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結目  作者: YM
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むすびめ

多分、もう戻ることはない。


居場所などの問題ではなかった。そもそも居場所など最初から作る気もない。


月をとりまく世界は、すべてが暗くくすんでいて鮮やかな色彩などどこにも見当たらない。


なんてことのない古びた喫茶店に、何の邪魔もせず、ただ無機質にかけられたモノクロームの


砂漠の写真なんかより、もっとずっと渇いていた。



月が⒑歳の夏休み、姉が自殺した。



じとじととした湿気の多い夏の日だった。


ねっとりとした汗が身体を多い、蒸し暑く湿ったシーツの不快さに勝手に目がさめた。


身体中の水分が全て抜けてしまったのか、ひどく喉がかわいていた。


冷蔵庫に麦茶があるはずだ。


月は母の麦茶があまり好きじゃやなかった。

同じ葉っぱで何度も炊くせいで、味が薄く、そのくせ苦さと渋みだけはずっと口に残る


友達の家に行った時、よその麦茶の色とその香ばしい味わいに随分驚いた。


手をあらうまで、お母さんお菓子くれないんだよね。


めんどくさそうに腕まくりしながら洗面所に案内してくれた。


広くてピカピカで大きな洗面台。やわらかくていいにおいのするタオルがきちんとかけられている。


月の靴下のそこは真っ黒で、かかとには穴が開いていた。


綺麗に磨かれたフローリングに自分の足あとがついてしまうんじゃないか。

母親にあまえてお菓子をねだりにいく友人を横目に、ばれない様に足跡を確認した。


新しいお菓子が沢山なれべられたリビングテーブル、シルバニアファミリーが沢山そろっているよその家は月の劣等感をいつも大きくした。


冷蔵庫を開けて麦茶を探す。


いつも扉側の手前にガラス瓶に入った麦茶が入っているがなぜか見当たらない。


月の母は毎朝、麦茶を沸かすのが日課だった。


こげだらけの真っ黒なヤカンは月が生まれてからずっと変わることなく使いつづけられている。


まだ目が覚め切らない気だるさの中で沸騰をしめすあの高い音が鳴り響く。

それがなんだか悲鳴のように聞こえて、月を毎朝憂鬱にさせた。


瓶に注ぎ終えると、溜まった食器だらけの水槽に雑然と放り込まれ、その日一日の役目を終える。


月の母はこの世に存在する全てのモノに対してまるで思い入れや感情を持たない人だった。

やかんだけじゃない。月が沢山の色鉛筆を使って1週間かけて書いた似顔絵も、近所の人からかかってきた電話のメモがわりにし、用を終えるとくしゃくしゃにしてごも箱に捨ててしまう様なそんな人だった。


