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簒奪者の最後

 魔王の軍勢がいよいよ勢いを増していた。


 ダークエルフの首都である杜の都ランテアは度重なる攻撃に壊滅的なダメージを受けた。最早、いつ陥落してもおかしくは無い…


 ダークエルフ達はメルディニア王国の庇護下に入りその民となるしか生き延びる術が無いと言う状態にまで追い詰められていたのだ。


 既に殆どのダークエルフの戦士は生き絶えている。ランテアに残っている数少ない民。それを護る術さえも愚かなダークエルフの王は持っていなかった。


 最早、力無きものが勝手に王を名乗っているのと大差無い状態。奴隷として扱われても不思議ではない酷い有様。それでもメンフィスは彼らに手を差し伸べた。


 その最終的な話し合いは杜の都ランテアの王の間で行われた。魔導師長にしてメルディニア王国の外交を司る右大臣メンフィスが従者を引き連れて会談に臨んでいる。


 従者達の中に一際美しい黒い瞳をした女が紛れている。暗殺者レニ・ルードラ。メンフィス子飼いの王国最強の暗殺者である。


 知らぬ間にレニの手によって、王の間の出入り口には高位の幻術と結界術が施されていた。それは、ダークエルフの王では無く、メンフィスを護る為に…


 国家として死に体となってはいるが、それでもエルウィンは王としての衣装を身に纏っていた。


「メンフィスよ、本当に余の命は保証されるのだろうなぁ」

「当然でございます。エルウィン様。我らが王国の法に従いエルウィン様には侯爵の位が叙勲されます」


「そ、そうか。それならば良い」


 不機嫌そうだったダークエルフの王が、メンフィスの言葉を聞いてホッとした表情を見せた。


「ところで、ダークエルフの民は如何なさいますか?」


「好きにして構わぬ。美しい女は王家の性奴隷にでもすれば良い。我が一族さえ生き延びれば、他国にもダークエルフは存在するのだからな」


 それを聞いて眉間に皺を寄せ、哀しそうな表情を浮かべるメンフィス。この男の何処に王の資質があると言うのだろうか。


 主人であるメルディニア国王の眼は確かだった。


 もし、己の命よりもダークエルフの民を守る気概を一言だけでも良い、見せてさえくれれば…


 国王に最後の諫言をする覚悟を決めた上で、老魔導師メンフィスはこの会談に臨んでいたと言うのに。


 降る事を決意をした王を殺すと言うのは、メルディニア国王クラウス二世の名声に傷を付けるかも知れないとメンフィスは悩んでいたのだ。


 だが、エルウィンの糞の様な言葉に、メンフィスがクラウス二世の為に、敢えて自らが汚れ役を被る決意を固めたのである。


 渇いた瞳で老人が、エルフの王を見据える。そして右手を胸に当て、その頭を…下げた。


 それは合図だった。


 メルディニア王国では、右手を胸に当てて頭を下げる挨拶は、死者に対する永遠の別れを意味する。


 葬儀の場で死んだ者を送る為の特別な礼儀なのだ。


 ドスッ、ズブズスッ。


 深々と簒奪の王の胸に無数の突き刺す針のような暗器が突き刺さる。一瞬の事だった。


「がはぁ」


 エルウィンの口から赤い血が溢れ落ちる…


「あ、かっ、う、裏切っ…」


 グスッ。


 エルウィンの言葉が最後まで紡がれる前に彼の喉奥から特別な黒い暗器が生えた。鋭い針が口から突き出している。冷たい瞳をした暗殺者レニが、背後からソレを突き立てたのだ。


「簒奪者如きが、我が主人にその言葉を口にするな…痴がましい」


 静かな…冷たい女の声が王の間に響く…


 エルウィンは彼女の声を聞くことなく生き絶えた。メンフィスがその遺体を見て、天を仰ぎ目を閉じた。


「仕方がなかった。この者は王の器に非ず…」



 ダークエルフの王エルウィンは、メルディニア王国の右大臣メンフィス子飼いの暗殺者に処理された。エルウィンの腰巾着だった【嫉妬】の刻印を持つ魔導師エルデリウスは事前に危機を察知し何処かに逃げ去った後だった。


 右大臣メンフィスは直ぐ様、エルウィンの遺言を捏造し発表する。


 それは、主人であるクラウス二世の名誉を守る為、ダークエルフの民を守る為、エルウィンの娘達を守る為に書かれた。


 ランテアとメルディニア王国の各地にこの遺言が早馬によって即座に届けられた…




 我は駄目な王であった。


 前王エルファンの足下にも及ばなかった。国を滅ぼし民を不幸にした。許されない大罪である。我の罪を償う為に民の命まで奪われるのは…余りにも辛い。


 愚かな我が命を月の女神に捧げる。


 どうかそれで民の命を救って欲しい。


 どうか、我が娘達とダークエルフの民をメルディニア国王の名の下に王国の民として受け入れて欲しい。


 対価と言う訳では無いが、我が玉座に眠る魔導の全てはメルディニア国王、クラウス二世に捧げる。


 いつの日か、ダークエルフの民に安寧が得られることを信じている。今後は、メルディニアの民として、クラウス二世に従い皆で助け合って生きて欲しい。


 我は本当に愚かな男であった。


 此処に心から謝罪する。


 以上をもって我が遺言とする。



 その遺言は、質素な内容で右大臣メンフィスの捏造したものであった。


 だがダークエルフの民に、そしてメルディニアの民にもすんなりと受け入れられる。


 メルディニア王国はダークエルフの魔術の奥義を取り入れる。そして、魔物に対する最前線基地としてランテアを手に入れたのである。


 ダークエルフの戦士達は引き続きランテアに、女、子供、年寄り、戦の才能の無い者は内地に集められ森の近くにダークエルフの村が作られた。


 こうしてダークエルフの国は、滅ぶべくして滅んだのである。2人の勇者がこの世界に来て丁度1ヶ月が過ぎていた。

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