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Re:ライフ ‐勇者の働き方改革‐  作者: クラマ・ククル
第三章 エルダードラゴン最後の日
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7.エルザの願い


 自分のことをエルザと言った代弁者と、いざ話に入ろうとしたところで、


「ア~リ~ア~、よくもあたしに幻惑魔法をかけてくれたわね!」


 半べそをかいたリズがこちらに戻ってきた。無敵の魔物の正体もバレてしまっているようで、リズは泣きながら怒っている。


「ああ、うるさいのがもう帰ってきてしまいましたね」


「リズにも説明しないといけないし、一旦焚き火まで帰ろうか。エルザはそれでいいかな?」


「はい。かまいません」


 そう言う訳で、僕達は焚き火を囲んで座る。ただし、エルザはずっと宙に浮いたままだった。

 リズに事情の説明と謝罪をして大人しくさせたところで、先ほどの話の続きをする。


「じゃあ早速だけど、どうして僕達をずっと見ていたのか知りたい」


 エルザは焚き火の炎の揺らめきに合わせるようにふわふわと揺れながら、


「わたしは、この地を荒らす三人の悪しき者達の動向を観察していました」


 と言った。


「……大変申し訳ありませんでした」


 とりあえず僕は即座に謝っておいた。樹海を荒らしてしまい、住民の皆様には大変迷惑をかけました。

 しかし、エルザは頭を振る。


「いいえ、あなたのことではありません」


「あら、私達じゃないんでしたか」


「あたし達はべつになにもしてないしね」


「いいえ、そこの二人のことです」


 エルザは、アリアとリズを交互に指した。


「……」


「……」


 沈痛な面持ちで黙り込んでしまうアリアとリズ。


「あの二人の魔力の性質は、あなたとは違いおぞましいものです」


 さすがネクロマンサー、おぞましいとまで言われるのか。

 二人はやれやれと肩を竦める。


「はいはい、どうせ私はおぞましいですよ。これだからネクロマンサーはねぇ」


「ホント、どこ行っても嫌われるのよね、あたし達」


 アリアとリズは拗ねてしまった。

 まあ、樹海で大蛇を狩り、それを使役するなりしているので自業自得のところはある。僕はそう思ったところで、先ほどのエルザの言葉を思い出す。


「あれ、悪しき者が三人って言っていたけど、僕が違うとすると残りの一人は誰?」


「はい。あなた達とは別に、単独で一人の者がこの場所にいます。その者からも、あの二人のようにおぞましい性質を感じました」


「僕達以外にももう一人か……」


「きっと、そいつもエルダードラゴンを狙ってるに違いありませんねっ。絶対に渡せません!」


 もう一人の存在のことを聞いたアリアはいきり立った。

 するとエルザは、アリアの正面に移動し、アリアの顔をまじまじと覗き込んだ。


「な、なんですか?」


 ちょっと物怖じするアリア。


「わたしは三人の悪しき者を観察し、交渉が可能かどうか見定めていました」


「なんの交渉をするつもりなんですか?」


「あなたが今言ったことを止めてもらう交渉です」


「それって、エルダードラゴンのことですか?」


「はい。明日の晩にこの場所で眠りにつくドラゴンは、この場所の糧となり、生命を育みます。これは何万年にも渡って繰り返されてきたことです」


「周りは荒野なのにカルデラの中だけ自然が溢れているのは、それせいだったんですね」


「そうです。ですから、地に還る者を持ち去るようなことはよしてください」


「えっと……あの、私は骨だけ頂ければいいんですよ」


「骨にも膨大な魔力が込められています。それを失えば、この場所は衰退へと進んでしまいます」


「……」


 エルザの願いを聞き、しかし、アリアは押し黙ってしまった。ぎゅっと眉を寄せて、何故か僕の方へ訴えるような眼差しを向けてくる。


「いや、僕にどうしろって言うんだよ?」


「……欲しい」