母はいったいどこにいったのだろう。

そもそも今何時なのかもわからない。


月が壁の時計に目をやると朝の9時をまわっていた。

仕方なく水道の蛇口をひねり、カルキくさく生ぬるい水をぐっと飲みほす。


今日は両親とも仕事は休みのはずだ。


さきは友達の所に泊まりにいくといっていって昨日の夜からでかけていた。


この家の中で今は月だけ。


月は少しうきうきした気持ちになり、夏休みの楽しみでもある子供アニメ劇場を見ようと

テレビをつけた。


父だけが使っている特等席の座椅子を独り占めしながら、少し遠くにある扇風機の強のボタンを足の指で押す。


夏休みもあと1週間で終わる。

これといって遠出をしたわけではないが、一度だけ家族全員で隣町の少し大きな山の麓でキャンプをした。


商店街の肉屋さんでほんの少しの牛肉と、あとは鶏肉とささみを買った。

肉屋のおじさんはグラムを測るのがおおざっぱで、いつも多めにいれてくれるからと母が喜んでいた。


山までの車中は静かだった。

家族の団らんの中心はいつも母だが、その日の母は窓から流れる景色をただじっとみていた。

母がだまっている時の表情はいつもお面みたいだと月は思っていた。

悲しみでも喜びでもない、くすんだ水晶体はこの世界の何もみていない。

スーパーでパックにラッピングされた鯛の目を見たとき、母と同じ目だと思った事を思い出す。


父は寡黙で決して目立つタイプではないが、キャンプとなると、俄然その能力を発揮して火おこしや、、テントはりを段取りよくすすめた


火をおこしながら首にまいたタオルで汗を拭く。

月、小さな木の枝を集めてくれ。

さきは石を拾って、テントの杭をおさえてくれ。


月は山に木の枝を探しにいった。

涼しい風が月の身体を通り抜ける。蝉の声が山にちかずくほど大きくなる。


あまり奥にはいるのは怖い。月は山の入り口に落ちてる小枝だけをさっと拾ってすぐに

家族のもとへ戻った。


網を囲んでみんなで肉を食べる。

母はお酒が進み、少し饒舌になった。

どうやら仕事場の上司が嫌いらしく、意地悪をされると愚痴っぽくなる。


さらにお酒が進むと、さきの進路について話が移った。


さき、来年高校生でしょ。行きたい高校は決まったの


うん。私、高校にはいかず専門学校にいきたい。


専門学校?なんの


美容師


美容師?無理、そんなお金うちにはない。


いきたいなら、いったん公立高校にいって、3年間で自分で学費をためるとか。

だけど、あんた美容師なんて、そんな事にいつから興味もったの


月にはわかっていた。


いつも遠足や友達の所に行くときは、2つくくりにしたり、パーマをかけれないからとよく夜に三つ編みを

して寝ていた。


月のレクレーションの時も、月をポニーテールにし、商店街のガラガラであたった景品の赤いリボンをつけてくれたりした。


さきはあらかじめわかっていた答えにもはやうんざるする事さへしなかった。


世間の家族の様に、夢や希望を語れる空間や選択がこの家にはないのだ。


さき、どうしてもやりたいというなら、お父さんの知り合いが京都で理容室をやっている。

中卒ではあるが、住み込みで働きながら資格をめざしてみるというのも一つかもしれないな。


父の提案は現実味があったが、言葉にできない家族の問題をさらに深くあらわした。


しばらくの沈黙がつづいた。


こういう時はいつも月の出番だ。


楽しくもない学校の友達との会話や、先生にほめられた事、体育の授業で5段の跳び箱を飛べた事を

うれしそうに話した。


ほんとはどれもつまらないとおもっていた。


こんな時は決まって子供らしい月の無邪気さを父が求めていそうだからだった。


テントは2つ。

親と子供でわかれてねることになった。


月は布団にはいったまま、テントの入り口をあけて両親のテントをのぞいた。

電気はけされていて、静かだったからきっとねむったのだろう。


月はなれないキャンプに少し興奮してまだ寝れないでいた。


お肉かたかったね。


さきもおきていて、つぶやくように話しかけた。


うん。硬かった。


だよね。すんげぇまずかった。ささみ赤かったし。


テントの向こうにいる両親に聞こえないか少しきになった。


ねぇ、月。月は毎日楽しい?


月はだまっていた。


おねぇちゃんね、遠い所にいこうと思うんだ。



お父さんの知り合いの理容師さんのとこ?


ちがうよ。もっと遠いとこ。


お父さんもおかあさんもしってるの?


知らないよ。


ちゃんといわないと心配するよきっと。


心配なんてしないよ。そんな事されたことなんて一度もないじゃない。


なんだか、悲しかった。


さきの言葉の通り、それは月にも感じていた事だったから。


だけどさきは両親に甘えたり、非行に走って迷惑をかけたりはする事は絶対にしなかった。


きっと今までの様に、親のいう事をきいて高校受験をするんだろう。


月はそんな風に思いながら、いつのまにか眠りについていた。





車のエンジン音がちかずいて家の前に止まる。


両親がかえってきたようだ。


月はあわてて座椅子から降り、いつものようにテーブルに肘をつきながら

TVに集中しているふりをした。


ただいまの声もなく、部屋に入ってきた母がそっと月の後ろにすわる。


その横に立つ父の重い気配も感じる。


月、おねぇちゃんが今朝、亡くなったの。


月は振り向いて母の顔をみる。

父はたったまま口をつぐんで、のしかかった何かに押しつぶされそうな顔をしていた。


友達のところに遊びにいったんじゃないの


おねぇちゃんね、昨日足並川に身をなげたの

早朝に川沿いを散歩してた人がみつけた。

おねぇちゃんのポケットから、遺書がみつかった。

なんでこんなことになったのか


父は電話台の連絡網を眺める。


さきの先生にはこれから連絡をいれるけど、亡くなった事をお友達に伝えるのは、学校が始まってからにしてもらうつもりだから、月は宿題を終わらせて、学校が始まったら今まで通り登校しなさい。


