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Re:ライフ ‐勇者の働き方改革‐  作者: クラマ・ククル
プロローグ
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2.襲撃



 馬車に揺られて荒野を進む。

 怠い体を座席に預け、僕はただボンヤリと馬車の天井を眺めていた。

 さすが貴族出身である指揮官の馬車である。外装内装ともに利便性とは関係のない華やかな装飾が施されている。まるでおとぎ話の世界で、姫様が城の舞踏会へ向かっているかのような感覚だ。

 いくら勇者とはいえ、僕は一介の傭兵に過ぎない。こんな豪華な馬車に乗れる機会は滅多にないのだ。

 お金ってあるところにはあるのだなと思った。


「カイト様。もうすぐ村に到着します」


 前方にある小窓が開き御者から声がかかる。


「うん、ありがとう」


 僕がそう答えたときだった。

 小窓から見える御者の顔が急に強張ったかと思うと、彼は馬車を急停止させた。


「どうしたんですか?」


「骸の軍団っ」


 御者はそれだけを言い残すと、ひとりでは満足に動くこともできない僕を残し、どこかへ走り去ってしまった。


「ちょ、ちょっと!」


 骸の軍団とはどういう意味なのか?

 混乱する僕を余所に、御者と入れ替わるように小窓から顔を覗かせるのはまさしく人間の頭蓋骨。


「アンデッドかっ」


 僕は側に立て掛けていた剣を手に取り、刃を抜いた。

 本来骸骨が自律して動くなんてことはあり得ない。しかし、この世界には魔法が存在し、死者を自由に操るネクロマンサーがいるのだ。

 きっと、この骸骨もネクロマンサーの使者だろう。そして死霊術は人間にとって禁忌の魔法。友好的な相手ではない。

 馬車の扉が破られ、骸骨の群れが流れ込んでくる。

 僕は怠い体を無理矢理動かして、狭い馬車の中で剣を振るい迫る骸骨を斬り捨てる。

 が、数が多すぎる。それに今の僕には体力もほとんど残っていない。

 それ故に結末は火を見るより明らかだった。

 しばらくの抵抗の後。僕の体は骸骨達に絡みつかれ、動きを封じられてしまう。


「へぇ~、卑怯な腰抜けと聞いていましたけど、割と腕が立つようですね」


 床に横たわる僕の耳に少女の声が届いた。

 僕は頭を動かして声の出所を探っていると、黒いローブを着込んだ長い黒髪の少女が馬車へ乗り込んできた。

 彼女が声の主であるようだ。

 肌は雪のように白く、目付きは鋭い。見た目の美しさも相まって、どこか冷たい印象を感じされる少女である。

 少女は僕の傍までやってきて、


「あなたがラーゼンですね?」


 と、確認をとってきた。

 ラーゼンとはあの指揮官の名前だ。

 僕が彼の馬車に乗っていたので勘違いをしているのだろう。


「違う。僕はラーゼンじゃない」


 少女は嘲笑を浮かべた。


「しらばくれても無駄です」


「いや、本当に違うんだって」


「無駄な足掻きは止めて、本題に入りましょうか」


 少女は僕の言葉を無視して、馬車の席に腰を下ろす。そして、床に横たわる僕を足置きの代わりとした。

 文句を言おうとしたとき、僕の顔のすぐ横に片手に治まるサイズの魔石が落とされた。キラキラと光輝く結晶体である。


「弁明を聞かせて下さい」


 頭上から冷たい声が降りてくる。


「だから僕はラーゼンじゃないんだって」


「……はぁ」


 僕の三度の主張に、少女からはうんざりした雰囲気が伝わってくる。

 気持ちは分からなくはないが、僕だって嘘を言っているわけではないのだ。なんとかして誤解を解かなければならない。


「僕の話を聞いて欲しい」


「手短にお願いします」


 少女は辟易としたようすで話を促した。

 聞いてくれるようでありがたい。

 僕はまず自己紹介から始める。


「僕の名前はカイト・コバヤシ。しがない傭兵業をやっている」


「はいはい。巷で評判の勇者カイトですね。噂の勇者にしては骨がありませんでしたよ?」


 全然信じていない口ぶりだった。


「今は調子が悪いんだ」


「きっと永遠に調子が悪いんでしょうね」


「そんなことはない。調子さえ戻ればこんな骸骨の拘束なんか一瞬で振り解ける」


「……はぁ」


 早くも埒があかないと思ったのだろう。少女は少し考え込むと、にわかに席を立ち僕の傍に屈み込んだ。細長い指で僕の顎を掴み、顔が見やすいように僕の頭を傾ける。


「……」


「……」


 少女と目が合った。

 意識が引き込まれそうになる綺麗な瞳だった。そして、こんな骨まみれの状況でなかったら恋をしてしまいそうなほど可愛い。


「……確かに貴族育ちの顔って感じじゃあないですね」


「それって褒めてる?」


「気品を感じないってことですよ」


「……」


 褒められていないようだ。


「ですが、なんとなくあなたがラーゼンではない可能性は感じられました」


「それはよかった」


 喜んでいいのかどうかは別だが。

 少女は再び座席に戻って僕を足置きとした。


「でしたら、本物のラーゼンはどこにいるんですか?」


「ここから少し先の荒原にいるけど」


 隠す意味もないと思い僕は正直に答える。


「魔族と衝突した場所ですか?」


「そう」


「まだ前線に残っているんですね」


「そう」


「なら、なぜあなたがラーゼンの馬車に乗っていたんですか?」


「戦いの最中に体調が悪くなってね。ラーゼンの計らいで休息の為に近くの村に行くことになった。この馬車は彼が手配してくれたんだ」


「ですかぁー」


 気の抜けたような返事。

 少女が僕の言葉を信じてくれたのかよく分からなかった。




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