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高子の『出来心』 其の3

「で、どう無理やりしたんですか」

「え、無理やりは無理やりですよ、警察のお兄さん」

「だから、その無理やりの仕方をおうかがいしてるんですが」

「えっと、それはそのう、今更無理やりなんてしてないなんて言えないし……そうだ。ねえ、警察官さん。警察官と言えば、柔道は結構なものなんでしょう」

「そりゃあ、まあ、多少は」

「じゃ、じゃあ、警察官さんは、抵抗してくる男なんかは、どう取りおさえるんですか。一つ教えてくださいよ」

「は、はあ、構いませんが」

「ありがとうございます。それじゃあ、殴りかかってくる相手なんかは、どうしちゃうんですか」

「そういう時は、その殴りかかってきた手を取って、背負い投げに行きますけどね。背負い投げ、わかります? こう、くるっと後ろ向きになって、相手の勢いを利用して、投げちゃうんです」

「へえ、そんなやり方が。じゃあ、俺もその、背負い投げで、無理やりしました」

「じゃあって何ですか。じゃあって。とにかく、背負い投げで無理やりしちゃったんですね。まあ、相手も心得があったりすると、こっちを背負い投げで投げちゃおうとしてくることもありますけどね」

「そんな時はどうするんですか? 警察官さん」

「裏投げって言うのがあるんですよ。我々も一応逮捕のプロですからね。向こうがこちらを背負ってきそうになったら、ぐっとこらえて、後ろ向きに放り投げちゃうんです」

「ほうほう、だったら、俺も、背負いの裏は、裏投げです」

「だから、だったらって何ですか。だったらって。ちなみに関節技もありますよ」

「ふうん。その関節技って、どういうものですか、警察官さん」

「ああ、取りおさえる時には、相手に怪我をさせないようにしなくてはなりませんからね。ひょっとしたら、無実かもしれませんし、仮に犯罪者だとしても、我々警察官が行うことは、逮捕であって、怪我をさせることではありませんから。ですから、関節を極めちゃって、相手を動かないことができないようにする技術も身につけているんです」

「なるほどお、それなら、俺も関節技だ。裏は裏投げだ。その時のあの男の、苦悶くもんの表情ったら、たまらなかったなあ。痛みにうめく、あの吐息、いやあ、今思い出してもぞくぞくする」

「関節技に表も裏もありませんよ。で、関節技で、相手に無理やりしたんですね。あんた、いろいろ技を知っているようだけど、悪用しちゃあだめだよ。まさか、絞め技までやってやしないだろうね」

「えっ、絞め技?」

「そう、絞め技。首を締めて、相手を失神させちゃうの。これ、素人が下手にやると、本当に危ないんだからね。うかつにやっちゃあだめなんだから」

「それが、やっちゃいました、絞め技。裏は裏投げで。気を失っていっちゃう時の、あの男のむしろ気持ち良さそうな顔と言ったら、今でも目に焼き付いているよ」

「ですから、裏が裏投げの絞め技って、どういうことですか。全くもう」

「おい、お前! いい加減にしろよ」

「うわっ、突然なんだい。ああっ、あんたは、俺がいろいろやっちゃった男! 今までどこにいたんだい。勝手にいなくなっちゃあだめじゃあないか」

「何をいけしゃあしゃあと。寝ているところに、妙な感触がしたから、何だと思って見りゃあ、変な男が手握ったり、口と口を合わせてきたりしやがる。とてもこんなこと人に言えやしないから、今の今まで、隠れていたんだ」

「じゃあ、何で出てきたんだい」

「それは、お前が、無理やりやったことになんてしやがるからだ。こっそり不意をつかれたならまだしも、必死で抵抗したのに、あらがえずになすがままにされたなんて、冗談じゃない。大体なんだ、お前。気持ち悪い実況までしやがって。関節技をしたらどうの、絞め技をしたらどうの、と出鱈目でたらめばっかり言いやがって。なんでまた、あんなに嘘八百並び立てたんだ」

「それは、つい出来心で。それで、あんた、どこに隠れていたんだい」

「隠れていた場所かい、裏だよ」

「裏のどこだい」

「裏投げだよ、っと」


サゲを言い終えた高子は。正座の姿勢から、上半身を跳ねあげてバク転をします。


「よっと、ううん。さすがに、最初から最後まで、話をし終えてからのバク転は、ちょっとした賭けだなあ。パフォーマンスとしては派手だが、しっかり息を整えて、というわけにはいかないから、成功するかどうかは、分が悪いかもしれない。その上、和枝くんとの勝負の場所は、部室だからなあ。基本、部室での落語は、教卓に座布団乗っけて、そこでやっているから、それだとこのパフォーマンスは問題外だし。教卓から落っこちちゃう。そもそも、こんな派手なパフォーマンス、落語値して不適切ではないだろうか。和枝君には、正々堂々立ち向かわなくてはならないし……」


高子もまた、和枝相手にスポーツマンシップを発揮するのです。



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