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あれから食事も睡眠も取っていない。
皆は心配して食事と睡眠を取る用に言うけれど、それが必要になった時私は平静を保っていられないと思う。
それは私が普通の人に戻ってしまった事を意味し、ノワールとの繋がりが切れてしまったと言う事だから。
さぁ皆さん、今日も一日皆が無事である様に祈りましょう。
そしてノワールが帰るべきこの地を守って行きましょう。
子や孫に命を繋ぎ、この地に満ちる事がノワールの望みです。
私に出来る事はノワールの教えを守り、一日も早い帰りを待ち祈る事だけ。
この地に生きる全ての者に祝福を与え給え―――
* * * * *
音の無い真っ白な世界から開放された時、僕は泉と草原しかないあの駄女神に会った場所にいた。
「・・・やっぱりここか。まぁ他に呼び出される所なんて有る筈無いんだけど・・・・・」
周囲を見渡すが誰も居ない。あいつは何処に行ったんだ?僕に用でもあるんじゃないかと思ってたんだけど。それに罰が終ったとも思えないし。
「・・・・・う~ん・・・如何してここに呼び戻されたか聞きたかったんだけどなぁ」
―――その問いには私が答えよう
なんだか聞き覚えのある声が周囲に響いた。
「あ~地球の神様ですよね?それでは説明して頂けますか?あの女神様の事は如何でも良いんですけど、僕がここに呼び戻された理由は知っておきたいので」
こいつの事は気に入らないが、今は最低限の情報が欲しい。
―――先ずは、良くぞ試練を乗り越えた。そなたは神として認められた。当面はアガルティアが滅びるその時までアガルティアを管理して貰う事となる
「ああ、なるほど。要するにあの女神はクビになって代わりに僕がと。それで僕に与えられたのは罰ではなく神に成る為の試練だった。そう言う事でしょうか?」
―――そうだ。神へと到れる者は極僅かだ。人の身で因果を捻じ曲げたそなたには素養が有ったと言う訳だ
しれっと言いやがって。本当に気に食わない奴だ。
「良く解りました・・・ですが、お断りします。地上には僕の帰りを待つ妻と仲間達が居ますから」
―――まて、その様な事が許されると思うか
地球の神が何か言っていたけど無視して泉へと向かい、衣を脱ぎ捨てて泉へと踏み出した。
脱ぎ捨てた衣が光の粒となって消えた。もうこんな物はいらない。ずっと聞こえていたノイズが何なのか解ったんだ。
踏み出した足が水面を捉え波紋を浮かべる。
―――ノワール様
聞こえる。皆の僕を呼ぶ声が。祈りが。魂を通して僕へと流れ込んでくる。
僕の身体が光だし、新しい衣を生み出した。
泉の中心へと向かって行くと淡く点滅する光の玉が集まりだす。
これはアガルティアで亡くなった者達の魂が僕に救いを求めているのだと、そう理解した。
傷付き穢れし魂に一時の安らぎを与え給え―――
泉の水が立ち上がり光となって振り注ぎ疲弊した魂を癒して行く。
新たなる生命の誕生に祝福を―――
草原も泉も、この領域その物が光の粒となってアガルティアへと飛んで行った。
―――貴様、この様な真似をして唯で済むと思うな
全てが無くなった真っ暗な空間に地球の神の声が響いていた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




