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Re:ライフ ‐勇者の働き方改革‐  作者: クラマ・ククル
第二章 鉱山崩落で人形遊び
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11.ガガールの抵抗


「待てっ」


 ナタリーはすぐにガガールを追いかける。

 僕もそれを手伝おうとするが、


「カイトくんダメです」


 動こうとした僕の手をアリアは握った。


「どうして?」


「一旦泳がせて下さい。今ここで捕まえては、すぐ衛兵に連行されてしまいます」


「ダメなのか?」


「この場は誤魔化せましたけど、改めて尋問されて取引関係を洗われては、私との接点が浮かんでしまいます。ですから、こちらが最初に捕まえて、ガガールの口封じをするんです」


「……こ、殺すのか?」


 僕が恐る恐る尋ねると、アリアはにっこりと微笑んで、


「私がそんなことをする風に見えますか?」


 と尋ねてくる。


「正直、そこのところは掴みかねているんだ」


 死を扱うネクロマンサーは、総じて生と死の常識が一般からかけ離れている。昔戦ったネクロマンサーには、「死は生へのスタートライン」とか言っていた奴もいた。

 アリアの答えはこうだった。


「無駄な殺生はしない主義です」


 その言葉を聞いて僕はほっとする。


「さすが僕のヒロインだ」


「だから、違いますって」


「だったらどうやってガガールの口を封じるんだ?」


「幻術魔法をかけて、ちょっとだけ頭をぱぁーにします」


「本当にちょっとだけで済むのか?」


「さじ加減を間違えたら、かなりぱぁーになりますけど、そこは悲しい犠牲です」


「……まあ、多少は仕方ないか」


 手違いだったとはいえ、鉱山を崩落させた男だ。むしろ、ぱぁーで済むならば御の字だろう。

 僕とアリアがそんなやり取りをしていると、パンッパンッ、と頭上の方から大きな音が聞こえてくる。


「火薬の炸裂音……花火でしょうか?」


「誰かに合図を送ったのかもしれないな」


 魔法が存在するこちらの世界では、火薬が使われる機会は少ない。爆弾は魔石式の物が主流だし、火薬を使うといえば、精々音を鳴らすことくらいだ。軍でも味方との連携をとる信号としてのみ使われていた。


