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「それじゃグランさん、行って来ます。暫くは帰って来られないと思いますけど、必ず戻って来ますから」
「あ、ああ・・・解った」
不安と恐怖の入り混じった何とも言えない表情のグランさんに見送られ東へと向かった。
薄暗い獣道を衣の光だけを頼りに早足で進んで行く。
歩きながらお互いの紹介をして途中で三回休憩を挟み、その度に青紫蘇を一枚づつ食べさせ、村に着いてからの指示を出した。
「向こうに着いたら先ずは火を焚いてお湯を沸かして下さい。塩があるならそれを入れてです。後は生存者を焚き火の近くに集めて、この紫蘇を磨り潰した物を人肌程度に冷ましたお湯で溶いて少しづつ与えて下さい。僕は食べられる物を探しに周辺を回りますから」
残り三株の青紫蘇では確実に足りない。村を放棄する前提で使える物は全て使い切る位で行かないと助かる者も助からないだろう。
僕達は村に着いて直ぐに行動を開始した。村のリーダー格だったエンゾさんと背が低く力持ちのライルさんは各テントを回って生存者の救出。背が高く手先の器用なキースさんは火を熾して水汲みだ。僕は村を中心に周囲の林の中に入って食料を探しに行く。
食べられる物は捕り尽くしたと言っていたが、紫蘇の様に彼等の知らない食料に為る植物が有る筈だと探し回り、パセリの様な植物と針葉樹の葉を発見して持ち帰って磨り潰して与えさせた。
味は酷いが栄養価は高い筈だ。エンゾさん達は半信半疑だったが何もしないよりはマシだろうと看病を続け、僕は更に食料を探しに行った。
長い夜を越えて助かったのは十台半ばの僕より少し年下位の男の子が一人と女の子が二人だけだった。助かったと言っても、当面は満足に歩く事も出来ないだろう。
亡くなった村人達を埋葬し、看病と採取を続け数日が経った。エンゾさん達も含めて皆が回復して来たので近い内に移動したいと話をした。
おそらくは西の村では受け入れてくれないだろうが、交渉はしてみない事には解らないし、ダメなら川の向こうへ何とか連れて行こう。
あの駄女神に出した条件通りの場所ならば西側は手付かずの土地の筈だ。
そして、ここへ着てから二十日経ち、いよいよ採取での生活が限界近くなったので移動する事にした。
まだまだ体力的に問題は有るが早朝に出発すればグランさん達の村に夕方には着くだろう。
「さぁ皆さん仲間達にお別れを」
全員で村人達を埋葬した場所にやって来た。
墓石代わりに置いた様々な大きさと形の石が盛り上がった土の上に並んでいる。
生き残った六人が思い思いの別れの言葉を口にし涙を流し、エンゾさんが謝罪の言葉を口にした。
「・・・・・すまん・・・俺が馬鹿な判断をしたばかりに皆を苦しめた・・・・・本当にすまなかった!」
「エンゾさん・・・貴方はこれからその罪を背負って生きて行かなければ為りません・・・・・それがどれ程辛い人生であろうともです」
「ノワールさん、エンゾだけの罪じゃねぇよ。反対しなかった俺の罪でもある・・・だから・・・エンゾ、お前一人で背負い込むな」
「そうだ、俺達三人で背負って生きて行くんだ。皆の分もこの子達を幸せにしてやるんだ」
「・・・さぁ行きましょう。出来る限り僕も力に為りますから」
ばらしたテントや持てる限りの家財道具と食料を背負って西へと向かう。
裸足だった僕は持ち主の居なくなったサンダルの様な履物を貰ったお陰で足下を気にせず歩ける様になった。
「・・・なぁノワール様、何時になったら葉っぱ以外の物食べられるんだ?」
皆を助けたあの夜以来、僕は大人達からは〝さん〟子供達からは〝様〟付けで呼ばれている。止めて欲しいと言ったのだが、命を助けられたのだからと止めてくれないので諦めた。なんか慣れないしこそばゆいけど。
「あ~!コルト君、我侭言っちゃいけないんだよ!皆我慢してるし、ノワール様なんて自分は食べないで皆にあげてるんだからね!」
「そうそう、私だって我慢してるんだからね」
コルト君の何気ない一言を嗜める同じ位の歳のネイマちゃんと少し年下のリリアちゃん。
成長期の子供達だし早急に何とかしたいけど、暫くは竹の子生活に為りそうなんだよなぁ。川で魚とか取れれば良いけど。
僕は言い合いが出来る程に回復した子供達に安堵の息を漏らしながら、そんな事を考えていたのだった。
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。




