3.ネクロマンサーの性
僕の横やりによって一旦は落ち着いたアリアとリズ。
しかし、リズの方は未だ納得のいかない顔をしている。なぜリズは、そんなにも僕がアリアの傍にいることに疑問を感じているのだろうか。
リズは、今度はアリアではなく僕に話しかけてくる。
「ねぇ、カイト」
「はい」
「あなたにとってアリアはなんなの?」
「アリアは僕のヒロインだ」
「それはちゃいますって」
僕が堂々と答えると、アリアに後ろから頭を叩かれた。
「まだ違うのか……そろそろだと思ったんだけどなぁ……」
「リズ、勘違いしないでくださいよ。カイトくんは私の城に居候の身で、仕事も手伝って貰っています。ただし、それ以上の関係ではありません」
「別にそこまで否定しなくてもいいのに……」
アリアのつれない態度に、僕は落胆した。
リズはそんな僕達のやり取りを興味深そうに眺める。
「ふーん、あんた達ってどれだけ一緒に暮らしてるの?」
「そろそろ一ヶ月になりますよね?」
「ああ、そんなところだな」
アリアに目を向けられて僕は頷いた。
「……やっぱりあり得ないわ、そんなこと」
「しつこいですね。現にこうしてあり得てるんですって」
「いいえ、死者に囲まれたネクロマンサーが、ネクロマンサー同士を除いて普通の人間と一緒に暮らすなんてあり得ないのよ。ましてや恋愛をするなんて絶対に無理。男を自分の住処に連れてきても、気味悪がってすぐに出て行くわ」
「別に僕みたいに気味悪がらない男だっているだろ?」
リズの主張に、僕は異を唱えた。
だが、リズはゆっくりと首を横に振る。
「始めはね、そうやって男はみんな言うのよ。『キミのことを愛しているからなんだって乗り越えられるよ』ってね。だけど、しばらくすれば顔を青くしてしてみんな離れていくのよ」
「まるで見てきたような口ぶりだな」
「ええ、そうよっ。あたしはお師匠様の失恋を何度も目にしてるんだから!」
てっきり、リズ自身のことかと思ったら、師匠さんのことだったようだ。
「そもそも師匠の場合は、魔法で年齢を偽って若い男を狙う時点で勝算が薄いんですよね。見た目は偽れても、老いた内面はそれとなく滲み出てくるものですから」
と、アリアが悲しい補足をした。
「去年も、六〇過ぎて二〇の男にフラれて泣いていたわよ」
「あの人もいい加減にして欲しいものです」
「それだけは同感ね」
アリアとリズの師匠は、なかなかアグレッシブな人であるようだ。
しかし、師匠の話題が出たことにより、リズに勢いが削がれたようで、僕とアリアへの追求はどこかへ飛んでしまった。師匠には感謝である。
アリアもここが引き際だと察したのか、リズに向かって別れの手を振り、
「じゃあ、そういう訳で私達はもう行きます。さようなら~」
と、踵を返してドラゴンへと戻ろうとした。
だが、リズはアリアを逃がさなかった。
「待ちなさいアリア!」
リズは腕を組んで仁王立ちをし、太い声でアリアを呼び止める。
アリアは体半分だけ振り返った。
「あら、まだなにか?」
「あたしもドラゴンに乗せなさい。ドラゴンのブレスからあたしを守ったが為に、ビッグベアーが使い物にならなくなっちゃったのよ。責任をとって」
「嫌です」
アリアは即座に拒否をした。
リズは驚愕する。
「な、なんでよ!?」
「嫌だからです」
「姉が困ってるのよ? それを助けるのが妹の役目でしょっ」
「初めて聞きました。もちろん嫌です」
「お願いアリア。ビッグベアーが使えなくなっちゃったから、あたしには他に足の早いアンデッドはいないのっ」
「それは大変ですね。絶対に嫌です」
「アリア~、お願い~」
「い、や、で、す」
あまりにも清々しい拒絶ぶりに、リズは涙目になる。
けれど、アリアはそんなこと一切お構いなしで再びドラゴンに向かって歩き出した。
「さあ、カイトくんも行きますよ」
「うぅぅ……」
リズは捨てられた猫のような目でこちらを見ている。さすがにこんな顔を見せられては、可哀想になってくる。
僕はアリアに追いつくと、声を潜めて、
「……アリア。困ってるみたいだけど、本当に助けなくていいのか? 一応、同門なんだろ?」
と、リズへの助け船を出す。
するとアリアは真面目な表情で、
「いいですか。私がリズを助けないのには二つ理由があります。一つ目は、そもそもの発端は、リズが私達を狙撃してきたことにあるからです」
「……そういえばそうだったな」
その後のアリアとリズの衝突ですっかり忘れていた。
しかし、どうしてリズはそんなことをしたのか?
気になった僕は声を大きくして、後ろのリズに聞いてみる。答えによっては、弁明をする機会になるかもしれない。
「なあ、リズ。なんで僕達を狙って魔法を撃ったんだ?」
リズはベソをかきながらも、さも当たり前と言わんばかりの口調で答える。
「なんでって、アリアのドラゴンが飛んでたから、なんかムカついて撃ち落とそう思っただけよ」
「……」
ダメだこいつ。今の発言で助ける理由を無くしてしまったぞ。
アリアは「ほらね?」と、片方の眉を上げた。
「まぁ、私も魔法を撃ち込んできた相手がリズだと分かったから、わざわざ降りてブレスを浴びせてやったんですけど」
「……なんでこの二人はこんなに仲が悪いんだ」
「姉妹なんてそんなもんですよ」
「……」
決してそんなものではないような気もするが、ここは敢えてなにも言わないでおこう。
アリアは説明を続ける。
「そして二つ目の理由が、こいつもエルダードラゴンを狙っているからです」
「まあ、こんなところまでわざわざやって来るってことはそうなるか」
リズもネクロマンサーなのだから、例のネクロマンサー通信が届いているのだろう。その冊子にまんまとのせられてエルダードラゴンを狙いにやってくるところは、似たもの姉妹って感じだ。
「以上のことから、私がリズを助ける理由は皆無なんです」
と、アリアは言い切った。
それでもリズは、情に訴えかけるように抵抗を試みる。
「足を失ったあたしがここで死んだらどうするつもりよ!」
「あとで骸を回収して使役してあげます。便所掃除係として」
「鬼っ、悪魔っ」
「さあ、カイトくん。今度こそ本当に行きますよ」
「待って! 分かったわアリア。お願い、あと少しだけ話を聞いて頂戴!」
「なんですか、まったくもう……」
「こうなったら奥の手を出すしかないわね……」
リズはそんなことをぶつぶつと呟くと、突然地面に膝をつけた。そして、そのまま体を前に倒し、額を地面に擦りつけ、両手は頭の前で揃える。
恥も外聞もプライドも捨てた入魂の土下座だった。
「先ほどはたいへ~ん申し訳ありませんでしたっ。エルダードラゴンはアリアにお譲りします。ですからっ、どうかっ、あたしを見捨てないでください!」
ビッグベアーを失ったリズは、僕が考えるよりも追い込まれていたようだった。
「うわぁ……」
これにはアリアも、思わず呆れかえった声を漏らす。
こんなことをするのなら、初めから人当たりよく接していればいいのにと僕は思った。
アリアにしろ、リズにしろ、話に聞いた師匠にしろ、ネクロマンサーは変わり者だらけなのだろう。




