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「皆さん昨日はすみませんでした・・・・・ちょっと興奮しすぎて我を忘れていたようです。申し訳ない」
一晩とは言え引き篭もってしまったので皆に謝った。昨日の作業の報告すら聞いていなかったのだから当然だ。皆は気にするなと言ってくれたけど、こう言う事はきちんとしておかないとね。
「あ、あのノワール様、私にもコップを作って頂けませんか?」
「ん?ああ、それなら皆の分もちゃんと作るつもりだから心配しないで」
「・・・・・はぁ・・・ノワールさんエリスが言っているのはそうじゃない。彼女の気持ちを考えたら解るだろうに・・・・・」
「ノワール様の鈍感」
「え?・・・あ!あ~・・・その、ごめんエリスちゃん!エリスちゃんのは皆のとは区別出来るようにするから!ほんとごめん!」
ちゃんと返事をするとか言っておいて完全に意識から外れていた。脹れるエリスちゃんに頭を下げて許して貰った。
今日はキースさん以外は昨日の続きだ。キースさんは昨日のうちにピィを四匹捕まえて柵の中に放してあると言う。今日はブロックの型を作って貰うつもりだ。
型のサイズは壁用が縦横20cm長さ40cm、床用が縦横40cm厚さ10cm。最初は木を削って作るつもりだったが、砂で作った方が早いと言ってさくさくと作り、直ぐに樹液が足りなくなるだろうと言って樹液を採取する為の器まで作って森へと行ってしまった。
そして僕はと言うと、塩を作りながら皆の分のコップを作ってからブロックを乾かす場所を用意する事にした。
砂浜に近い場所の草を抜いて足で踏み固めて出来るだけ平らにして行き、表面に樹液を垂らして均して行く。乾いたらこの上に型を置いてブロックを作り、出来上がったものから退けて次を作っていけば良いだろう。
そうこうしている内にキースさんが帰って来たので、砂を集める為のトンボを作って貰い、水車が如何言う物かの説明をした。
キースさんは本当に優秀だ。僕の説明を聞いた後に少し質問をしてから小型の物を試しに作ってみると言って川原へと向かって行った。なんか有る程度教えたら僕なんて要らなくなるんじゃと危機感に襲われた。
それならそれで仕方ない事だ。どうせ僕は不老不死で何時かは見守るだけの存在になるのだろうと作業を再開した。
夕方になり塩とコップを持って拠点に帰ると何やら騒がしい。
「ノワールさん!今迎に行くか話し合っていた所なんだ。ちょっと来てくれ!」
慌てたキースさんに腕を引かれて皆と川原へ向かうと、向こう岸の上流から三十人程の団体がやって来るのが見えた。
もしかしてと、目を凝らしてみれば先頭を歩いているのは思った通りグランさんだった。
僕が迎えに行かなくちゃと向こう岸へ渡ろうとした時、エンゾさんに肩を掴まれた。
「待ってくれ、今更彼等を疑うつもりは無いが、気持ちの整理をする為に一晩時間をくれないか。エリスとルイスには特に必要だと思う」
言われて見れば確かにそうだ。あの中にエリスちゃんとルイス君をエンマさんと一緒に虐げていた人も居るかもしれない。それに一度は決別しているのだから皆を守る為にもここは慎重に行かないとと思い知らされた。
「すいません。エンゾさんの言う通りですね。皆さんは戻って夕食の準備をして下さい。僕は余裕の有る食料の差し入れと受け入れは明日以降になる事を話してきますから」
一旦皆と拠点に戻り、背負っていた荷物を下ろして、中からコップを皆に配って行った。
「はい、これがエリスちゃんの分。ピィの絵を描いてみたんだけど・・・どうかな?気に入らなかったらまた作り直すから言ってね」
受け取ったエリスちゃんは僕に抱きつき「一生大切にします」と言ってくれて勇気が湧いた。全員を受け入れてあげたいが、取捨選択はするべきだ。優先すべきは今ここに居る皆なのだから。
僕は余裕の有る干物や人参等を籠に入れてグランさん達の待つ向こう岸へと向かった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




