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帰りの船の中でずっと考えていた。如何やら僕は勘違いをしていたようだ。
『一番人の集まって居る所から一番遠い人里』だからと言って『大陸の端』だとは限らないと言う事だ。
バロールが大陸の東の端にあって隣の大陸が直ぐ近くだったら如何だろう。この大陸の西側に人が居ない広大な土地が広がっているのであれば僕がグランさん達の村の近くに落とされた事にも納得がいく。あの時点では一番遠い人里だったのだろうと。
後、問題なのは僕の償いが終わる事だろう。女神の信者は増やしていないが、僕の行いで人口は徐々にだが増えている。二十万人の30%と言えば六万人だ。このままバロールから町村の開放を続けて行けば直ぐにでも達成してしまうかもしれない。そうなればエリスや皆とも別れてあの駄女神の所に戻る事になる。その後如何なるのかも解らないし、避けたい所だ。
だが、それで良いのか?目に見えずとも手の届く範囲に助けを求める者が居ると言うのに、自分の都合で見捨てても良いのだろうか。隣を助ければ更に隣となるのは目に見えている。何処かで線引きをしなければいけないのだが出来そうに無い。
幾ら考えても答えなんて出なかったので、アスガルタの皆に相談する事にした。
「・・・・・と、まぁそう言う訳でライルさんはアラト山東村の防衛力強化と周囲の開拓の為に残って貰いました。キースさんには申し訳有りませんが、もう暫くはクロスボウと矢の製作を続けて下さい。それでですね、その・・・先の事なんですが・・・・・」
僕は今までエリスにさえ話していなかった償いの事を皆に話した。
「・・・・・そ、そんな・・・ノワール様が何時か居なくなるなんて・・・・・」
村人達は顔を伏せて涙を流していた。エリスを除いて。
エリスが立ち上がり皆に語りかける。
「・・・皆、何を泣いているんですか。ノワールがあたし達を置いて居なくなるなんて有り得ないわ。多少時間が掛かっても必ず帰って来ると信じて待ちましょう。喩え子や孫の世代になったとしても、ノワールの帰るこの地を守り続けるのが私達の役目ではないのですか?」
「いや、今直ぐの話じゃないですからね?勿論エリスや皆と離れるのは僕も嫌ですが、僕の力では如何する事も出来ないんです。その時が来たら如何するのかは各自で良く考えて決めて下さい。それでですね、当面はアラト山東村の防衛力強化で、その先に行くかは状況を見て決める事にしましょう」
取り合えず先送りにしようとしたら、エリスに怒られた。
「ノワールも何を言ってるんですか!私達の事を大切に思ってくれるのは嬉しいですが、それが貴方の望みですか?違いますよね?グランさん、東の村へ行く志願者を募って下さい。ノワール、貴方は自分の信じる正義の為に思うように行動して下さい。ここは・・・アスガルタは私が貴方の意思を継いで護っていきますから」
「そうだな・・・俺と共に東の村に行く者はいるか!男十人、女三人だ!」
「グラン、ライルだけじゃどうにも不安だから一日も早く行ってくれ。俺は後方支援の指揮を取る。食糧の増産と輸送の方は任せてくれ」
グランさんとエンゾさんが立ち上がり指示を出すと皆が頷き動き始めた。
「・・・・・エリス、皆・・・有難う・・・・・グランさん樹液ブロックの製法と建築技術も指南して来て下さい。それから・・・その・・・長い旅になるかもしれませんが必ず帰って来ますから・・・後の事は宜しくお願いします!」
翌朝、コッケー五十匹を残し皆に見送られて、僕はアラト山東村へと向かった
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