月はその言葉を聞いた瞬間からこの世界に色がなくなった。


父のお気に入りのオレンジのポロシャツも、おばあちゃんに買ってもらった赤いランドセルも

すべてがモノクロームの土色の世界に変わった。


葬儀は翌日、しめやかに行われた。


恐る恐る棺にちかずいた。静かに目をとじた姉は沢山の花に囲まれてやすらかな顔をしていた。

この一色の世界の中では、それがまるで映画の1シーンをみているようで月の心は異常なほど静かでおちついていた。


その日から家族の会話は極端に減った。


父は仕事から帰ると食事をせずお酒を飲み、だまって寝室にいくようになった。


母は月の布団にはいっては、月の頭や腕を何度もなぜた。

まるでそこに確かに人間がいる事を確認するように。


失ったものをまだ認められないでいる。ゆるしてもらいたいと月の体でさきに乞うている。


母の想いを感じるほど体がこわばった。


キャンプの夜を思い出す。


明日から学校が始まる。

とうとう一睡もせず、朝を迎えた。


今までと変わらず、麦茶を沸かす沸騰音がして、勢いよく湯気があがっている。


母は妙に段取りがよく、落ち着きのない様子で私の事を意識していた。


月、学校にいってもいつも通りでいればいいから。

もしお友達に聞かれたら、よくわからないと答えなさい。

お母さん今日も仕事で遅くなるから、鍵わすれないでね。


よくわからないで通じるわけがなかった。

幼稚園児じゃあるまいし。

小さなこの町では、どんな些細な事件や事故でも数日で全員に知れ渡る。

夏休み前だって、上級生の親同士の不倫が発覚して警察沙汰になったという話題で持ち切りになっていた。そんな大人の複雑な事情だって今の子供には大人と変わらないくらいしゃべりもするし、理解も高いのだ。大人がおもっているよりずっと、子供はよくわかっている。


