!!」
「こればかりは言えませんねえ!秘密なもので」
「それに…私はあなた方に用はありませんよ…」
「そこにいる…あなたに用があるんですよ」
指をさした先にいるのは
「俺?」
ケルマだった
「そうですよ…一目見ておこうと思いましてね…」
「あなたの情報を耳にしたときは驚きましたよ」
「だろうな!なんてったってショッピングカートが動いてるんだからな!」
「ええ…ふふふ…さてと…私はもうここで失礼させてもらいます…久しぶりにお会い出来て良かったですよ…」
「待て!お前は今ここで私が殺す!」
「おお…怖いですね…」
「じゃあ…頼みましたよ…」
体格のいい魔族の肩に手をおく
「分かりました、お任せください」
「忘れないでくださいね…くれぐれも…ですよ…」
「ええ」
村を後にするフードの魔族に攻撃を仕掛けようとするナイルだったがもう一人の魔族によって止められる
「邪魔だ!」
「ふっふっふ…貴様がナイルか!噂に聞くと中々の実力があるらしいな」
「この俺、グルミ様がほんの少しだけ相手をしてやろう!」
「ふざけるな!」
素早い動きでグルミとの距離を縮めていく
「ふっ!」
スャアア…!
ナイルのクナイがグルミを切り裂く
「ぐううう…なんて身のこなしだ…動きが速くて目で追えん…」
シュウウ…!
2回目の攻撃もグルミの身体に傷をつけた
「ぐッ…」
そして3回目の攻撃を繰り出したが
スシュウ…
ガシッ!
「!?」
ナイルが腕を掴まれてしまう
「確かに攻撃は素早いが動きが単純だ!貴様がどこを狙ってくるかなど…」
「お見通しだわあッ!!」
ガガアンッ!!
そのまま持ち上げ地面に叩きつける
「くっ…」
「ふっはっはっはっは!非力が!」
足でナイルを踏みつけ動きを封じる
「くそ…くそ…」
なんとか抜け出そうともがくも微動だにしない
「く…自分の弱さが…情けない…」
「貴様は所詮守られる側の人間だったのさ、守る側にはなれはしない」
「そんなことは理解出来ているはずであろう?」
「貴様一人が何かしたところでその程度の力ではこの世界は変わらん…」
「意志は力にはならない」
「お前はここで終わりだ…」
「く…ぐ…う…」
グルミがとどめをさそうとするそのとき
ガシャアンッ!
ケルマがグルミに体当たりを仕掛けた
「ぬう…」
「目の前で知り合いがやられそうになってるのに黙って見てる訳ないだろう?」
「ケルマ…」
「ふっふっふっ…元々俺の狙いはあんただ…人間は後でいい…」
「う~しっ!やってやるぜ!」
全速力で突っ込むケルマ
「ふん!」
それをかわすグルミ
ガガガガガ…
ケルマがそのままのスピードでUターンを決める
「うおおおおおおッ!!」
「ぬ!?」
ガシャッアンッ!
ケルマの想像以上のスピードにかわしきれなかったグルミが攻撃をもろに受ける
「かなりのスピードとパワーだ…」
「不思議だな…元の世界では喧嘩もまともにしたことがないのに…思ったよりも体が動く」
「さあ…来い!」
ギュルルルルルッ!!!
シャアアアアアアアッ!!!
猛スピードで正面から突っ込んでいく
だが…
ガシシッ…!
「ぬんッ!」
「な…!?」
止められてしまう
「その体じゃまともな攻撃も出来ないであろう」
「くそ!よりによってなんでカートなんだよ!タックル以外にどうしろってんだ!」
ケルマがスピードを上げてパワーで押し切ろうとする
「ふっふっふっ…無駄だ…パワーで勝てたところでどうにかなるとでも?」
「何か…何かもっと他の力が…!?」
(何だ…この感じ…)
(この記憶は…)
「俺は…」
「ん?」
「俺は…この世界を知っているかもしれない…」
「!?」
「魔族…そうだ…そうだった…俺は以前にもこうやって戦ったことがある…」
「…」
「グルミだったか…お前…何か知っているな?」
「さあな」
「しらばっくれるのか?今の俺ならお前を倒せるぞ」
「ならば、それも俺の使命だ」
「そうか…」
シュウウウウン…!
謎の光に包まれていく
「ぬ…ぐぐ…」
いつの間にかグルミが押されている状態になっている
「はああああああああッ!!」
ズババアァッ!!!
「メリーギレード!」
ケルマの体の周りに複数の剣のような物が現れ丸ノコのように回転する
「がはあッ!!」