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何度も休憩を挟みながらグランさん達の村に着いたのは、予想通り夕方近くだった。
尤も予想通りだったのはそれだけでは無かったけど。
「グランさん、只今戻りました」
「あ、ああ・・・・・」
出迎えてくれた・・・訳じゃなさそうだ。おそらくは村人全員が集まっているんだろう。村の入り口を塞ぐ様にグランさんとエンマさん、そしてその後ろに沢山の人が並んでいて、剣呑な雰囲気を出していた。
僕はダメ元で事情を説明して受け入れて貰えないかと頭を下げたが、相変わらずエンマさんは聞く耳を持たずと言った感じで拒否された。「自分達の勝手な理由で襲って来た奴等を信用なんて出来ない」のだそうだ。まぁ解るけど。
エンゾさんにキースさんとライルさんは土下座をして謝罪し、その後に僕と子供達だけでもと頼み込んだがそれでもダメだった。
「仕方有りません・・・行きましょう皆。もう日が暮れてしまいます。グランさん色々有り難うご座いました」
「いや、俺は何も・・・・・」
「・・・・・最後になるかもしれませんから、一つだけ言っておきます。村を割る覚悟をして下さい・・・・・今のままではエンゾさん達の村と同じ事になりますから・・・・・その時が来てからでは遅いんです・・・・・僕が言うのもなんですけど、失った命は元には戻りませんから。それじゃ」
正直何故エンマさんに従っているのか解らない。誰も村の危機を如何にかしようと思わないのだろうか。僕の言う事が信じられないのは仕方ないが、以前から収穫が無くなっては移動を繰り返し、今も収穫が減っていると言うのに。
村の北側を回って森を抜け、川原に出た時には日が落ちる寸前だった。周囲は逢魔が時と呼ぶに相応しい薄闇が広がり、川面は鈍色に染まっていた。
川岸に立って振り返ると、皆の後ろ、少し離れた所にグランさん達が見えた。僕達が戻って来ない様に監視でもしているのだろう。
「・・・・・さぁ・・・何も心配は要りません。僕の手を取り共に歩んで行きましょう。僕を信じてくれれば貴方達は救われます」
衣を光らせ川面に立ち、皆に向かって差し出した両の手を最初に掴んでくれたのはエンゾさんとリリアだった。
衣の刺繍が眩い光を放ち、衣へと広がって行くと、光が僕と二人を包み込む。
思った通りだ。あの駄女神がこう言っていた、僕の魂は『神に匹敵する魂格』だと。僕を信じてくれる人が増えれば増える程僕は神に近づき、奇跡を行使出来る様になるのだろう。
『信じる者は救われる』ではなくて『信じてくれる者を救う』んだ。
二人の手を引き足を進める。水面に波紋を広げながら三人で川を渡って向こう岸で背負っていた荷物を置き、二人にここで待つ様に言って次を迎えに行った。
「次はコルト君とネイマちゃんの番だけど、大丈夫?怖く無いかい?」
「俺は・・・最初は苦い葉っぱ食べさせられて嫌だったけど、言う通りにしたら元気になったし、今目の前で見たのに信じ無いなんて有り得ないよ!だから怖くなんて無い!」
「あたしも!ノワール様は嘘なんて付かないと思う!だから大丈夫!」
「そうか・・・有り難う。キースさん、荷物を。それじゃあ行こうか」
キースさんの荷物を受け取って二人を向こう岸へと送って戻り、キースさんとライルさんも問題なく渡れたので荷物を背負ってそのまま川岸を歩いて南の竹林へと向かい始めた時、向こう岸に居る集団を掻き分けて飛び出して来た人が大声を上げて僕達を呼び止めた。
「待って!待って下さい!!お願い!私達も連れて行って!!」
その声に僕達が振り向くと、飛び出して来たであろう二人の後ろの暗がりの中でグランさんは呆然とし、エンマさんは眉を寄せて怒りを顕にしているのが見えた。
そして僕は背負った荷物を降ろし、二人を迎える為に川面へと足を運んで行った。
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。