月は答えず、いってきますとだけ告げると家を出た。


住宅街を抜け、古びた商店街を超えると、大きな交差点にでる。

大通りを右にいけば大きな橋があって、あの足並川が現れる。


後200メートルほどまっすぐいけば学校にたどりつく。


学校ではどんな顔で教室に入ろうか。

友達はどんな顔で私を見るんだろうか。

同情しているようで、みんな聞きたくてしかたないに違いない。

先生は夏休みの思い出作文の発表で私を避けるだろう。

帰り際に声をかけてきて、力になれることがあったらいってくれなどと

意味のない優しさをむけるだろう。


考えるだけで足が前に出ない。


月は学校でもなく、足並川でもない、大きな公園のある団地の方向へむかった。


この団地は家から近いが、ちょうど学区の境目で住んでる子供とは面識がない。


団地の前には大きな公園があり、タコの滑り台と、ジャングルジム、小さなブランコがあるだけで

ただのだだっぴろい広場にベンチがいくつか設けられている。


月は公園に入り、一番人目につかないベンチに座った。


学校をずる休みした事なんて、今の一度もない。

楽しいわけじゃなかったけど、義務教育なのだから義務として行っているだけ。


また姉の事を思い出す。


遠くへいきたい。

さきの心の声を聞いたのはこの世で自分だけだった。


さきが足並川にいった朝、二段ベットの上でいつものように寝ていた。

音なんで一つもしなかった。


おねえちゃんはとても丁寧な人だった。


前日の夜は明日の学校の用意をきちんと準備したし、テストで罰がついた問題は答え合わせをして

次のテストで同じ問題を間違える事はなかった。

だから学校の成績もよかった。それだけでなく運動神経も高く、マラソン大会では学年3位に選ばれたこともあった。


私にはこのつまんない世界をそれなりにごまかして生きていけるいい加減さがある。


将来したいことなんてないし、ないなりにだってなんとなくやりすごしていくんだろうと

そんな気持ちでしか今まで生きてこなかった。


生きているべきは自分じゃなく、おねえちゃんの方だ。


一時間目の授業がもうはじまる頃。

さきはこの場から動けないでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

物資あります。


メッセージを打つ指先は早い。


敵が前にいる、きをつけて。


大きなスクリーンには大草原。


TAKU3とチャットしながら最後の一人になるまでオンライン上の住人と殺し合いをする。


武器も武装もすべて最高のものをそろえている。


この世界ではちょっとした有名人だ。


フォロアーも多いし、大きなチームももっている。


だが、年齢を20歳と偽っていて、本当は小学校5年生であることは実は誰もしらない。


世界のTOP3を目指して、1年前から攻略、研究に没頭した。


助けて


TAKU3の命のランプが赤をしめしている。


急いで、TAKU3の所へ向かう。


360℃あたりを見回しながらTAKU3を擁護していた矢先

GAME OVER


大きな銃声と共に死んだ。


夜の9時からはじめたゲームだが、気が付くと朝の4時を回っていた。


固まった足がなかなか動かないが、ゆっくりと体を起こしトイレに向かう。


れんの部屋からトイレまでは恐ろしく遠い。


渡り廊下がずっと先までつづいていて、トイレにいくまでに4室とウォークインクローゼット1室を

通りこす。


大きなツボや絵画が沢山ならべらている部屋、れんの為にと父親が世界中からあつめた図書館の様な

本棚だらけの書斎など。


だが、れんはこの家で自分の部屋以外に入る事はほとんどない。


トイレにはいると、勝手に便座が開く。

れんは小も座ってする。

おしっこが周りにとびちるから座ってやるように、れんの母から小うるさく言われ育ったからだ。


トイレの壁には見苦しいほど大きな薔薇の造花と、英単語の勉強ができる大きなカレンダーが

つられている。


見もしないカレンダーをよくも毎月かかさず、めくりなおすものだとれんは思う。


とはいへ、カレンダーをめくるのは母ではなく、家にきている家政婦の仕事だ。


週末以外は、毎日家にきて朝かられんのスケジュール管理と家事をこなし、

17時になったらすぐに帰る。ロボットの様に計画的でそつがない。


今日は13時から、国語の家庭教師だ。


憂鬱な気持ちでベットにはいり、スマホの画面を見る。


@RREENN


タイムラインには、今日もいつものメンバーがツイート

れんとはまったく面識はがない、ゲームつながりや小学生の愚痴アカなどでつながったメンバーだ。



明日から学校、まじ憂鬱


親友だと思ってたのに夏休みの間、西田とさぶと俺抜きでプール、まじ口きかねぇ。


れんのツイートには同学年の小学生が、日常では言えない愚痴や、自慢や、あらゆる出来事が

こまめに更新される。


明日かてきょ。まじだるい。


ツイートしても、この時間にはコメントはほとんど帰ってこない。


皆、明日の学校にそなえてとっくに寝ている時間だ。



おはようございます。


家政婦の声で目が覚める。


朝ごはんができましたので、おりてきてください。


真っ白のエプロンに花柄のロングスカート。

まさにまんがにでてくる家政婦を具現化したような人だ。


階段をおりると、コーンスープのにおいが立ち込め、お腹が鳴る。


そういへば、昨日の夜も何も食べていなかった。


机の上には、トーストとハムエッグとサラダとヨーグルト。


れんさん、今日は13時から国語、16時半から30分、ネットラーニングがあります。

昨日はよく眠れましたか?


