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人ごみを掻き分けて飛び出して来た二人は申し訳程度の荷物を肩から下げていた。一人は僕と同じ位の女の子で、もう一人は弟だろうか、コルト君と同じ位の男の子だ。
「連れて行くのは構わない。けど、ご両親や挨拶したい人が居るならしておいた方が良いよ。もう二度と会う事も、戻って来る事も無いかもしれないから」
二人は俯いて首を横に振った。
「そっか・・・詳しい事情や自己紹介は向こうに着いてからにしようか、他の皆ともしなくちゃいけないし」
川面に立つ僕が両手を前に出し、二人が僕の手を取ろうとした時、エンマさんが此方に向かって歩きながら怒鳴り散らしてきた。
「あんた達!勝手な真似するんじゃないよ!!今まで育ててやった恩を忘れてそいつ等と行くなんて許しゃしないよ!!」
二人がビクリと身体を竦めた。俯いたその顔は青褪めている様に見える。グランさんの居るこの村で暴力があるとは思えなかったが、両親が居ないのであろう二人を隠れて虐げてしたのかもしれない。
僕は岸へと上がりエンマさんと二人の間に立ち塞がった。
「そこを退きな。そいつ等は返して貰うよ」
「お断りします。僕を受け入れる気の無かった貴方の言う事を聞く理由は何一つ有りません。この子達は僕に救いを求めて来たんですから僕が連れて行きます」
ちらりとエンマさんの後ろを見たが誰も動こうとしないのは何故だろう。ここはグランさんが動く所じゃないのか?女性陣を纏めているとか聞いたけど、それだけじゃないみたいだ。
「本当に生意気なガキだよ気に入らないねぇ・・・・・」
「大人とか子供とか関係有りませんから。何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いです。貴方と話し合いが出来るとは思えませんから行かせて貰います。大した働き手にもならない子供二人位居なくなっても変わらないでしょうし、寧ろ食い扶持が減って良いんじゃないですか?これからも収穫量は減って行くんだし」
エンマさんから目を逸らさずにそう答えた次の瞬間、僕のお腹に衝撃が走った。膝だ、エンマさんの膝蹴りが僕の鳩尾辺りに突き刺さったのだ。
しかしその場に蹲ったのは僕ではなくエンマさんだった。
「・・・・・ァッツ・・・ふぅ・・・人の話を聞かないからそうなるんですよ・・・その痛みは貴方の犯した罪の証です。これからは暴力で人を押さえ付ける様な真似は控えた方が良いですよ」
自動反撃の度合いは解らないが、少なくとも与えられた分位は跳ね返ってそうだ。正直息が出来なくなる程痛かったが、生き返った時程じゃないし、もう回復して痛みは消えている。
痛みで蹲り動けなくなりつつも僕を睨むエンマさんを見下ろしながらそう言って振り返り、二人の手を取り向こう岸へと足を運んだ。
すっかり暗くなってしまった。衣の光が川面に反射して広範囲を照らしていて、向こう岸にいる皆が心配そうな顔をして此方を見ていたのに気が付いた。僕は大丈夫だよとの意味を込めて笑顔を送る。
皆の居る岸へと着いて自己紹介をしたんだが女の子、エリスちゃんが手を離してくれない。余程怖かったのだろうと手を繋いだまま竹林へと話をしながら向かった。
エリスちゃんと弟のルイス君達の話によるとエンマさんは亡くなった村長の娘で、グランさんは村長の命令で結婚したんだそうだ。二人に子供が出来なかったのもグランさんのせいにされていて、そのせいで強く出られないのだそうだ。
二人の両親、母親は五年前、父親は二年前に病気で亡くなり、与えられた畑を耕して生活をしていたが、子供二人なのだからと最低限の食物以外を取られてかなり厳しい生活をしていた様だ。実際持ってきた荷物の少なさを見ればその扱いの酷さが解る。木の深皿と二股のフォークに着替えらしき物しかないのだから。
この辺りは大陸の南側なので冬だからと言って極端に寒くなる事は無いが、それでも作物は育たないし採取出来る物は殆んど無く、二人は捨てられた北の地を散策して食い繋いで居たんだそうだ。
その晩は竹林の手間の開けた場所で火を焚いて、持って来た韮っぽい葉を皆に食べさせて毛皮に包まって眠った。一日歩き通しだったせいか、誰も明け方まで目が覚める事は無かった。
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。