「とすれば、あの衛兵さんが仲間に連絡をいれたとか?」


「それか、ガガールが賊を呼んだか、だな」


「もしカイトくんの予想が正しいととすると、町に賊が集まっちゃいますねぇ。非力な方も沢山いるのに」


 アリアは顎に手を当てて冷静に述べた。


「たしかに……そりゃ、マズいわ」


 追い込まれた人間はなにをしでかすか分からない。あんまり倫理観のなさそうなガガールなら尚更である。


「とりあえずここにいても仕方ありませんね。状況を確認しつつ、うちの子達と合流しましょう」


「そうだな、急ごうか」


 僕とアリアは鉱山管理所を後にした。



          ◇◇◇


 管理所を出ると、そこにはベヒーモスの骸が鎮座していた。その上には当然ミシェルが乗っている。


「うわっ、びっくりしたな。これごと町に入ってきたのかよ」


「はい、そうですけど?」


「住民は驚いただろうな……」


「皆さん楽しそうに踊ってましたよぉ~」


「それは絶対に見間違いだ」


 いつもの調子のミシェルに、僕は呆れ返る。

 アリアはベヒーモスを黒の霧に戻し、自分の体内へと帰した。


「なにはともあれ、あの衛兵さんには目撃されなかったようでなによりです。ミシェル、町の外にいた労働者達はどうなりましたか?」


「みんな町に戻ったと思います」


「でしたら結構です」


「これからどうするんですかぁ?」


 と、ミシェルがアリアに尋ねたとき、


「カイト殿大変でありますっ」


 ナタリーが管理所から出てきた。その隣にはガガールも姿もあった。彼は縄でぐるぐる巻きにされている。


「ありゃ、捕まっちゃってますねぇ」


 芳しくない状況にアリアはため息を吐いた。

 ナタリーはガガールを引き連れてこちらへやってくる。


「どうしたんだナタリー?」


 大変だと言っていた意味を僕が聞くと、ナタリーは、


「さきほどの花火の音は聞こえましたか?」


「ああ、聞こえたよ」


「あろうことか、この男が賊に合図を送ったのです」


 どうやら僕の予想の方が当たってしまったようだ。


「ははははぁっ――もうすぐこの町に賊の一団が攻めてきますよ? わたくしを捕まえて喜んでいる場合ではないでしょうに!」


 ガガールがとても悪い顔をしながら言った。


「くっ……だれも喜んではいないわっ。カイト殿一行にお願いがあります。どうか賊を退けるご助力を頂ければと」


 ナタリーは頭を下げ、その隙に僕はアリアを見た。アリアは無言で頷く。僕はすぐに返答する。


「もちろん進んで協力するよ」


「ありがたい!」


 感激するナタリーにアリアが声をかける。


「騎士様。その男はこちらで預かります。戦いの邪魔になると思うので」


「おお、それは助かります魔法使い殿」


 アリアは体よく、ナタリーからガガールの身柄を手に入れた。

 アリアの下へやってきたガガールは、アリアを睨み付け、


「覚えて――」


「スリープ!」


 バタンとガガールは倒れた。

 アリアの睡眠魔法である。

 突然のことに目を剥くナタリーに対し、アリアはにこにこと笑いながら、


「騒がれるとうるさいので、眠っていただきました」


「さ、さすがカイト殿に遣える魔法使いだ。さぞ高名な方なのでしょう」


 アリアは、はいともいいえとも言わず、ただにっこりとするだけに留めた。

 なんとも言えない雰囲気になったので、僕は空気を呼んで話を前に進める。


「ガガールは賊の一団って言ってたけど、一体どれくらいの人数が来るんだろうな?」


 僕とミシェルが遭遇したときは五人ほどの相手だった。その程度なら恐るるに足りないのだが。

 ナタリーは神妙な顔になり、


「おそらく二〇〇人はくだらないかと」


「そんなに!?」


 二〇〇人と言えば、王国軍の連隊に匹敵する人数である。それだけの人数がいれば立派な軍隊だ。

「二〇〇人くらいなら、カイトくんひとりでなんとかなんないんですか?」


 アリアが事もなげにそんなことを言う。


「無茶を言うな。自分ひとりだけのゲリラ戦ならともかく、住人を守りながら戦うんだぞ? 絶対に無理だよ」


 この前もそうだったが、アリアは勇者を抜本的に勘違いしている。


「自分も一度に相手できるのは精々三人が限度であります」


 ナタリーも申し訳なさそうにそう告げた。

 それが騎士としても人間としても妥当なところである。

 大勢で一度に押し寄せられては、面積的に受け止めることはできない。


「いくら強くても体が分裂できない以上は、どうしようもないな」


 すると、アリアはそっと僕に耳打ちをして、


「……ぶっちゃけ、私なら一人でなんとかできるんですけど。骸骨の兵士達を衛兵さんに見られたら困るんですよね」


 たしかにアリアなら骸骨集団を操って対抗できる。だが、それを衛兵のナタリーが目撃したら言い訳のしようがなくネクロマンサーだとバレ、取り締まりの対象になってしまう。


「……それは最後の手段にとっておきたいな。なにか別の方法があればいいんだけど」


 と、僕は頭を巡らせ、


「……そうだ。太郎達は使えないのかな?」


「……人形ですか。殴る蹴るくらいならできるでしょうけど、大した戦力にはなりませんよ?」


「……敵の足止めができれば、あとは僕達で片付けられると思う」


「……まぁ、カイトくんがそう言うなら、その案で行きましょうか。ただし、問題は衛兵さんに人形のことをどう説明するのかですが……」


「あ、あの、作戦会議でしたら、自分も会話に加わらせて頂きたく思うのですが……」


 僕とアリアがひそひそ話をしていると、ナタリーはしょんぼりと声をかけてきた。気持ちはよく分かる。仲間外れは寂しいもんな。

 すると、アリアはいい説明を思いついたのか、アイコンタクトで大丈夫だと伝えてくる。ならばナタリーへの説明はアリアに任せよう。

 アリアは言った。


「実はゴーレムがあるんです」




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