うん。


れんはいつもうんとしか言わない。


家政婦は家にきた当初、れんとコミュニケーションがとれないと母に何度も相談していた。

何度か母親かられんに家政婦と会話をとる様に促されたが、無意味だと一言つげると

母親はあきらめたようだった。


今となっては、れんの返事に期待などしていないし、行動をみることも最初よりは随分と減った。

それでも、毎日れんの行動をさりげなく観察し、母親に報告していることは明白だった。


母親は週末しか家に戻らない。

父はポルトガルに転勤、母は大阪をメインに外資系金融で働くキャリアウーマンだ。


付き合っていた頃二人とも東京でばりばりと働いていた。


れんの父親は貿易会社に勤め、仕事帰りの金曜は、かならず麻布のバーへ足を運ぶ生活を送っていた。

週に1度訪れていた父と共に母もまたそのバーを利用していた。

しかし、いつも決まった週に行くことしかなかった2人は数年間合うことはなく、

たまたま、父が1日ずれた木曜日に訪れた事で二人は席を横にした。


母親はとても美しい人だ。

長く美しい栗色のつややかな髪、白くほっそりとした体形で手足が長い。

体格のいい父親からはその好けるような肌も、美しい手首もすべてが女性であった。


そこから父は日にちをかえ、母が訪れる日にバーに通うようになった。


いつも同じマティーニを頼み、何をするでもなくだまってお酒を楽しんでいた母親だが、

なんとなく父の想いにきずき始めていた。


ウィスキーがお好きなんですか


最初に声をかけたのは、母親の方だった。


ええ、好きなんですよ。ウィスキーが。

そういって笑う父の表情が思いのほか幼げで、不思議な安心感を与えた。


それから二人が親密になるまでに、時間はかからなかった。


家政婦はベランダで洗濯物をほす。


食べおえるとソファーに座り、ツイッターを開けた。

だれからも返事はない。


れんの憂鬱な時間が始まる。

みんな学校に行き、友達と授業を受け、お昼休みにはさサッカーをし、帰ったら友達の家でゲームをする。


この時間を自分は家で過ごしている。

学校にいかなくなったのは、2年前。

ある日の、授業中突然の腹痛と高熱に襲われた。

我慢ができずトイレにくと、便と共に大量の出血をした。

潰瘍性大腸炎だった。

それから1カ月半の入院生活がつづいた。

完治のない病気だが、症状は治まり日常生活を送れる状態にまで回復した。


だが、初めて学校にいったその日、そこにれんの居場所はなかった。

幼い頃の友情というのは、ただそこに時間を共有できる友人がいることで成立するものだ。


いつもあそんでいた友達には別の友達ができ、自分の存在がまるでなかったことにように

新しい世界ができあがっていた。

声をかければ、また元のようにあそべていたかもしれなかったが、れんにはなぜかとても大きい壁の様にうつった。


それかられんは調子が悪いと学校を休むようになった。



13時の国語の時間までまだ随分とある。


朝食を食べ終えたれんはソファーに寝ころび、ツイッターのタイムラインをあける。


夏休み明けの初登校日だ。

事件がおこるはずだ。



仲直りした、今日はあいつの家でゲーム!絶対勝つ!


れみちゃんにハワイのおみやげもらった。脈あり。


長い休みの後の友達との再会

事件を期待した。


だけどそこにはうっとうしいほどきらきらした日常で埋まっていた。



言葉にできない焦りは、不登校になった日から一度も消えたことはない。


ただ、学習については学校のだれより優秀だった。


定期的に訪れる学校の先生と、母親が成績の話をする。

今のれんには中学2、3年生くらいの学力がついているといわれていた。


後は登校するか、それだけだった。


身体も治った、学習も遅れているどころか、皆より優れている。

登校するにおいて、なんの問題もない自分だった。


もう一度オンラインゲームをしようかと思ったが、どうにも気が乗らなかった。

こんな時間に仲間になるのは、大学生か、まともに社会にでていない大人しかいない。


れんも今の自分の世界からドロップアウトしているのは同じだった。


だけど、そこに入るのはなんだかとてもむなしく感じた。


コンビニにいってきます。


机の上にメモをおいて、れんは家を出た。


家庭教師の出題テストの点が悪かった時、母が説教じみた時、気分が悪い時など、たまに外へでた。

この時間には当然同級生はいないし、近所の人もれんの家とはかかわりが薄く、声をかけてくることもない。


蝉がないている。アスファルトからはうねうねと熱が帯びている。

夏の日差しが思いのほかきつく、母親ゆずりのれんの白い肌に容赦なくてりつけてくる



公園に入った。

日差しがあたらない、すみっこのベンチを探した。


こんな時間にはめずらしく、一人に少女が2つ先のベンチに座っている。



立ち去ろうかとおもったが、灼熱の太陽のせいで立っていることが少しつらかった。


少女を見ることはせず、だまったベンチにすわった。


木陰のせいか、風が通り抜け、涼しく心地のいい場所だ。


なんとなく、少女の様子をみる。


何をするでもなく、タコの滑り台をじっとみつめている。

足元にはランドセルがあった。


うちの学校の生徒かもしれない。


れんはすぐにそばを離れようと思った。


だけど、今日は登校日でランドセルをもっているのに、公園にいるのはおかしいと思った。


体調でもわるいのか


それに、身覚えがない。

学校にいっていない割には同級生の事がきになり、随時担任からの学校の様子や写真などの母親への報告書を随時確認している。


スマホをだしてしばらく様子をみてみることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1時間目はおわったかな。


そろそろ学校の先生が家に電話をかえているはずだ。


だけどお母さんはパートにでているからかけてもつながらない。


うちには留守電機能もないし、明日に早くいって説明すればなんとかごまかせる。


だけど、明日になればみんなと顔を合わせないといけない。


なつちゃんも、片岡先生も、詳細を聞いてくるにきまっている。
























































































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