6.卒業(仮)
色々あったが、僕とミシェルは無事に魔石を持ち帰ることができた。
帰宅後アリアには、中央衛兵のナタリーが鉱山の視察に訪れていたことや、町の近くに賊が出没してることを一応報告する。
「怪我はありませんでした?」
アリアはミシェルの頭に手を置いて心配する様子を見せた。
「なんともないですっ」
と、ミシェルは健気に返事をした。
「アリア、僕の心配は?」
僕も僕もとアリアにねだってみる。
「カイトくんは勇者なんですから、矢で射貫かれようが、剣で刻まれようが平気でしょ?」
「勇者はアンデットじゃねぇよ」
残念ながら相手にされなかった。
「とにかく、懸念材料がいくつかあるようですね。しかし、仕事はきっちりとやりましょう。前金はしっかりと頂いているので」
この程度の問題では、アリアの商売は止まらないようだった。
そういう訳で、材料が集まった翌日から屍人形作りに取りかかる。
屍人形を複数同時に作るというのは、アリアも未だかつて行ったことがないようだ。よって、普段の作業場は狭すぎて使えず、急遽お城の大ホールで執り行うこととなった。
メンバーは、アリアはもちろんのこと、僕、ミシェル、アンジェ、フレデリカもお手伝いとして参戦する。
「さあ、みんなで人形遊びをしましょう」
アリアは笑顔で一同にそう告げた。
アリアの言う人形遊びは、とてもではないが楽しそうには聞こえない。
「では準備にかかります」
アリアはにわかにローブを脱ぐと、更にその下に着ている黒のワンピースまでも、するりと床に落とした。
「え、え、え!?」
これにはさすがの僕も驚愕である。
現在のアリアは、黒の艶めかしい下着を身につけているだけ。均等がとれた美しい身体を、惜しげもなく皆に披露している。
服の上からでは分からなかったが、胸の膨らみも予想以上にあって、僕の呼吸は自然と荒くなった。もしかして本日で卒業できるかもしれない。
「カイト様、すっごく嬉しそうな顔してますよぉ?」
そんな感じで思考が暴走気味の僕の表情を、ミシェルは覗き込んできた。
「そ、そ、そんなことはないっ」
「嫌らしいですねぇ」
「だって! 脱ぐんだもん! アリアが!」
僕は鼻息荒く主張する。もはや言い訳になっていないような気がした。
アリアは、やれやれと肩を竦めながら、
「ほら、カイトくんも服を脱いで下さい」
「やっぱりか!?」
「人形作りは体がべたべたに汚れるので、服を汚さない為です。それ以外の理由はありませんよ?」
とても冷静に説明された。
「ですよねー」
まあ、分かってはいたさ。
だとしても、作業の間は下着姿のアリアがずっと観賞できるというで、眼福天国なのは間違いない。
アリアは長い髪を一纏めにし、後ろで団子に結って自身の準備を整えた。
ミシェル、アンジェ、フレデリカの三人もエプロンドレスを脱いで下着姿になる。こちらは、可愛らしくもまだまだ未熟な体つきだ。でも、一番肉体年齢の高いフレデリカは、なかなかのモノだった――これ以上の感想は僕の名誉に関わるので控える。
下着姿の女子四人の視線が僕に突き刺さり、
「どうしたんですかぁ? カイト様、早く脱いで下さいよ」
ミシェルが代表して女子の総意を述べる。
ミシェルの指摘通り、僕は未だ服を着たままだった。
僕はもじもじとしつつ、
「やっぱり、脱がないとダメ?」
と、聞いた。
すると、アリアは半眼になり、
「なんでカイトくんが一番女々しいんですか……」
「だって恥ずかしいじゃないか……」
こっちの世界の生活が馴染んだからとはいえ、僕は元々シャイなシティボーイだ。学校のプールの授業で嫌々脱いだのを除けば、人前で自分の肉体を見せたことはないし、胸を張れるだけの自信もない。
さっきは勢い余っていたが、初夜は薄暗い中でと決めている。
そんな風に僕がごねていると、突然フレデリカが僕の隣にすっと立った。彼女は背伸びをし、僕の耳元で冷たく囁く。
「……カイト様」
「どうしたの?」
「……服が汚れるとします」
「うん」
「……その服って誰が洗うんですか?」
フレデリカの静かな問いに、僕は背筋を寒くした。
そうです、毎日従者の皆さんに洗濯をして頂いています。
僕はズボンのベルトに手を掛けた。
「脱ぎます」
「……はい。そうして下さい」