「欲しいって言ってもな。こんな巨大な自然溢れる場所を破壊してまで手に入れるものじゃないだろ?」


「……だって、だって……だったらなんの為にここまできたんですか!? とんだ骨折り損ですっ……っていうか、大きいドラゴンが欲しいっ、欲しいったら欲しいんですっ」


 アリアはまた子供になった。泣き顔で駄々をこね始めてしまう。

 僕はアリアの傍に寄ると、彼女の背中を擦る。


「分かる。気持ちはよく分かるぞ。だが落ち着くんだアリア」


「うぅぅ……カイトくん、やだやだ、欲しぃ~」


 アリアは僕に抱きつくと僕の胸の中でめそめそする。これはかなり役得だった。女の子に抱きつかれたことなんて人生で初めてである。アリアからは凄くいい匂いがした。

 それはともかく、僕はだらしなくなりそうになる表情を殊更固く引き締めて、エルザに問いかける。


「エルザ。もし、仮に、万が一に、エルザの要求を拒んだらどうなるんだ?」


「この場所にいるドラゴンがあなた方を排除しようと動きます」


 エルザはさらっと言った。


「そりゃダメだわ。生きて帰れないな」


「しかし、わたしはそうなることを望みません」


「手っ取り早いのに、どうして?」


「そこのあなたが使役しているドラゴンとは違い。この場所のドラゴンは、人を襲ったこともない若者達です。彼らが戦って傷つく姿を見たくありません」


 エルザはアリアの胸の辺りに目を向けながらそう告げた。

 すると、アリアは僕の胸から顔を上げ、


「……なんでもお見通しなんですね」


 と、呟く。その声音には諦めが滲んでいることを感じた。

 いくら感情的になっても、聡明なアリアならもう分かっていることだろう。

 僕達がどのような選択をしても、どちらにせよ、エルダードラゴンは手に入らなのだ。ならば、諦めるしかない。

 リズは元よりアリアにエルダードラゴンを譲ることで折り合いがついていたし、もう僕達の意見は一致している。

 僕は三人を意見を代弁する。


「分かった。エルダードラゴンを諦めるよ」


「ありがとうございます」


 エルザは感情を感じさせない表情で礼を言った。しかし、その仕草はどこかほっとしたような雰囲気を醸しているような気がした。


「うう~」


「ああ~」


 アリアとリズはそろって変な声を上げる。やり場のないモヤモヤした感情を持て余しているようだ。

 しかし、なんと言おうが話は終わった。

 今日はここで一晩過ごして、明日引き返そう。そう考えて、僕はアリアやリズとは違いほっと一安心していると、エルザが僕を見ながら、


「ところであなたにお願いがあります」


「どうしたの?」


「実は、もう一人の者とも交渉を試みましたが、その者とは会話さえ交わすことができませんでした。あなたにその者を止めて頂きたいのです」


「へんっ。随分、一方的で都合のいいこと言いますね?」


 エルザの願いに対して、やさぐれた様子のアリアは柄の悪い口調でエルザに迫る。いくら悔しいからとはいえ、これでは悪しき者と言われても仕方がない。


「お礼はさせて頂きます」


「それってエルダードラゴンの骨ですか?」


「違います」


「ですよねー」


「ですが、あなたにとって価値あるものだと断言できます」


「具体的になんなのか教えて下さいよ?」


「そのときまでお待ち下さい」


「……カイトくん」


 アリアはなにか言いたげに、僕に上目遣いを送ってくる。


「うん、アリアの言いたいことは分かるよ」


 僕はそう言ってアリアの頭に手を置いた。

 たしかに僕達にエルザを助ける義理はない。


「でも、折角ここまで来てなにもせずに帰るって言うのもあれだし。やってみるだけやってみてもいいと思うんだよ。お礼もしてくれるっていうし、手土産を持って帰れるだろ?」


「カイトくんってやっぱりお人好しですね。だから、ラーゼンなんかにいいように使われるんです」


「本当、返す言葉もないよ」


 まあ、だからアリアにも付き合ってるんだけどな。と、僕は心の中で付け足した。



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